第8話文化祭って楽しいのよね
今、私こと
私達の両手にはここに来るまでに挑戦してアトラクション手に入れた景品のお菓子やおもちゃで埋まっている。
・・・というか、私が持っているおもちゃも含めほとんどがアズマさんの取った景品なんだよなぁ。
彼女は射的や輪投げなど景品のあるアトラクションに参加する度に大量の景品をとり、その度に店員さんに青い顔をさせていた。
アズマさんのそんな姿はかっこよさ半分、店員さんへの申し訳なさ半分といった具合だ。
こんな数のおもちゃ達をどうするのかと聞いたら「半分あげるよ。こんなにいらないしね」と満面の笑みで言っていた。
ちなみにアズマさんはクラスの、私は部活のシフトがもうじき迫っているので、このお化け屋敷で一緒に周るのは最後になる。
これが終わると次に互いの休みがかぶるのは明日の午後になってしまうそうだ。
私がそんなことを考えているうちに自分たちの順番が来てしまった。
「ねぇ渡君。もしかして怖いの苦手?」
アズマさんは隠れて震えている私の顔を覗き込んでそう言った。
「はい」
私は正直言ってこういうのは大の苦手である。
小さなときはよく叔父さんとホラー映画を見て一緒に泣き叫んだ思い出がある。
叔父さんも怖いのは苦手なくせに私の反応が面白いと言ってホラー映画をつける。
その夜は決まって二人して廊下のトイレの前に布団を敷いて寝るのだ。
「そっかぁ、じゃあ手をつないでいこっか」
そう言ってニマニマとしたアズマさんから差しだされた手を掴む。
そしてそのまま中に入る。
中は薄暗く不気味な音楽もかかっているためとても怖い。
そう思っていると急に横から何かがとび出してきた。
それは落ち武者だった。
「くぁっをんjsxmkjsc!!」
私は怖さのあまり声にならない悲鳴を出してしまった。
アズマさんはそんな私を見て笑っている。
恐怖も冷めやらぬまま、また歩き出すと今度は上から何か降ってきた。
それは骸骨だった。
「~~~~~~~~~~~~~~!!!」
今度も声にならない悲鳴を上げてしまった。
しばらく歩いているとようやく出口についた。
そこで気が付いたのだがどうやら私はアズマさんと手をつなぐどころか。
両手でアズマさんの片腕を抱きしめていたらしい。
「あ、あの」
何か言おうとした私を反対の手で制すとアズマさんは
「いいよ、かなり怖かったもんね。しょうがないしょうがない」と言ってくれた。
とってもかっこよかった。
そのまま私たちは解散した。
同時刻・漫画研究部の出店:
そこには漫画研究部の部長である
売っているのは二種類。
部員たちが作った同人誌とアズマ=ウィリアム=ウェイトが作った漫画のキャラクターが描かれたクッキーである。
だがやはり二年前の事件が効いているのか、はたまた立地が悪いのか客足は少ない。
必然的にやることのない二人は会話をして暇を潰していた。
「なぁ昨今の主人公無双作品が席巻している今の世の中をどう思う?」
そう聞いてきたのは五十嵐だ。
その質問に馬飼は「ノーコメントで」と返した。
これに対して五十嵐は「じゃあ話題変えよう。ぶっちゃけこの漫画のヒロインって誰だと思う?」と言って手に持っていた漫画を馬飼に見せた。
馬飼は五十嵐をにらむと「その話戦争になるでござるよ」と返した。
そんな話をしているうちに新しい客が来た。
五十嵐は相手を見ると少し驚いたように目を見開くと「よう、君も来てたんだ」と言い、
その相手は「やぁ、五十嵐。とその子は後輩君?」と馬飼を見ながら言った。
馬飼はその相手を見ると五十嵐に小声で「あの。この方は?」
五十嵐は「あぁ、この人は君らの先輩だよ。例の同人誌を描いたメンバーの一人で一時期は『カウンセラー』もやっていた人だよ」
馬飼は「あぁ、この人があの」そう言うと相手の人物(性別?)は芝居がかった動作をした後に「どうもカウンセラーもやってました。ま、今の本業は喫茶店の店主だけどね。ちなみに書いてた同人誌は歴史科の
それを聞いて馬飼は目を丸くしながら「それ大丈夫なやつですか?」と聞いた。
相手は「普通に停学くらったよ」と言って笑っていた。
五十嵐はそんな相手に「それで?なんか買いに来たの?」と尋ね、
相手は「とりあえず」と言いながら全員の描いた同人誌を一通り買っていった。
それからしばらくして・漫画研究部の出店:
私が店のスタッフルームに行くと馬飼君が代わりに遊びに行く。
そうして店には私と叔父である五十嵐先生の二人が残った。
五十嵐先生は唐突に口を開くと「客寄せのためにちょっとこれ着てぐるっと行ってきてくれる?」そういって自分のカバンからコスプレの服を出してきた。
いや、服というのは正しくないかもしれない。
それは明らかに布面積より露出面積が大きくなるように設計されたとしか思えない布と言っても過言ではないものだった。
思わず学校内なのに「あの、これ何?」とタメ口で聞いてしまった。
五十嵐先生はイラストカードを出して「この漫画のキャラ」と言った。
私は思わず「これ、そもそも女性キャラですし、なんなら本編では出てきていないただの店舗特典ですよね?」とツッコんでしまう。
「そうだね」と五十嵐先生は一切悪びれる様子がない。
この人は甥が社会的に死んでもかまわないのだろうか?
