第59話 酒色と間諜
燃え落ちる虎成城 奥の奥 秘密の逃げ口 扉前
ジカイ
元の名を
64年前、当時の
しかし、長じてそのお調子者が災いしたか、
16歳のある日、城下の往来にて、取り巻きのひとりが若い娘にちょっかいを出した。皆、殿様の三男坊のすること、怖くて何も言えない。遠巻きに見守るだけである。
もう、すでに立派なゴロツキと成り下がっていたのだ。
皆が恐怖する嫌な空気が流れていた。
しかし、そのゴロツキども次々に素手でなぎ倒していく者がいる。
酔っているとはいえ侍、しかしまるで木の葉のように舞っていく
いきり立つ新三郎。しかし、瞬間、
「しっかりせんかっ!
重臣、
2年前、二人の妹が賊に攫われた際、兄とともにク海に踏み込んでくれた
この2年行儀見習いとして
新三郎が身を持ち崩した原因は、己の不注意で妹二人が
あの時の兄の泣き崩れようはなかった。
己がしっかりと妹達をみていれば、しっかり手をつないでいれば。戦の混乱の中、国主の家族が狙われることは多いとはいえ、14歳の少年の心は張り裂けんばかりであった。
「お前はそこまでかあっ!」
胸倉をつかまれ反対の
少年は自分の心の中にある憧れに近い感情に初めて気づくことになる。
夕日の中、水たまりが散らばる雨上がりの空の下、白い鶴のような肌、
その日以来、新三郎の素行は変わった。
しかし、しばらくして新三郎は聞き捨てならない話を聞く。
新三郎は、当時の
父の答えは小僧にはもったいない。片城のセガレは陽弧と釣り合う。あきらめよと。
二人の晴れ姿を見せられ、心は血と溶岩を合わせて飲んだ。
そして、30年前、虎成で一軍を指揮する将となっていた時、天巫女城が
しかし、新三郎は途中で部隊を止めてしまう。
原因不明の体調不良だという。
部隊を割く余裕はないし危険であった。時間にして二刻、しかし決定的な遅れであった。
結果、天巫女城はすんでのところで落ちなかった。しかし、正体不明の化け物の襲撃も同時に受け、城主、
結局、新三郎は間に合わなかった。
当然、新三郎は責任を問われた。一種の裏切りであるとまで言われた。父、
そこで、兄、現太郎があの手この手でなだめてくれた。最後には、新三郎の持つ
そして兄の元に預かりとなった。
しかし、天巫女城を見殺しにしたという評価はついて回った。切腹からお情けで生かしてもらっていると。
ある日、兄の現太郎がやってきて茶をともに飲みながらこう言った。
「新三よ。我のために外に出てみんか?」
その日以来、虎成城に新三郎の姿はなくなった。
髪を下ろし、僧の姿をした
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