ノーゲーム・ノーライフ
@YuuKamiya
プロローグ
──『都市伝説』。
世に
──例えばそれは、『人類は月に行っていない』という都市伝説。
──例えばそれは、ドル紙幣に隠されたフリーメーソンの陰謀。
──例えばそれは、フィラデルフィア計画による時間移動実験。
千代田線核シェルター説、エリア51、ロズウェル事件に、エトセトラ──
火のないところに煙は立たぬという。
だが尾ひれがつくと、しまいには魚より肥大化して伝聞する『
つまるところ、根はあっても葉はない。
身も
だが別段それは、責めるにも不思議に思うにも
人は古来より、『偶然』より『必然』を好んできたもので。
そも、人類誕生が天文学的確率の偶然の産物だという、事実より。
誰かが人類を計画的に創ったと、本能的、経験則的に思いたがるように。
世界は
後ろで糸を引く誰かを想像することで、不条理かつ、理不尽な世界に、意味を
……少なくとも、せめてそうあって欲しいと願う。
故に都市伝説もまた、
──さて。
そんな天上を照らすほどの、
『事実だが都市伝説とされている』ものが含まれているのは、あまり知られていない。
──誤解なきよう、前記した都市伝説達が真実であると言うつもりはない。
発生した原理が異なる都市伝説が存在する、ということだ。
──例えばそれは、あまりに非現実的過ぎる『
そんな『噂』がここに一つ。
インターネット上で、まことしやかに
世界ランクの頂点を総ナメにしているプレイヤー名が〝空欄〟のゲーマーがいる、と。
「そんなはずはない」とお思いだろうか。
まさしくそう、誰もが思った。
そうして至った仮説は、単純だった。
当のゲーム開発スタッフが、身元が割れないようランキングに『空白入力』したのがいつしかブームになり、様式美となったもので、実在はしていないプレイヤーであると──。
だが奇妙なことに、対戦したことがあるという者は跡を絶たない。
曰く……無敵。
曰く……グランドマスターすら破ったチェスプログラムを完封した。
曰く……常軌を逸したプレイスタイルであり手を読むことが出来ない。
曰く……ツールアシスト、チートコードを使っても負かされた。
曰く……曰く……曰く──。
そんな『噂』に少しでも興味を持った者は、更に探りを入れる。
なに……話は簡単だからだ。
コンシューマーゲームやパソコンゲーム、ソーシャルゲームのネットランキングで1位を取っているのなら、そのゲーマーのアカウントは当然存在しているはずなのだ。
存在しているなら、実績を閲覧することも当然出来るはずだ。
だがそんな者がいるはずもなく──。
──と、鼻で笑って調べれば──それが
文字通り『無数』と表現されるべき数の
ただひとつの黒星もない対戦成績であるからだ。
──そうして
事実があるにもかかわらず『噂』は逆に非現実味を帯びていく。
『敗北実績を消しているハッカーである』
『ハイレベルプレイヤーが誘われるゲーマーグループがある』──などなどと。
こうして新たな『都市伝説』が生まれていくわけだ。
──だがこの場合『
何故なら彼はアカウントを有し、発言の場を与えられているにもかかわらず。
一言も発さず交流を持つこともなく。
一切情報の発信も行わない
素顔を知る者がいない──それが都市伝説化を加速させる要因でもある。
──なので。
──紹介しよう。
コレが、紛れも無く。
二八〇を超えるゲームで世界ランキングの頂点を飾り続け。
破られることのない記録を今なお打ち立て続ける伝説のゲーマー。
『
■■■
「………ぁー……死ぬ死ぬ……あ、死んだ……ちょっとぉ……早くリザってぇ~」
「……ズルズル……足でマウス…二つ、は、無理あった……」
「いいから早く、リザリザぁ──つかズルイぞ妹よっ! こっちはもう三日何も食べてないのになに一人優雅にカップ
「……にぃも、食べる……? カロリーメイトとか…」
「カロリーメイトなんてブルジョアの飯、
「……ズズッ……ん、はい」
シュヴァァァ……キュリンっ!
