矛盾を超えて
アルマダ
第1話 武器職人と知恵者の出会い
戦国の世。国同士が争い続け、戦の火が絶えない時代の中で、人々は己の力を示すことにこそ価値を見出していた。
燕飛(えんひ)は、卓越した武器職人として知られていた。彼の作る「矛」は、並みの兵士でも簡単に鎧を貫くことができると評判で、その噂は瞬く間に各地へ広がっていた。王からも認められた燕飛の「矛」は、敵を恐怖させ、味方には誇りを与える象徴となっていた。しかし、燕飛はその矛が真に最強かどうかを疑い、矛の名にふさわしい「盾」を作ることを目指していた。
「最強の盾があれば、戦はもっと秩序を持ち、守りが勝る世界が訪れるだろう。」
そんな理想に取りつかれ、彼は昼夜を問わず盾の製作に没頭していた。
ある日のこと、燕飛が工房で鋼を打つ音が響く中、見知らぬ若い女性が現れた。名は凌雪(りょうせつ)。柔らかな物腰の中にも、芯の強さを感じさせる女性だった。
「燕飛様、あなたの作る矛と盾が評判だと聞き、遥々参りました。」凌雪はそう言って、工房に一礼した。
燕飛は彼女を一瞥し、作業を止めずに応じた。「何の用だ?私は忙しい。そちらの都合で来られても相手はできんぞ。」
「ですが、どうしてもお聞きしたいことがあるのです」と、凌雪は静かに、しかしはっきりとした声で続けた。「あなたの矛と盾が本当に最強ならば、あなたの矛で、あなたの盾を突き破れるでしょうか?」
その問いに燕飛の手が止まる。鉄の焼ける音が、工房の空気にじわりと染み入った。
「……何を言っている?」燕飛は少しの沈黙の後、顔をしかめて答えた。「私の矛は最強だ。何も貫けぬものはない。そして、私の盾もまた、何ものにも破られぬ強さを持つ。二つが相容れるかなど、くだらん問いだ。」
凌雪はふっと笑みを浮かべた。「その矛と盾、どちらもが真に最強ならば、一体どちらが勝つのでしょう?」
燕飛は答えを探しつつも、言葉を失っていた。彼は職人として「最強の武器」を生み出すことに信念を捧げてきたが、凌雪の問いかけはその信念に初めて疑念を抱かせるものだった。自分が誇りを持って作り上げた「最強の矛」も「最強の盾」も、相手があってこその価値なのではないか――そんな考えが、彼の胸をかすめる。
凌雪は言葉を続ける。「争いを続ける限り、どれほど強い矛や盾があっても、さらなる戦が続くでしょう。真に大切なのは、矛と盾を持たずとも平和が訪れること。そうではありませんか?」
燕飛はその言葉に動揺を隠せなかった。平和とは無縁の職人である彼にとって、彼女の言葉は理解し難いものだった。しかし、彼女の目には、決して揺るがない信念が宿っているように見えた。
「くだらぬ理想だ」と燕飛は言い放ったものの、その胸には一筋の疑念が残る。果たして「最強」とは何なのか、そして自分が追い求めてきた「武器の力」とは何を意味するのか。答えのない問いが、彼の心に深く刻まれていく。
その日から、燕飛と凌雪は、繰り返し対話を交わすようになった。燕飛は矛と盾の製作を続けながら、彼女の言葉の意図を探り始める。そして、それが自身の信念に大きな影響を与えることになるとも知らずに。
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