第34話 大砲と小鹿


「あっダメです!」

 メルが再び現れて被弾した魔法陣を示す。

「どうした!」

 魔法陣が破られたのは分かっているが・・・


「1発で1枚破られてます!」

「はあっ?」


徹甲弾ブチキレに変えたわ!ハハッ!弾頭は殺意マジギレに変えておりますなぁ!」

 妙に嬉しそうな声に

「立ち位置おかしいからっ!楽しんでるでしょ!魂座殿あなた

 マチルダの文句にユウジも激しく同意だ。


「もっと魔法陣は出せないのか?」

 星の表示がきらめく。

「今の容量レベルじゃこの数が限界!」

 この大きさじゃこの数が精いっぱい。もっと小さくしたら・・・しかし。

「じゃあ、攻撃を受けた面の魔法陣の後方に連続再生成リスポーンせよ。縦深防御に切り替える!」


切り替えた瞬間、

 足元が浮く衝撃と轟音を感じた。

「うわっ、なんだ?」

 今度は縁を狙う繊細せんさいさはない。衝撃でずっと後方へ下げられる。


「門まで90m!離されたわ!」


「げ、大砲に切り替えやがった!おおう、弾頭は呪いかぁ。始末が悪いのお。」

 魂座殿はさっきから観客になってませんかと訊きたいところ。


「1発で10枚破られます!しかも面で!」

 メルの報告に驚きの揺れがみえた。


「嘘だろう?」

 再び轟音が襲う。

「ただし、射撃間隔は10秒あるわ!」

 マチルダの表示が揺れる。被弾面に近い所を監視観測しているからだ。


「こちらの再生成リスポーン速度は?」

「0.02秒です!」

「じゃあ問題ないか?」


 その瞬間

 空気を切り裂く弾の衝撃音に変わった。

「交互撃ち?」

 大砲の再準備チャージ期間は鉄鋼弾で狙撃してくるのか?


準備チャージ時間は違うできることをするようしつけておりまする。」

「教育方針が仇になってるっ!」


「大砲で下がらせて距離をかせぐつもりね。」

「メル、それじゃあっちもらちが明かないでしょ?こっちが再生してるんだから。」


「微妙に押し合ってる。」

 つまりは・・・・

璃多りたちゃんって、楽しんでるね。」

 星の表示がフリフリときらきらを飛ばしている。

 そして・・・この魂座殿ちちおやをみて思うに・・・

「飽きたから、次の技を見せてみいってとこか?」


「そのとおおりっ!」魂座が笑う。


「メル、各人に緊急脱出装置はあるのか?」

 ユウジの目が座った。

「ええぇ。ありますわよ。」

 わかった。では実行ペイルアウトしよう。


「じゃあ、魂座殿を・・・」

「さあて、仕事するかぁ!頃合いじゃ。」

「へっ?」


 右の隅で黒い兜の表示が揺れている。

「ワシも飽きてきた。参戦しますわ。」

 ・・・参戦ですか、またそれはそれで嫌な予感。


「ローラちゃん、ワシ用の魔法陣をひとつこさえてくれ。主殿の等身大がいい」

「うん、1個なら、いいよぉ。えい!」

 ユウジと防御している魔法陣の間に黒い魔法陣がひとつ出現した。


「主殿、状況を打開する。主殿を我が城にと言いつつ、いつまでも娘の座興につき合わせるわけにもいきませぬ。じっと拝見させてもらって、あなたが年相応ではあるが、頼りがいのある人物だとお見受けした。」


 武士にとって、家臣より「頼りがいがある」とは認められたということ。


 魂座にお茶ら気た様子はない。これが武将たる魂座の顔なのだろう。


「へっ、いきなり何を?]

「右手を出してくだされ。そう、手のひらを上に。」

 ユウジが右手のひらを上に広げると、魂座の黒い兜の表示がプルプルと振るえ始めた。

 

 黒い兜から何か出てくる。

 金色っぽい液体?

 いや形を成してきた。

 四本の足。

 兜の鹿の角の前建てが金色になる。

 所々黒い・・・鎧だ。


「あっ、これ鹿!え?小鹿だ」


 金色の角の短足の小鹿は黒き鎧を身に纏い、つぶらな目で主人をみつけると主人にめがけ空中を駆けてきた。


 そして、ユウジの手のひらに舞い降り親指にスリスリする。


「3秒だけ某に体を動かす許可を。」

 メルからは、技等の動きを宝たちに任せて実行することができることを聞いている。


「うーん。わかった。」

 嫌な予感はするけど、まぁいいか。ユウジの本領発揮である。


 この少年、嫌がる割には深く考えない。後でいつも文句を言うハメになる。


「では、失礼をば、つかまつる。」


 ユウジの体は、魔法陣の前で小鹿を手のひらに乗せたまま右手を空に突き上げた!


 ユウジと黒い魔法陣の周りで黒い雷がバチバチと弾けだす。


 魂座はユウジの右手を握りしめさせた。小鹿は光の粉となって消えさる。


「ぶっそおおおお!ごんっざああぁぁぁぁ!」


 ユウジはそう叫びながら黒い魔法陣の中にその右手を突っ込んだ。いや!拳を突き出した。


 突き出した右拳は魔法陣の中だ。回転しながら魔法陣が体の方へ進んでくる。


ーゴゴゴゴゴゴゴー

 

 そして、魔法陣の通過した右手首までは、黒い鎧、甲冑に覆われて魔法陣の反対から出てくる。


 黒く纏われる鎧の関節からは白い蒸気のようなものが吹き出る。


 どんどんと体が魔法陣の中に入っていく。


 腕は引き続き、二の腕、肩、足は踏み出した左のつま先からふくらはぎ、太ももと、魔法陣を通過した順に鎧を纏っていく。


 魔法陣が顔の前まで来た時

「前言てっかぁぁぁい。」

 ユウジは半泣きで首を振っていた。


「ワシの宝は鎧である。普段は小鹿の根付だけどね。」


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