「お。あいよーさんきゅ~……つか、今何時?」
「……えと……まだ、夜中の八時……」
「朝八時を夜中とは、
「……さぁ……一、二──四つめの、カップ
「いやいや妹よ、徹夜した日数じゃなくてだな。何月の何日よ」
「……ニートの……にぃに、関係…ある、の?」
「あるだろっ! ネトゲのイベントの開催日とかランク大会とかっ!」
──と、ネットゲームに興じる一組の男女。
部屋の中で視線も合わさず会話する二人。
部屋は──十六畳ほどの部屋だろうか。中々に広い。
だが無数のゲーム機と、一人四台──計八台のパソコンが接続された配線は、近代芸術を思わせる複雑さで床を
ゲーマーらしく反応速度を優先させたLEDディスプレイが放つ淡い光と。
とっくに昇った太陽が遮光カーテンから落とす光だけがぼんやり照らす部屋で。
二人は言う。
「……にぃ、就職……しないの?」
「──おまえこそ今日も学校、いかねぇの?」
「……」
「……」
以後、二人の間に会話が交わされることはない。
兄──
典型的引きこもりを思わせるジーパンTシャツ、そしてボサボサの黒い髪の青年。
妹──
血の
それが『
──と。
かくこのように、知らないままにしておくのも。
夢があっていい都市伝説もまた、存在するのである。
■■■
──さて、ここまで『都市伝説』が形成される過程を解説してきたわけだが。
つまるところ、それは人々の『願望』であるとは、前記した通りだ。
この世界は
必然などなく。
偶然にだけ満ちていて。
理不尽で。
不条理で。
意味などありはしない。
それに気づいた者、認めたくない者が、少しでも世界を面白いものであればと。
切実な願いから生まれるのが即ち──『都市伝説』なのだ。
──では、ここで一つ。
そんなつまらない現実を少しだけ、面白くする手伝いをしよう。
即ち────『新しい都市伝説』を提供するとしよう。
──その行為に差し当たり、定型文として。また様式美として。
──こんな書き出しで、はじめてみようと思う。
──『こんな
あまりにゲームが上手すぎる者の元には、ある日、メールが届くという。
メールの本文には、
そのゲームをクリアすると────
■■■
「……も、むり……ちょっと、ねる」
「ちょ、待て! 今お前にオチられたら回復担当が──」
「……にぃなら、出来る」
「理論上はそうですね! 今、両手で操作してる二キャラに、お前が操作放棄した二キャラを二足で操作すればね!」
「………ふぁい、と」
「待ってっ いや待って下さい
妹が積み上げたカップ
そんな兄の悲痛な、だが覚悟の叫びを
──テロンッ、と。
パソコンから新着メールを告げる音が届く。
「……にぃ、メール」
「四画面四キャラ操作してる兄ちゃんに何を要求してるか知らんが、そんな余裕ねぇっ」
両手両足で、器用に四つのマウスを操作し。
一人四人パーティーを操り
「つかどうせ広告メールだろほっとけ!」
「……友達……から、かも?」
「──
「……にぃ、の」
「はは、おかしいな、
「……しろの……って、言わない、理由……察して…欲しい」
「じゃあやっぱ広告メールだろーが。つかお前、寝るなら寝ろよっ! 寝ないなら手伝えぇぇぇぇっ! あ、あぁっ 死ぬ、死ぬっ!」
兄──
繰り返すが──十八歳・無職・
自慢ではないが、彼女はおろか、友達すらいない
もっとも、それは妹──
「……うぅ……めんど、くさい」
だが白は、眠気に手放しそうになる意識を振り絞って、起き上がる。
ただの広告メールなら問題ない。
だが『新しいゲームの広告メール』なら、無視する訳にはいかないからだ。
「……にぃ、タブPC……どこ」
「三時方向左から二番目の山の上から四個目のエロゲの下ッ ぐおぉ足
ヒキコモリとニートが、タブレットPCを何に使うのか、疑問に思われるだろうか?
