第99話 偽物と本物

成馬宮なるまみや城近郊 ク海潜水艇ムラサメ艦内


 夜が明けた。


 シロウは、皆を艦橋かんきょうに集めた。


「我が目標を示す。我はク海の底とやらに出向き、その栓とやらを抜く。」

 皆がシロウを見つめた。


「しかし、それは我ひとりではできぬ。どうか力を貸してほしい。」

 そう言って頭を下げた。


わらわ達は、そなたの首にぶらさがっておるのじゃ。死ぬまで一緒と決まっておる。」

 二人の龍姫はシロウの傍らに寄り添った。


「家老のワシが、若様を盛り立てぬわけがない。お供しますぞ、なぁチエノスケ。」

 グンカイは肩に止まっている銀色の鷲に目配せしながら笑う。

「未だ、行方の知れぬ家族がおりまする。早く元の生活を取り戻したい。そのためには、ク海など要りませぬ。」

 チエノスケは即座に言い切る。かすかに蜂の羽音が聞こえた気がした。


「ウチ、あの怖いのいなくなって欲しい。」

「サヤ様そうおっしゃるのなら、どこまでも。」

 藤色の娘と紅い娘には含むところはないらしい。


 皆の目がユウジに集まった。

 一瞬ビクッとするユウジ。


「・・・本物の海が見たいのです。」

 そう、生まれる前にこの腐れたク海という海の底に沈んだ本当の海。

「そなたも、海が見たいのか?」

 シロウは目を細める。

「はい、とても美しいものだと聞きます。」

 シロウはポンと膝を打った。

「我も同じよ。・・・アダケモノどもにくれてやるワケには行かぬ。」


「ユウジが行くならアタシも行くぅぅ!」

 お調子者の金色のローラが緑色の風とともに舞う。


「海ってたくさん知らない動物いるのかなぁ?楽しみだなぁ」

 好奇心の塊の少年ユーグには確かめる必要もないか。

 

「あはは、ク海に殴り込みとあれば、退屈はしそうにないのう!」

「もう、父上は!妾は旦那様の行くところにはついて参りまする。」

 魂座と璃多姫も相変わらずのようだ。


ートトント トンー

 太鼓の音が鳴った。

 皆が一斉に振り返る。


 明丸がモモの背で、でんでん太鼓を振って笑っている。

「そなたも行きたいのか?」


 明丸はご機嫌で太鼓を振っている。

「そなた、それが気にいったのかい?」

 シロウが聞くと明丸は太鼓をさらに突き出して振り、笑う。

「では、それはそなたにあげよう。」

「いいのですか?それは。」

 メルが心配した。そう、このでんでん太鼓は、シロウを刺した仇花から出てきた宝だからだ。

「いいも何も、大叔父上が託したものであろう。」


「・・・・ちょっと待って!ムミョウ丸!あんたどこからそんなものを持ってきたと?」

「!?」

 女性陣がモモの周りに殺到した。

 明丸を抱き抱え、その布団を剥いでみる。

「ああ、これは!」

 母親代わり達からは声があがった。

 おしめや着替えの底にあの銀色の皿、本、そして銃が布にくるんで入れてあった。

 本と銃はあの宝引の日に出展された宝である。

「あんの爺様、なんてものを赤子の布団に!」

 そそくさと宝は取り出された。

「てっぽうは、手の届かんところにしまってー。」

 女性陣のワタワタする声をよそにでんでん太鼓の音が鳴っていた。


「最終目標、了解。暖機運転を開始します。」

 露嶽丸つわたけまるの静かな声とともに、ムラサメの機関が始動した。


 今、ク海ニセモノの先のホンモノへの旅が始まる。

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