シルファの街

第5話 幼馴染との会話1

 ジェルーゴ王国領、シルファ宮殿を中心としたシルファの街は、かなり発展している。特に彼女たちが通う学校は上流階級の者が多くあり、そして、多くの騎士を輩出している実績を持つ。

 幼馴染の二人が集まるのは、いつだって一般区画にある喫茶店のテラス席だ。多少は寒い時期であってもスキルを使えば防げるし、目つきが悪い少女に似た背格好の女性は恨みを買うような仕事をしているため、店内だと暗殺の可能性を排除しきれず、嫌う傾向にある。

 珈琲とクリームソーダを持ってテラスへ出たマーナは、幼馴染のリミの背後に一人、店の周囲に二人いるのを横目で確認してから、珈琲を渡した。

「お待たせ」

「ええ、ありがとう」

「はふ……あれ、珍しい。リミもなんか疲れてる?」

「ちょっとトラブルがあったのよ。死者が一人だったのは幸運」

「死人が出るトラブルが、ちょっと……?」

「あんたこそ、愚痴でしょいつもの。……いつもの」

「二度も言わないでよう、大変だったんだから」

 大変だったんだから。

 それも、いつも聞くセリフだ。

「学校の先生だから、トラブルなんて学生たちのものでしょう?」

「そうそれ、ただの学生トラブルなら笑って済ます。いつもあるし、しょうがないし、何度もあるとさすがに頭が痛くなるけど――今回、あたしは部外者です」

「なに、巻き込まれてもいないの?」

「基本的にはね。でも、どういう対処をしたらいいのかが、わからない」

「はいはい、何があったの」

「よくあることなんだけどさ――いや、よくはないか。時期外れではないんだけど、特別枠で十一歳の子が二人、入学してさ」

「若いわね? 普通は十四から四年間でしょ」

「しかも祝福なし」

「――」

 神の祝福がない、つまりスキルが使えない。

 それが引っかかったが、マーナは気づいていない。

「そもそもうちの学校にさ、祝福のない子が通う方が珍しいわけ。そりゃお家柄で数人いるけど、それって実家の見栄みえとかで、本人はとっとと家を出たいとか考えてるのが大半なの。――で、ほかの子に言わせれば、手軽に見下せる相手ってわけ」

「……そうね」

「しかも十一歳、特例ともなれば、その対象になりやすい。モーリー家のご令嬢が突っかかるまでは、まあ、……悪いとは思うけれど、よくあることなのよね」

 この街には、上流区画も存在する。特に王宮の近くに屋敷を構え、それなりに派閥もある貴族たちだが――モーリー家もその一つ。

 よくあることなのだ。

 まだ若い子たちは、平民を甘く見る。そういう経験をして、世間に出た時にその平民がどれほど必要なのか痛感するのも、通過儀礼。

 よほど追い込みをしなければ、ある程度は教員側も黙認している。


 だが、今回は違った。


「学校の総合成績、四番手。モーリー家のお嬢様が、あろうことかスキルを使えない子に、たった一撃で沈められた」

「嫌な予感がする……」

「その上で、お付きの執事が全治四ヶ月――で、そこで終わらなかった」

「ちょっと」

「戦闘訓練の教員に対して、学生の管理不足の責任を追及。腕を一本折った状態で、もう一人の新入生がやってきて、教員側の錬度不足を言及――学園長へ、直談判。現状はこんなところ」

「待ちなさい……」

 頭が痛い。

 躰が重いと感じるくらいに、不調を訴えている。

「その二人の名前は?」

「へ? シルレアとキーメルだけど」

当たりジャックポット

 しかも、悪い方の当たり。

 迷わず、背後にいた一人を手招きで寄せる。

「はい」

「モーリー家へ人をやって、うちは関わらないと明言。文句を言うようなら、相手の返答を待たず、迷わず手を切って。今すぐ」

「わかりました」

 大きな組織を持つ身ともなれば、貴族の繋がりは持つべきだが、それでも。


 それでも、あの二人を敵に回すくらいなら、安いものだ。


「え、なに、なんなの?」

「もう詰んでる」

「……なにが?」

「モーリー家よ。裏の仕事を持ってる私たちは関わらないし、冒険者ギルドでも二人の名は通ってる。助力を求めるなら王宮しかないけど――たぶん、それが目的」

「王宮が? え?」

「王宮まで行ってしまえば、もう、この場所で彼女たちに手を出せる存在は、――いない」

「待ってって! どういうこと? 何が起きてるの?」

「聞くの?」

「え……」

「じゃあ教えてあげる」

「まだ言ってない。っていうか、リミが疲れてるのって、それ? あの子たちの?」

「最初はね、うちの〝荷物〟が盗まれたことが発端だったの――」

 時間は、少しだけさかのぼる。


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