しかしそれは愚問と言わざるを得ない。
もちろん──ゲーム用だ。
だが、この兄妹に限って言えば別の使い方もしている。
無数のゲームのため、無数のアカウント、メールアドレスを持っている二人だが、基本的にゲーム専用機となっているパソコンにかわってこの端末で、30以上あるメールアカウントを同期し、メールを閲覧している。
効率主義と呼ぼうか。
はたまたアホと呼ぶべきか。
「……音はテロン……3番メインアドレスの着信音……これ、かな?」
異様な記憶力を発揮してメールをあっさり発掘する白。
と──どうやら本当に一人で四キャラ、リアルタイム戦闘で操って、討伐に成功したらしき兄の勝利の
──【新着一件──件名:『 』達へ】
「………?」
こく、と小首を
『
対戦依頼、取材依頼、挑発的な挑戦状──いくらでもあるのだが、これは。
「……にぃ」
「なにかな? 寝るといって兄ちゃん一人にゲームを
「……これ……」
兄の皮肉など聞こえていないかのように、画面に映るメールを兄に見せる。
「うん?──なんだこれ」
兄もそのメールの特殊性に気づいたのか。
「セーブよーし、ドロップ確認よーし」
間違いなく、確実にセーブされたのを確認して、五日ぶりに画面を閉じ。
パソコンからメーラーにアクセスする。そして
「……何で『
──確かに、ネット上で空白複数人説があるのは兄も知るところだった。
だが、問題は件名ではなく、本文にあった。
本文には、一言だけ、こう書かれ、URLがはられていた。
【君ら兄妹は、生まれる世界を間違えたと感じたことはないかい?】
「……なんだこれ」
「…………」
少し、いや、かなり不気味な文面。
そして見たことのないURL。
URLの末尾に、「.JP」などの国を表す文字列はない。
特定のページスクリプトへの──つまりゲームへの直通アドレスで見かけるURL。
「……どう、する?」
あまり興味はなさそうに、妹が問う。
だが、二人の正体を知っているそぶりの文面には、妹も思うところはあるようで。
そうでなければ、無言でゲーム機を
兄に判断を
「駆け引きのつもりか? まあ、ブラフだとしてもノッてみるのも一興か」
そう判断し、URLをクリックする。
ウィルスの類なども警戒し、セキュリティソフトを走らせながらURLを踏んでみた。
が……現れたのは、なんとも簡素な。
至ってシンプルな、オンラインチェスの盤面だった。
「………ふぁふ……おやす、み……」
「ちょちょ、待てって。『
一気に興味が
「……いまさら……チェスとか……」
「うん……いや、気持ちはわかるけどさ」
世界最高のチェス打ち──グランドマスターを完封したプログラム。
そのプログラムに妹は、二十連勝して興味が
ヤル気がわかないのもわかる。が。
「『
「……うぅぅ……わかった」
そうして、チェスを打ち始める
一手、二手と積み重ねて行く兄の対戦を、興味なさそうに。
いや、眠そうに。船を
が──五手、十手と重ねたところで。
五分の四閉じられていた白の目は開かれ、画面を凝視していた。
「……え? あれ、こいつ」
と、空が違和感を覚えると同時、白が立ち上がり、言う。
「……にぃ、交代……」
一切の反論なく、素直に
それは、妹が兄の手に負えないと判断したということ。
つまり、世界最高のチェスプレイヤーが相手するに足ると判断したということ。
入れ替わった妹が、手番を重ねて行く。
──チェスは『
『運』という、偶然が差し挟む余地のないこのゲームにおいて。
理論上、必勝法は明確に存在するが、それはあくまで理論の話。
十の百二十乗という膨大な局面を把握出来た場合の話である。
つまりは、事実上ないに等しい。
──が、それを「ある」と断言するのが白。
つまり、十の百二十乗の盤面を読めばいいだけの話と断言し。
事実世界最高のチェスプログラム相手に二十連勝した。
チェスは最善手を打ち続ければ先手が勝ち、後手は引き分けることしか出来ない。
理論上、そうなっている。
そのチェスにおいて、一秒で二億局面を見通すプログラム相手に。
先手後手入れ替えで二十連勝し、プログラムの不完全性を証明した、その妹が。
「……うそ」
と
──だが、一方で兄はその打ち方に違和感を覚えていた。
「落ち着け、これ、相手は人間だ」
「──え?」
「プログラムは、常に最善手を打つ。集中力も切らさないが、既存の戦術通りの動きしかしない。だからこそ、お前は勝てる。が──こいつは」
画面を指さして兄。
「あえて悪手をとって誘ってる。それを相手プログラムのミスと判断したお前のミスだ」
「………うぅ」
兄の言葉に、しかし妹は反論しない。
──確かにチェスの技量において、いや、ほとんどのゲームにおいて。
