第25話「遺影とこけしの家」
ある日、古びた家の調査を依頼された。依頼者によると、気持ち悪いこけしがあるため、撤去してほしいとのことだ。超常現象が起こっているわけではないが、片付けのために入るにも気持ちが悪いと言う。
俺は早速、その家を訪れることにした。
家に到着すると、外観は朽ちかけ、雑草が無造作に生えている。扉を開けて中に入ると、薄暗い廊下が続き、どこか重苦しい雰囲気が漂っていた。
仏間に向かうと、まず目に飛び込んできたのは長押に居並ぶ一族の遺影だ。なるほど由緒あるご家庭だったらしい。仏壇も大きく立派だが、金箔や漆は剥げかけている。
仏前の座布団にこけしが鎮座している。その存在は異様で圧倒的だった。
一体には中年女性の白黒写真が、
二体目には深い皺を刻んだ老年男性の白黒写真が、
三体目には、まだ小学校に上がるか上がらないかくらいの年齢の男の子の色褪せたカラー写真が、
顔だけ乱雑に切り抜かれて、セロハンテープで何重にも貼り付けられており、見る者に不安を抱かせる。
俺は、こけしを慎重に拾い上げ、依頼者に報告するためにオフィスに向かう。こけしは会社のゴミ箱にでも捨てればいい。超常現象は起こっていないのだから問題ないだろう。
引き上げて鞄から車のカギを探しているときに、つい女性のこけしと目が合った。
切れ長の目が物言わずじっとこちらを見据えている。先ほどは気が付かなかったが、女性は日本髪を結いあげ、切り抜かれた首のあたりに和服の襟が見えた。かなり古い写真だ。この写真の女性が今も存命だとはとても思えない。
老年男性は、80歳は過ぎていてかなりの老齢であることが察せられる。
異色なのは男の子の写真だ。カラー写真なのだから、古くても1970年代以降のだろう。なんとなくだが、写真の色褪せ具合から俺とそう歳は違わないのではないだろうか。――――この子が生きていればの話だが。
「遺影……?」
つい俺は口に出していた。なら遺影をこけしに貼り付ける意図とは?
たくさんの遺影の中にこの三人の顔はなかった。遺影として列せられた人々と、こけしにされた三人に明確な差異が存在していることに違いはなかったが、考えてもわかりようがない。
俺は肺にたまった澱みをため息とともに吐き出すと、車のエンジンをかける。ゴミ箱に捨てるのはやめだ。会社馴染みの寺に供養を頼むことにしよう。
オフィスに到着し、社長に報告する。
「調査してきた家の仏間にこけしがありました。そのこけしには顔写真が貼り付けられていて、確かに気味が悪かったです。でも、それだけです。仏壇と遺影、位牌の処分も考えないといけません」
社長は興味深そうに聞き入っていた。
「そのこけしたちは仏壇を拝まされていたのかもね。一族が絶えてしまって供養する人がいなくなったら、無縁仏になってしまうのだから」
死者が死者を供養し続けるのか。いつまでも供養し続ける側で、供養される側に行けなかった魂はどうなるのだろうと柄にもなく考える。
俺は生きいているうちにどれだけ母を供養してあげられのだろう。たまには仏壇に線香をあげに行かねば、と思うのだった。
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