面白い世界ができるまで
「ねぇ勇者?『リミットシールド』の中で見ていたけれどなぜ君は僕を復活させようとしたの?君は勇者なのに一体なんの目的で?今僕は非常に君に興味があるよ。そうだな、実は僕の大ファンだったりするのかな?」
「いいや、お前とは敵だ」
そう、因縁しかない大嫌いな男だ。
「敵……まぁ、勇者の君にとってはそうだよね。うん、それにしても不思議だ。人間なのにも関わらず魔王を圧倒する力持っている……それに、大きな呪いにかけられているなんて。いやいや、カイエルに仕掛けたのかと思ったけど現に君は協力を求めようとしているね?あ、ちなみにカイエルっていうのは―――」
本当に、よく喋る。返答する隙が中々無い。仕方ない、ここは割って入ろう。
「記憶の共有、それが俺の目的だ」
「……記憶の共有?うん、うん。そうか君は繰り返しているのか。理由は分からない……いや、カイエルが関わっているのは分かるけれど分からない。まぁ、分からないことは分からないから一旦置いておこう。記憶の共有だね?でもそれにはほんの少し力が……って、これに関しては心配の必要はなさそうだね。
「あぁ……悲しいことに、はなからその予定だったからな」
「うん、それじゃあいただきまーす。ごっくん!……うん不味いもう1杯。ってね?あぁ力が湧いてきた今ならこの世界を一瞬で滅ぼせる……ま、冗談だけど」
「笑えない冗談はいいから記憶の共有を始めてくれないか」
「うん、共有しようか」
▶ルシフェルの
記憶が流れ込んでくる。
……いや、記憶に流れ込んでいく?
待ってくれ、これ共有だからルシフェルの記憶を見ないといけないのか。
◇
「ルシフェル、それが貴方の名前。私はカイエル」
「ルシフェル……うん分かったよ。それじゃあカイエル姉さんよろしく」
「いや、姉も何も無いから。私たちはゴッツ様に作られた8番目、9番目の存在。ただそれだけ」
……カイエル、あのよく分からない空間で見た時と同じ姿だ。産まれた時からこうなのか。逆にルシフェルは全く違う。
身長は3mほどもあり、角は生えていない。
その代わりなのかカイエル同様の神々しい光を身体から発している。
肌も灰色ではない白、目も青く輝いている。
「ところで、僕は何をしたらいいのかな?」
「世界を創るの。ゴッツ様が観て娯楽となりうる世界をね。貴方にも分かるでしょう?
それが使命だと、感覚で」
「でも世界を創れなんて言われてもね。ほら僕って生まれたばっかりだから……カイエル、色々と教えてよ」
そんな教えを問うルシフェルに対して、カイエルはため息をつく。
「はぁ、少なくとも知識はあるでしょ?
第1世界パフェト、第2世界インサフェシェント、第3世界サード……とか、今ある7つの私達よりも前に創られた世界の知識は刷り込まれてるのだから」
「うん。……世界って不思議だよね。世代を重ねる度に能力が下がっていく。パフェトの頃は世界全体が美しく、そこに住まう生物はみな特殊な力、それこそ僕らに近い力を持っている。それに対して第7世界の地球では環境も、そこに生きる生物も堕落している。同じ種族同士で争うなんて特に愚かにも程があるよ」
地球……他は知らないけどこれは分かる。須磨太郎の生きていた世界だ。
「それはそう、確かに生物としては余りに足りない部分が多い。けど……だからこそ面白いの」
「……そうかなぁ?見てるだけでぐったりするけどなぁ」
「まぁね。けど今、会話に使ってる言葉は少なくとも地球の言語の1つの『日本語』なの。生物は全て脳波での会話もできないし、みんな力も弱い、その中でも更に劣った『人間』が支配する世界。
そんな1人で完結した生を送れない未熟な世界だからこそ、それを補うため『面白い物』が生まれたの」
「うーん、よく分からないや」
「そう、まぁいいわ。とりあえずあなたは私と一緒にこれから面白い世界を創るの。1人じゃなくて2人だからこそ生まれる世界をね」
「おっけー」
カイエルとルシフェル、こいつらによって生まれたのが俺の世界……なんだよな。
そしてこのまま行けばきっとルシフェルが堕天するまでをみることになるだろうが……これだと一体どれ程の年月の話を見ることになるんだ?
「―――さぁ、世界誕生ね。名前は私とカイエル、それとゴッツさまから取ってゴフェルね」
「うーん絶妙にダサい!流石カイエルだ」
「は?ダサけないでしょ?」
「ダサいよ」
「……あんた近いうちにゴッツ様から天罰受けるわよ!」
「はいはい天罰天罰、カイエルは日本にある迷信が大好きだねー」
……なんだ、距離感が急に近くなってないか?
「さて、それよりも長い年月をかけて創った世界の行く末を見ようよ?これから僕らのゴフェルは始まるんだ。いやぁ、楽しみだねぇ」
「ふふ、きっとすごい世界になるわ!ゴッツ様のための世界!」
「ゴッツ様のための世界って、相変わらずカイエルはゴッツ様至上主義だね」
「そうなるように創られたから―――って、それはあんたもよね」
「まぁ、うん」
間違いなく、近くなっている。つまり時間がいきなり飛んだ?いや、理屈はどうであれ長い話を見続けるよりはマシか。
それから、ルシフェルとカイエルのごく普通の会話と共に自分の世界の始まりを見せられた。
広大な大地と海、そこに2人によって生み出された魔物と人間、そして植物。
やがて繰り広げられる強大な魔物と人間との領地を、そして生を争う戦い。
魔物は強い力を、人間は知能を活用する。
そんな争いは最初、人間が不利であったが時代の流れと共に形勢は人間側に傾いた。
「形勢変わったね。カイエルの言う通り人間って面白いよ。うん、生き物の進化は胸が高鳴るし嬉しいね」
「でしょう?人間の脆い守りを補うために頑強な魔物を素材に武具を作り、相手が苦手とする魔法を研究して生み出す。これが人間が面白い理由の1つ、『適応能力』の高さ」
「そうだね。けど……魔物にも面白い変化が起こっているみたいだ」
「いくつかの魔物が、高い知能を持ち始めたわね……これは人間と同じ高みにいる事で起こった化学反応ってやつからしら?」
そうして生まれた知能の高い魔物はやがて『魔族』と呼ばれるようになり、世界はこの魔族よって再び支配されるようになった。
多くの魔物は習性として、より強い者に従う。
魔物、魔族の中で知能も力も優れた一体の魔族―――『魔王』それは人間には到底適うものでは無かった。
「あちゃあ……予想外の存在が出来たね。このまま人間が滅びたらそれはそれで面白い世界になりそうだけど、どうなることやら」
「そうね、魔王を倒す人間が現れるわ。
見て、多くの人間が諦め私達に救いを求め願うだけの中、諦めていない者が何人かいる」
「本当だ……死ぬのが怖くないのかな」
「怖くないわけないわ。ただ、世界のために、『勇気』を武器に立ち向かっている……そして、何年もの月日をかけてきっとこの人間達は魔王を倒す」
「それは……うん、面白いね。魔族が支配する世界よりもずっと面白そうだ!」
「えぇ、きっとゴッツ様も喜ぶわ」
そうして、後に世界を救った人間らは勇気ある者として『勇者』という称号を得た所まで見た所で、俺の意識は途絶えた。
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