だがこと駆け引き、読み合い、揺さぶりあいなど「相手の感情」という不確定要素を見抜くことにかけては──兄は常人離れして
故にこそ『空白』──二人だからこその──無敗。
「いいから落ち着け、相手がプログラムじゃないんなら、なおのことお前が負ける要素はない。相手の挑発に乗るな。相手のひっかけや戦術は
「……りょーかい……がんば、る」
コレが。
─────………。
持ち時間制ではないその勝負は、六時間以上に及んだ。
徹夜五日目ということを、脳から
六時間──だが実際には数日にも感じられたその対局に。
そして、決着の瞬間が訪れる。
スピーカーから響く、無感動な音。
『チェックメイト』
兄妹の──勝ちだった。
「「───────」」
長い沈黙の後。
「「はぁあああぁぁああ~~~~…………」」
大きく息を吐く二人。それは呼吸さえ忘れるほどの勝負だったことを語る。
長い長い息を吐いたあと、二人は笑い出す。
「……すごい……こんな苦戦……ひさし、ぶり」
「はは、
「……すごい……にぃ、相手……ほんとに、人間?」
「ああ、間違いない。誘いにノらなかった時の長考、仕掛けた
「……どんな、人だろ」
グランドマスターを完封したプログラムを、完封した妹が、対戦相手に興味を抱く。
「いや、案外、グランドマスターかもよ? プログラムは正確だが人間は複雑だ」
「……そ、か……じゃあ……今度、
「竜王がネット将棋にノッてくれるかなぁ。まあ、考えてみようか!」
と、勝負後のエンドルフィンがもたらす幸福感に、にやけた顔で語る二人に、再び。
──テロンッ♪
というメールの着信音が響く。
「今の対戦相手じゃねぇの? ほら、開けてみろよ」
「……うん、うん」
と──しかし届いたメールには。
ただ一言、こう書かれていた。
【おみごと。それほどまでの腕前、さぞ世界が生きにくくないかい?】
そのたった一文で。
二人の心境は──氷点下まで下がった。
LEDディスプレイに向き合い、激闘を繰り広げた二人の、その背後。
無機質な光。パソコン、ゲーム機器が奏でるファンの音。
無数の配線が床をのたうち、散らばったゴミと、脱ぎ散らした服。
陽を遮断し切るカーテンが、時が止まったように、時間感覚を奪う空間。
世界から隔離された──十六畳の、狭い部屋。
そこが
──苦々しい記憶が二人の脳裏を
生まれつき出来が悪く、その
生まれつき高すぎる知能と、真っ白い髪と赤い
──両親にさえ見放されたまま他界され、ついには心を閉ざした兄妹。
お世辞にも楽しい記憶とは呼べない過去──いや、現在に。
黙って
その妹を俯かせた相手に怒りを
『大きなお世話様どうも。なにもんだ、テメェ』
ほぼ即座に返信がくる。
──いや、果たしてそれは返信だったのか。
答えになっていない文面が届いた。
【君達は、その世界をどう思う? 楽しいかい? 生きやすいかい?】
その文面に、怒りも忘れて妹と顔を見合わせる。
改めて確認するまでもない。答えは決まっていた。
──「クソゲー」だと。
……ルールも目的も
七十億ものプレイヤーが、好き勝手に手番を動かし。
勝ちすぎるとペナルティを受け。
──頭が良すぎる故に、理解されず孤立していじめられる妹。
負けすぎてもペナルティを受ける。
──赤点が続いて、教師に、親に怒鳴られても笑顔を保つ兄。
パスする権利はなく。
──黙っていればなおも加速していったいじめ。
──真意を読みすぎて、的を射すぎて疎まれる。
目的もわからず、パラメーターもなく、ジャンルすら不明。
決められたルールに従っても罰せられ──なにより。
ルールを無視した奴が我が物顔で上に立つ──。
こんな
「ちっ──胸くそ悪ぃ」
舌打ちし、なおも
──そこには、先ほどまで神の
落ち込んだ──落ちぶれた──社会的に見ればあまりに弱々しい。
寄る辺のない、世界に
イラついたことで、一気に襲ってきた疲労。
久しぶりにパソコンの電源を切ろうとスタート画面にカーソルを向けた兄の耳に。
テロンッ♪──と、再度メールが届く。
構わずシャットダウンしようとする兄の手を。
──しかし妹が止める。
【もし〝単純なゲームで全てが決まる世界〟があったら──】
その文面に、
【目的も、ルールも明確な盤上の世界があったら、どう思うかな?】
再び二人は顔を見合わせて、
兄はキーボードに手を置き。
なるほど、そういうことか、と。
『ああ、そんな世界があるなら、俺達は生まれる世界を間違えたわけだ』
──と、最初に届いたメールの文面になぞらえて。
返信する。
───
パソコンの画面に
同時、ブレーカーが落ちたように、バツンッと音を立てて部屋の
唯一──メールが表示されていた、その画面を除いて。
