第7話「床暖房が熱すぎる家」
今日も懲りずに訳あり物件に呼ばれている。今回の依頼は「床暖房がやけに熱すぎる家」だとさ。こんなのただの設備不良だろうと半ば呆れながら、その家へと足を運んだ。
家に到着してみると、築浅のモダンなデザインの一軒家で、見たところ特に怪しい雰囲気はない。
最近、内見に来た客が床暖房の異常な熱さに驚いてすぐに帰ってしまったらしい。試しにリビングの床暖房をつけてみたが、最初のうちは温かいだけで何の問題もないように思えた。
ところが、しばらくすると異常なほどに熱くなり始め、足元からじりじりと痛みが伝わってくる。温度設定を確認しても、適温に設定されているのに、床の熱さは止まる気配がない。さすがにおかしいと思い、床暖房を切ろうとしたが、スイッチが反応しない。
「冗談だろ……」
ボヤきながら床から離れようとしたが、その瞬間、足元がずしりと重く感じられ、まるで床に引きずり込まれるような感覚がした。俺は慌てて足を引き抜こうとするが、妙な圧力がかかって動けない。床の熱が一層増してきて、スリッパの裏が焦げ付くような匂いが鼻をつく。
それでも俺はふてぶてしく、落ち着いて足を引っ張り上げようと力を込めた。その時、床にじわっと何かが浮き出てきた。よく見ると、床板の隙間から赤黒い染みがじわりと広がってきている。染みが熱気とともに膨張し、何かの形を描き出していた。
それは、まるで人の手の形だった。
「なるほど、床暖房じゃなくて、ここに住んでる誰かの仕業ってわけか」
そう呟いて、俺は足を思い切り引き抜いた。異様な圧力が解けた瞬間、熱も収まったように感じた。俺は床を見下ろし、深くため息をついた。
「面倒な真似しやがって」
最後に床暖房の主電源を確実に切っておいた。
家を出た俺は、社長に
「床暖房の修理が必要です」
とだけ報告した。あの家の異様な熱さも、赤黒い染みも、もう俺の知ったことではない。
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