第22編 親切な人。でもいいのかな

1 親切な人。でもいいのかな


雨粒奏でるリズムの下、憂う君の瞳から伸びる糸に手が触れる。括りつけたビニール傘。顔も見ずに雨を駆け。



2 今日はいない?


悪寒と熱にうなされて、締め切る世界の中で不意に浮かぶ昨日の糸。差し込む夕日で赤く染まり。



3 ありがとう。大丈夫だった?


あの日と同じあの場所で、君はこちらを振り返る。笑顔と一緒に渡された傘はほんのりあったかく。



4 いいよ。別に一人くらい増えても


名前も知らない人のこと。気が付くと夜も更けて月明り。もしも明日会ったなら。



5 あれ? もしかして


もしかして、そう思って回った教室。見つけた君は一つ上。ほんの少し近づけた。



6 なんだ。結構家近いよ。


頭の中で考えた言葉はとめどなく。けれども君はここにいない。誰も知らない内側が真っ赤になって耐えられない。



7 ねえ、ひょっとして一昨日の


朝早く、息切れしながら早歩き、やっぱりいない。分かり切ってはいたけれど。息する肩と背中越し、聞き覚えのある声が。



8 じゃあせっかくだし今度一緒に行こうよ


今日も”たまたま”時間が合って。朝のわずかな道のりを永遠にしたいこの先に、足を踏み出す勇気を探して。



9 そうなの。最近付き合い始めたの


枕に顔を埋めてる。しっかり口を抑え付け、漏れない思いは心の中を跳ね回り、あの日のように雨が降る。



10 今度、彼氏候補紹介するよ


ありがとう。でも今はいい。君と一緒にいられるこの瞬間がただ愛おしくて、寂しくて。

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