定め2-1

「―――勇者よ!そなたに魔王討伐の使命を与える!」


 ……え?ここは確か……僕はどうして生きて?もしかして、ヨーの幻惑を見ているの?


「どうした勇者よ、魔王討伐は怖いか」


 分からない……どうしたらいいの?

 ……ダメだ、逃げないと―――


「……ごめんなさい!」


 ▶勇者は逃亡した


「一体なんなんだ……どうして僕は生きてるんだ……あの時、確かに僕は死んだはずなのに」


「―――いたぞぉ〜勇者だぁ!」


 うわっ、衛兵の人が……逃げないと!

 ここはきっとヨーの幻惑の中……

 捕まったら何か悪いことが起こるのかもしれない……


 そうして僕は逃げ回るが、いつまで経っても振り切れる所か、逆に僕を追う人は増えている。


「おい!アレ、勇者じゃね?」

「まじじゃん!勇者なのに魔王討伐の責務から逃げてる!」

「あんなのが勇者かよー」


 僕の事を逃げてるって……ふざけるなよ!なんでお前らにそんなこと言われないといけないんだよ!


「おいおい、勇者様よぉ!逃がさねぇぞ!」


 ▶勇者は囲まれた


 あぁ、ガムシャラに逃げてたせいでいつの間にか囲まれて……って―――


「エーさん?ビーさんにシーさん、それにディーさん、イーさん、エフさん、ジーさんも!皆が……」


 皆が……生きてる!


「あ?誰だおめぇ?」

「馬鹿!勇者だろ?」

「だけど、なんで俺らの名前知ってんだろうな?」


 あ……違う。この人達は僕の知ってる皆じゃない。やっぱり分からないよ。過去に戻ってきたの?それとも幻なの?あぁ、頭がおかしくなりそうだ。


「なんだ?コイツ普通に止まってるぞ」

「いいじゃねぇか!王様の所に連れてって金もらおうぜ!」

「やったぜ!勇者GETだぜ!」


 ▶勇者は捕らえられた


「勇者よ、改めて魔王討伐の使命を与える」

「嫌だ!」

「……そうか、嫌か、」

「もう……嫌です」


 これが、幻惑であろうと、奇跡が起こって過去に戻ったとしてももう嫌だ……また、死ぬ。殺される……そんなの嫌だ。


「やはりそうか……だが、魔王を討伐した暁には金貨100枚を褒美にやるぞ?」

「無理だよ……嫌だよ……そんなのいらない」

「勇者よ、ソナタが魔王を討伐しなければ数多くの街に被害が及ぶ。多くの人が死ぬ。そうなれば多くの人はソナタを恨むぞ?それでも逃げるか?」


 なんで……?勝手に『勇者』にされて、逆恨みまでされるの?僕のせいになるの?


「……ここに銀貨5枚と銅の剣がある。勇者よ、頼まてくれるな?」


 ダメだ……僕の意思は無視されてしまう。

 ならここは、しかないんだ。


「―――はい、やっぱり世界を守るために、魔王を討伐する旅に出ます」


 ◇


 どうしよう……街に出たのはいいけど本当に本当にもう一度旅に出るの?そんなの…… だけど行かなといけない。行けよ僕、『勇者』なんだから。


「お、さっきの勇者様じゃねぇか」

「あ、エーさん」


 街をフラフラとしているとエーさん達と出くわした。……この7人はいつも一緒なんだな。


「なぁ、可哀想だから魔王討伐の旅手伝ってやるよ!」

「あぁ!魔王討伐に同行すれば金に領地が貰えるんだからな!」

「どうだ、弱虫勇者様?」


 エーさん、ビーさん、シーさん……

 そうだ!もう一度皆と……


『―――doll bomb』

 っ……ダメだ!もし皆がまた爆発させられるなんで事になったら。皆が爆発する所なんてもう見たくないよ……


「ごめんなさい!」

「おい!逃げるのか!?」

「追えー」


 ▶勇者は逃亡した


 はぁ……また逃げちゃったなぁ。

 でも、逃げれてるんだよね……この時の僕はまだ弱かったはずなのに……もしかして、本当にもしかしてだけど、そんなこと有り得るだろうか……いや、それ以前に今の状況自体が有り得ない事なんだ。


 死んだと思ったら過去に戻って、なのに強いまま。これは、もしかすると神様が僕に与えた『チャンス』なのかもしれない。

 だからこそ今度は犠牲を出さないように1人で行こう……でも、不安だ。


『……』



 ―――それから僕は、前回と同じ様に魔物からドロップしたアイテムを売りお金を貯めながら旅を続けた。

 今回はたった1人なのだからこんなにお金があっても意味は無いのに。

 何をするにも1人で、前回のようにワイワイと騒いで旅をしていた時が懐かしく思える。

 代わりに、高い装備を躊躇ちゅうちょなく買えるようはなったけど……



 ……そういえばバニーの街、今度は1人で行くんだよね。あれ?でも、今回は早くバニーの街に着く訳だから王様も、ヨーもいないのかな?じゃあバニーの街よりも先に進める…?でも、ヨーみたいな危険なやつを野放しにするわけにはいかないよね……うーん。