そう考えていると店に客がやってきた。
その二人は片方は冬でもないのに膝まである厚手の外套を羽織り、マフラーを巻き絵本の魔法使いがかぶるような帽子をかぶっている男。
もう片方はTシャツにオーバーオールと首元にゴーグルを身に着けた長身の女。
その二人に私は「ハロウィンじゃねえんだよ。母さん」と言った。
母さんは「知ってるぜ。ほれ、この携帯カレンダー機能もついてるんだ」と言って豪快に笑いながら今日の日付が表示された携帯電話の画面を見せてきた。
「そんなの今時どの携帯でもついて。って、なにそれパカパカするやつなら見たことあるけど回るの?どこで買ったの、それ?」
「日本。確か十年ぐらい前だったかな。今でも現役だよ」
「父は?ねえ父については?」
「母さんたちはいつ帰ってきたの?」
「あぁつい3日ぐらい前にな」
そんなやり取りをしていると遂に父さんが爆発した。
「っおぉい!ツッコめよ!母さんと負けづ劣らずの個性の塊である、この父にツッコめよ!」
しょうがないので思ったことを口にすることにした。
「父さんお帰り」
「それだけか?いやそんなわけないよな?もっとあるだろ」
どうやら父さんは自分の子どもの言葉がお気に召さなかったようだ。
しかし本当にそうとしか思わなかったのでもう一度伝えることにした。
大事なのは相手に届くまで何度でも言うことだ。
「いや、何も」
「なんでだよ!」
記憶にある父さんはいつもこんな奇抜としか表現できない格好をしていた。
だから学校行事でも父兄の席はいつもそこに視線が集まっていた。
小中学校時代の卒業式もそのせいで皆学校行事の思い出の何割りかがあやふやになっていたほどだ。
そんなやり取りをしていると叔父さんが話しかけてきた。
「他の客の迷惑になるだろ?買わないなら他所行ってくれない?」
「わかったよ。買うよ。全く子供の時からそういうところは変わってねぇな、この守銭奴め。で?渡の描いたやつはどれよ?」
父さんがいかにもしぶしぶといった感じでそう言うと叔父は私の描いたものを指さす。
「これだよ。二百円ちょうど」
父さんは財布から小銭を出すと叔父に渡す
「はい、ちょうどです。これで渡と話せるんだよな?」
父さんからお代を受け取ると私の方を向いて
「あっちで久しぶりに話してきな。店番は私がやっとくから気にしないで」
店の裏側で久しぶりに家族が集う。
「にしても久しぶりだな。正月ぶりくらい?」
「元気にしてた?学校では上手くやれてる?」
私はそんな両親からの止まることのない質問に返事をしているうちに時間が過ぎて行ってしまう。
しばらくすると父さんは「あぁ~それじゃあ俺たちはそろそろ行くわ。クリスマスシーズンには帰ってくるな。それまで元気にしてるんだぞ?あ、そうだ忘れてた。これアフリカ土産の仮面な」そう言って私の頭を乱暴に撫でた後、見たこともない仮面を渡してきた。
扱いに困っていると今度は母さんが「しっかりご飯は食べてね。学校がつらくなったら行かなくてもいいんだから、自分の体を大事にね」そう言って私の頬を優しく撫でた。
そうして二人は去っていった。
不思議と顔が熱かった。
店に戻ると私の手にあるものを見て五十嵐先生が一瞬ぎょっとしたような顔をしてから「しばらく休んでれば?頬が赤い。落ち着くまで裏にいな」そう言ってくれた。おそらく
しかし私は店番をやることにした。
ちなみに仮面は店の前に飾ることにした。
同刻・学校グラウンド
「よーしこれでキャンプファイアーの準備は完了だぁ。皆お疲れ様」
(これでいいんですよね内藤さん?)
こうして初日の午前が終わった。
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