第9話 孤児院
というわけで、俺の聖女様のサポート役としての仕事と聖女館での暮らしが始まった。毎日のルーティンワークの中心となるのは、一日三回の祈りの時間だ。朝六時、昼の十二時、晩の六時の三回行われ、聖女様が
ってことは、聖女様は休みが全く無いということだろうか? さすがに心配になりミアに尋ねてみると、
「あー大丈夫よ、ちゃんとあるわよ休みの日。恩寵の力って貯めておけるから、本当は一日三回なんてやる必要ないしね。実際は必要ないけど儀礼的なものなのよ」
なるほど、やるのは儀礼的な意味が大きくてちゃんと休みは取れるんだと安心した。しかし、それでも負担は相当なものだと思うが、聖女様は常に笑顔を絶やさなかった。今も、朝の祈りの時間の後、慰問に訪れた孤児院で楽しそうに子供たちと触れ合っている。
「いつもこんな感じなのか?」
「ええ、そうね。子供好きだし、いつも結構楽しそうに遊んでるわよ」
小さな花畑で花冠を作ったり、子供たちと追いかけっこしている姿はまるで絵画のように美しかった。陽に透けた金色の髪が眩しく輝いて、目を細めずにはいられなかった。
「確かに聖女の仕事は大変だけどね、ここでは無理はしてないはずよ。むしろ、仕事の中ではいい気分転換になっている方じゃないからしら。ほら、普通に楽しそうだしね」
ミアの指差した先の聖女様の笑顔は、とても穏やかで柔らかなものだった。楽しそうに振る舞っているのではなく心から楽しんでいる様子で、見ているこちらまで嬉しい気持ちになってくる。そして、聖女様を見つめるミアの表情から大切に思っているのだということがよく伝わってきた。
「午前中は癒しだけど、むしろ今日の問題は午後からよねー。今と全く逆の人と会わないといけないしー」
「午後? 魔法省に行くんだっけ? 逆の人って?」
寄ってきた女の子の頭を撫でながら呟くミアに、俺も遊びに誘いたいのか服の裾をぐいぐい引っ張ってくる男の子をなだめながら尋ねる。
「あー、なんていうかー、会えばわかるわよ、会えば。色々面倒くさい人なのよ」
説明するのも面倒なのかミアが投げやりに答える。いったいどんな人なんだと急に不安になってきた。
「お、おーい、二人も一緒に遊びましょう?」
いつの間にか聖女様が大勢の子供たちに囲まれていた。少し困ったような聖女様の声に、俺とミアは顔を見合わせてクスッと笑った。
「はーいはいはい、お姉ちゃんも一緒に遊ぶわよー」
ミアが慣れた様子で子供たちの波をかき分けて、あやしながら進んでいく。気さくでしっかり者の彼女はまさにお姉ちゃんという感じだった。はしゃぎまわる孤児院の子供たちの姿が、いつも教会に来て一緒に遊んでいた子供たちと重なる。つい先日別れたばかりだというのに、なんだかやけに懐かしく思えた。
「よし、お兄ちゃんも遊ぶぞー!」
いろいろ気にかかかることはあるが、とりあえず今は遊ぶとしよう! 俺もミアに続いて子供たちの渦に飲み込まれていった。
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