 そんな事を考えつつも、バニーの街に着いてしまった。


「あらぁ、そこの坊やここらじゃ見かけない顔ねぇ?」

「えっ、あっ……すみません」


 どうやら無意識に僕の足はバニーガーデンの前に向かっていたらしく、お店の人に話しかけられてしまった……恥ずかしい。


「いいのよ?良かったらお店入る?」

「え、いや……」

「サービス、するわよ?」


 バニーのお姉さんが手を胸の前に持ってきて……パフパフと。


「こないの?」

「……行きます」


 お金はあるんだ……それにイーさんは息抜きは必要って行ってたから……


 ◇


『―――バーニバニバニ!』


 お店に入ると、聞いたことがある声が聞こえ……あれ?


「王様!?」


 ……どうして?だって今回は早く来たはずなのに……まさか、何日も連続で来ているとか?いや、それ以前に来るのが早過ぎるよね?

 もしかしてバニーさんに会うために馬車か何かでわざわざここに来ているのかな。

 ……こっちが命をかけて旅してるときに。


「む、これは勇者ではないか……勇者よ、魔王討伐を命じたのにこんな所に来るとはけしからん!」

「クスクスクス」


 は……クスクスクス?前回と同じだ……

 どうしてヨーがこのタイミングで!?


「皆、逃げて!」

「はぁ?どうした勇者よ」

「ヨッヨッヨッ!僕は四天王の1人、欲望のヨー!これでも喰らえー!」


 ▶欲望のヨーが現れた

 ヨーの幻惑攻撃、王様が欲望に囚われた


「……π、π!」


 くっ、またか。でも……今回は負けない!


 ▶勇者の急所乱打

 ヨーに特大ダメージ


「おかしいヨー?とっても強いヨー?でもぉー?くらっちゃいなヨー!」


 ▶ヨーの幻惑攻撃、勇者は欲望に囚われた


 あれ……?僕はさっきまで何をしていたんだっけ?


『おーい勇者様何やってんだよ!早く魔王倒するんだろ?』

『次の街でも可愛い女の子はいるかね?』

『早くこねーと置いてっちまうぞー』


「あ……エーさん!ビーさん!それにシーさんにディーさん、イーさん、エフさん、ジーさん!皆思い出したんですか!?……良かった、また一緒に旅を―――」


「ヨッヨッヨッ!勇者も欲望に塗れてるヨー!それじゃあ今から殺しちゃうヨー?

 爆発させヨーかな?じわじわと痛めつけヨーかな?」

「……そうはさせない」

「ヨッ!?お前は誰だヨ?」

「貴様ごときに名乗るな名は無い!」


 ▶???の蒼電一刀そうでんいっとう

 ヨーは消滅した



「―――あれ、エーさん達は?」

「少年、大丈夫だったか?」


 先程までエーさん達と一緒にいたと思えば、いきなり目の前には青髪の40代くらい?の男の人が立っていた。


「貴方は……?それに僕はさっきまで……」

「俺はソルド、そして君は魔物の術にかかっていた」


 ……あれは幻惑だったんだ。


「えっとソルドさん、その……ありがとうございました」

「ところで少年、良ければ君について行かせてくれないか?」

「えっ」


 助けて貰ったと思ったらいきなりこんな提案を……実はどこかで出会ったことあったのかな?


「いや、すまない。突然こんな提案、困惑するのは当然。……だが、魔王討伐をするのなら他に誰かいた方がいいのではないかと思ってな」


 ……もしこの人が居なければ僕はまた死んでいた可能性がある。やっぱり人が一緒にいたの方がいいのかな。でも……この人がエーさん達みたいに死んでしまったら……


「少年よ、何を抱えている」

「え」

「実のことを言うと、少し前から君の事を見ていたのだが魔王討伐とは別の何か、大きなものを抱えているように見える」

「……それは多分、僕が勇者だから」


 僕は『勇者だから』色々な物を抱えてしまっている。いや、それ以前に僕は『勇者』という称号を抱えているんだ。

 いや自分で考えておいて何を言ってるんだ、って感じだけど……多分このソルドさんが言う僕が抱えてるって言うのはこういう事……な気がする。


「そうか、ならば少年が背負うものを少しだけ俺にも背負わせてほしい。1人は……寂しいだろう?」


 ……1人は寂しい、か。実際ここまで来たけどやっぱり寂しい。少しくらい……欲を出してもいいよね?


「それじゃあ、よろしくお願いしますソルドさん」

「あぁ、よろしく頼む」


 ▶ソルドが仲間になった


































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