第1話 赤い稲妻 ― 影②
―― アイツだ!
ビットは経験による洞察から誰が『頭』なのか瞬時に看破し、状況を的確に分析する。
自分が動くと同時に『頭』を守るべく、進路を
警戒すべきはこの二人。あとは取るに足らない
人型兵器の邪魔にならないように、
そのことを、ビットは良く知っていた。
ビットはわざと人型兵器の動線に入り攻撃を誘う。
向かって来るビットに対して、人型兵器が
それは、タイミングさえ合わせれば容易に
その太っちょの後方に、見える人影。
そこを陣取る本命の標的が、手にする刀を腰に
マウの挙動に意識を向けつつ、小太りの
そんな動きをしながらも、ビットは視界の端で刀を構える
研ぎ澄まされた静かな
―― こっちが間合いに入ると同時に抜刀する魂胆が見え見えだ。だったら、その呼吸に合わせて
そう考えるビットが攻撃を誘うようにマウの間合いに入った、
呼吸、起こり、
横に薙ぐ単調な軌道。
思い描いた通りの太刀筋にも
見切っていた。
確実に見切っていた。
見切っていた、はずだった。
来ると知っていれば、攻撃は
先を読み、攻撃を誘い、誘導して、そうやっていつも
なのに、その道理を
時が止まったように、目に映る全てがゆっくりと動く。
肉薄する鍛えぬかれた鋼の刀身。
黒く沈む
美しく輝く波紋の刃が、今まさに首を刈ろうとしている。
ビットの脳裏に死が
跳ね上がる自分の頭部が宙を舞い、世界がくるくると回る ―― そんなビジョンを見せるほどの確かな死が。
強烈な金属音と木材が砕ける音がビットの鼓膜を叩く。同時に弾き飛ばされ、彼は膝を突いた。
何が起こったのか分からない。ただ右腕が、強く痺れている。
長年にわたり戦場で磨かれた生存本能が、意志とは関係なく無意識に手甲をえた右腕を首元にねじ込んでいた。
数拍おいて砕け落ちる手甲。
呆然とする自分を
バラバラになった刀の
壊れた刀の持ち主に視線を移すと、その
少女の見えぬ手を斬り伏せた時点で限界を迎えていた刀の
幸運に助けられ、九死に一生を得たことをようやく理解するビット。
だが、安堵する間もなく後方から殺気を感じ振り向くと、そこには人型兵器の黒い影があった。
振り上げた鉄の腕が、ビットめがけて降って来る。
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