現代へ転生してきた流れの賢者は、技術の進歩についていけませんッ!

@ikkyu33

賢者、現代へ転生してくる



光に包まれ、気がつけばそこは見知らぬ場所だった。


「……ここは、どこだ?」


目を覚ました男は、周囲を見回しながら呆然と立ち尽くした。彼の名はゼクス。かつて「賢者」として知られ、数百年に渡り魔法と知恵を極め、王国を導いてきた人物である。しかし、死の瞬間、突如として意識が途切れ、次に目を開けた場所は見覚えのない町の路地裏だった。


「魔法の気配が……まったく感じられない?一体、何が起こっているのだ?」


ゼクスは自らの周囲に注意を払いながら、困惑の表情を浮かべた。いつもなら感じ取れるはずの「魔力の流れ」が感じられない。それどころか、自らが知る魔法の痕跡すら、この場所にはまったく存在しないようだった。


歩き出すと、信じられない光景が目に飛び込んできた。空に向かって立ち並ぶ高層ビル、人々が手にしている光る板、そして轟音を立てて行き交う馬車もなく車輪だけで動く鋼鉄の乗り物。


「なんだこれは……?錬金術師がどれほどの鍛錬を積んでも、こんな道具は造れないはずだ。」


ゼクスはその場で立ち尽くし、現代の人々が日常的に利用している技術に圧倒されていた。自分の知識では到底説明できない機械や構造、そして道具の数々。そこに、彼の長い生涯で築いてきた知識と知恵が、まるで過去の遺物であるかのような感覚を抱かせた。


「まさか、私は……異世界に転生したのか?」


そう呟くと、スマートフォンを手にした少年が、ゼクスの奇妙な姿を見つめ、驚いた表情を浮かべた。ゼクスが着ている古風なローブと、威厳のある白髪に鋭い眼差しは、街中では異様に目立っていたのだ。


「おじさん……なんでコスプレしてるんだ?」


「コ、コスプレ……?これは私の正装だが……?」


少年の何気ない言葉にさらに混乱するゼクス。しかし、彼は気を取り直し、現代の知識を得ることが最優先だと感じた。


「少年よ、すまないが教えてくれ。この国は一体どこだ?それに、この光る板は一体なんなのだ?」


少年は驚きと不信の入り混じった表情でゼクスを見つめていたが、やがて苦笑し、スマホを掲げた。「これ?スマホって言うんだよ。電話とか、インターネットとか、いろんなことができる道具さ。」


「スマホ……インターネット……」


未知の言葉が次々と飛び出し、ゼクスの頭は混乱の渦に包まれる。しかし、この異なる世界で生き抜くためには、新たな知識が不可欠だと瞬時に悟った。


「なるほど、ありがとう。ならば私も、この『スマホ』とやらを手に入れねばなるまい!」


古の知識を持ちながらも、現代技術に戸惑いを隠せない賢者ゼクスの新たな生活が、こうして始まったのであった─。

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