第51話 不気味
俺たちはベイロン領の兵士を説得で味方につけた後、巨大カエルに乗って領主屋敷に向かっている。
リーンちゃんが召喚したカエル様だ。ピョンピョン跳ねて移動するから正直怖いのだが、スピードは馬の何倍もある。
なにせ大きいからなあ……。
「が、頑張ってください。ゲコガミ様」
「ゲコッ!!!」
リーンちゃんが巨大カエルを応援するとするさらに加速。
正直落ちそうで怖い。なんかヌメヌメしてて踏ん張りがききづらいし。
そしてさらに言うならば、俺はいまラクシアとイリアさんにしがみつかれている。
「お、お、落ちるよこれ!?」
「あ、危ないですわよね!?」
二人とも足腰とか弱いから、なにかにしがみついてないとダメらしい。
ちなみに俺は普通に座っている。そうして巨大カエルはぶっ飛んでいき、無事にベイロン領主屋敷の前まで到着した。
「ゲコガミ様、ありがとうございます……!」
「ゲコッ」
俺たちがゲコガミ様から降りると、屋敷の門番たちが槍を持って構えている。
「い、偽りの王命を叫ぶ者よ! ここは通さぬぞ!?」
「俺たちは『双槍』と言われた傭兵だぞ!?」
だが明らかに震えている。彼らの視線の先は俺たちではなくて、ゲコガミ様であった。
高さだけで人の三倍以上はあるゲコガミ様だ。正直そこらのドラゴンにも劣らない体躯なので、そこらの奴が勝てるとは思えない。
そしてゲコガミ様も門番たちをジーッと見つめていた。
あ、舌伸ばして飲み込んじゃった……。
「リーンちゃん、飲み込まれちゃったけどどうする?」
「そ、そのうち飽きたら吐くと思います……たぶん」
たぶんというのが少し不安だが、そういうことにしておこう。
「よし! 屋敷に突入だ! ベイロン男爵と王子を絶対に捕まえるぞ!」
「任せて! 前に使役してたゾンビを起こして、屋敷を包囲させるから!」
ラクシアが叫ぶと同時に、地面からズブズブと魔物のゾンビが大勢現れる。
彼らは屋敷を完全包囲してしまう。
そういえばベイロン領は元々ラクシアの住んでた場所だから、ゾンビの名産地(?)でもあるのか。
なんにしてもこれで屋敷から逃げられる可能性は低そうだ。
「我の眠りを妨げたバカ子孫めがあああああああ!!!!!」
うわ以前の英霊ゾンビさんまでいるじゃん。
というか英霊さん、ベイロン男爵のご先祖様だったんですね。つまりラクシアにとっても先祖になるのか。
先祖の力を借りているといえば聞こえはいいな。実情はともかく。
「よし! 行くぞ!」
俺は身体の血を強化ポーションにして、鉄格子の門を無理やり捻って人が通れるほどの穴を作る。
そしてその穴から屋敷の庭へと侵入する。
「し、侵入者だ! 捕らえろ!」
「逃がすな! 捕まえた奴らは好きにしていいとの仰せだ!」
「女が三人……可愛がってやるぜえ!」
すると庭を徘徊していた護衛たちに見つかってしまった。
雰囲気からしてこいつらも傭兵の類っぽい。どうやらベイロン男爵は、屋敷の護衛に兵士ではなくて傭兵を雇ったようだ。
たぶん兵士が色々な意味で信用できなくなったのだろう。実際、裏切ってるから間違ってなかったのだが。
そんな傭兵たちだが一瞬で肉が膨らんで、破裂する直前の肉塊になった。
だが破裂しない。肉が膨張してそこで止まっている……?
「破裂する寸前で止めましたわ! 過剰回復なので、痛みを与えればいずれ元に戻ります!」
イリアさんが少し勝ち誇った顔で叫ぶ。
もはや回復魔法というより拷問系魔法っぽいな。
膨らんで動けなくなった奴らは放置して、俺たちは屋敷の中へと侵入。そして廊下をラクシアの先導で走っていく。
「こっちこっち! お父様の執務室はここだよ! あ、鍵がかかってる。鍵を見つけないと……」
ラクシアは扉を開こうとするがダメそうだ。
内側から鍵を閉められてしまったのだろう。だが鍵を探すなんて悠長なことはしていられない。
俺は足を強化して扉を思いっきり蹴りつける。すると扉は粉砕されて木欠になってしまう。
すると部屋の中には、床にうずくまったベイロン男爵がいた。
「ひ、ひいっ!? ら、ラクシア!? お、お前! 実の父親にいったいなにをっ……!?」
なんか余計なことに言いそうだったので、手刀を首筋に当てて気絶させる。
どうせこいつは小物だし、この反乱において大した役目は持てない。
「お父様……」
ラクシアが少しだけ寂しそうな顔をしている。まあ思うところはあるのだろう。
「ラクシア。後で王に頼んで話をする時間を作ってもらおう。まずは目の前のことに集中だ。いちおうは敵地だしな」
「う、うん……そうだね」
後は王子だ、王子。あいつはどこにいるんだ?
「なあラクシア。王子がいそうな部屋はないか?」
「応接室か客室、大広間のどれかじゃないかな」
「なら大広間から行こう。あの王子はバカだから広いところが好きそうだし」
ああいう輩は他人よりもいい場所にいたいから、広いところにいるだろうたぶん。
そうして俺たちはラクシアに案内されて、広場へと突入した。
――するとそこにいたのは、
「あら遅かったですね。私たちを捕らえに来たのでしょう? 待っていましたよ」
縄でグルグル巻きにされた王子と、真っ赤なドレスに身を包んだラトネだった。
この時、俺たちはまだ知らなかった。
「待っていただと?」
「ええ。ものすごく……楽しみにしていましたもの」
目の前にいる少女が、俺たちとは色々な意味で真逆の怪物であることを。
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