そして──
「な、なんだっ!?」
「……っ?」
部屋全体に、ノイズが走り始める。
家が
慌てて周囲を見渡す兄と、何が起こっているかわからずただ
そんな二人を
ついにはテレビの
そしてスピーカーから──いや。
間違いなく画面から。
今度は文章ではない──『音声』が返ってきた。
『僕もそう思う。君達はまさしく、生まれる世界を間違えた』
もはや画面以外の、部屋の全てが砂嵐に
唐突に、白い腕が生える。
「なっ!?」
「……ひっ──」
画面から伸びた腕は、兄妹の腕を
画面の中へ──。
『ならば僕が生まれ直させてあげよう──君達が生まれるべきだった世界にっ』
──………。
そして──。
白く染まる視界。
それが、目を開いたから──
久しく感じていなかった、網膜を焼かれる感覚故。
そしてようやく光に慣れつつある
そこは──上空だった。
「うぉおおあああっ!?」
狭い部屋から一気に広がった広大な空間。
──だが兄を叫ばせたのは、視界に広がった景色の異常さ故だった。
「なん────なんだこれぇえええっ!」
──どう見ても、何度見返しても。
空に、島が浮かんでいた。
目を、頭を何度疑っても、視界の果てで空を飛んでいるのは、ドラゴンで。
地平線の向こう、山々の奥に見える巨大なチェスのコマは、遠近感を失わせるほど巨大。
どう考えても自分が知る『地球』のそれではない景色。
だが、それよりもなによりも。
眼下に広がる雲から、浮遊感の正体が、落下している事実だと気づき。
自分達が今まさに、パラシュートなしのスカイダイビング中であること。
この
「あ、死ぬ」
という確信に変わるまで、兄が要したのは、実に三秒だった。
だがそんな悲愴な確信を打ち破るように。
高らかに叫ぶ声は、隣から聞こえた。
「ようこそ、僕の世界へッ!」
壮大で、異常な景色を背後に、落下しながら『少年』は腕を開いて笑う。
「ここが君達が夢見る理想郷【盤上の世界・ディスボード】ッ! この世のすべてが単純なゲームで決まる世界ッ! そう──人の命も、国境線さえもッ!」
ようやく状況を把握したのか、目を見開いて、泣きそうな顔で兄に抱きつく
「……あ、あ、あなた──
精一杯の、しかし
だが相変わらず楽しそうに笑って、少年が言う。
「僕? 僕はね~、あそこに住んでる」
言って、遠く──空も見た、地平線の
「そうだね、君達の世界風に言うなら──〝神様〟──かな?」
──だがそんなのは知ったことではなかった。
「それよりオイ、コレどうすんだよッ! 地面が迫って──うぉおおおお、白ぉッ!」
「……~~~~~~~~~っ」
白の手を抱き込むように、意味が有るかはわからないが、自分を下にする空。
そして声にならない声で、空の胸の中で絶叫をあげる白。
そんな二人に、神を名乗る少年は、楽しげに告げる。
「また会えることを期待してるよ。きっと、そう遠くないうちに、ね」
──そうして、二人の意識は暗転した。
──────………
「ぅ……うーん……」
土の感触。草の香り──気がつくと、空は、地面に倒れていた。
うめきながら起き上がる空。
「──な、なんだったんだありゃ……?」
──夢か?
そう思うが、空は口にはしないでおいた。
「……うぅ……変な夢」
と、空に遅れて目を覚ました妹が、うめく。
──わざわざ口にしなかったのに妹よ。
〝夢じゃなかったフラグ〟なんてたてないでおくれ。
そう思いながら立ち上がるが、どう気づかぬふりをしても足場は土。
見慣れない高い空、そして──
「うをああああ!」
自分ががけっぷちに立っていることに気づいて、慌てて後ずさる
──
そこには、ありえない景色が広がっていた。
……いや、違う。言い直そう。
空に島。
つまり、落ちてくるとき見えた、変な世界の景色。
つまり、夢オチは──なかった。
「なあ、妹よ」
「……ん」
それを、光のない目で眺めながら、兄妹は言う。
「〝人生〟なんて、無理ゲーだ、マゾゲーだと、何度となく思ったが」
「……うん……」
二人、声をハモらせて言う。
「「ついに〝バグった〟……もう、なにこれ、超クソゲぇ…」」
そうして──二人の意識は、再び暗転した。
■■■
──『こんな
あまりにゲームが上手すぎる者のもとには、ある日、メールが届くという。
本文には──短い文と、URLがはられているだけ。
そしてそのURLをクリックすると、あるゲームが始まる。
そのゲームをクリアすると─────この世界から消えるという。
そして──
異世界へと誘われるという、そんな『都市伝説』。
……あなたは、信じますか?
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