勇者様、抑えてください!
ゆずリンゴ
冒険の始まり
「勇者よ!ソナタに魔王討伐の使命を与える!」
頭には宝石の付いた冠、立派な白ひげに立派な椅子に座った王様が目の前に立つ質素な服の青年にそんな命を出す。
「ん、いいよ!」
「そうか、やはり駄目か……」
「いや、いいよ!」
「やはりそうか……だが、魔王を討伐した暁には金貨100枚を―――んん?今なんと言った?」
「だからぁーいいって言ってるの!このやり取り何回目だよ!」
質素な青年は乱暴な口調ではあるが王様からの命を受ける。
「オイ貴様!王に向かって無礼だぞ!」
青年の言葉遣いに城の衛兵が口を出してくる。
「というかこんな普通の青年が勇者だって?まだ鍛冶屋にいる男の方が強そうだぞ?」
別の衛兵が青年―――あらため勇者に対し煽りを入れる。
「え、バカなの?俺勇者よ?世界に選ばれたゆ、う、しゃ!分かる?」
「う、うむ、それは分かっておる。」
「こ、この無礼者!」
「いや、いい。他のものは口を出さないでくれ」
「そうだそうだー!」
勇者の物言いに衛兵らは皆内心怒りを覚るが王からの言葉を受けて気持ちを表に出すのを抑える。
「それで、お願いなんだけどさぁ」
「うむ、この銀貨5枚と―――」
「あ、それはいらんすわ!金とか装備とから要らないからさ……
そう口にすると勇者は王様に頭にある王冠を渡せ、と言わがばかりに手を差し出す。
「な、これを平民に渡すなど……」
「え、平民?我勇者なんですが?」
「こちらが引きさがっているからと調子に乗りおって……!」
「だってさぁ、こっちは命使ってるわけ、分かる?貴方の言ったおり心身消費してこれから冒険するの!だから今の内にチャージさせてよ」
「無礼、あまりにも無礼!」
流石の勇者の態度に王様も頭の血管が浮かんでいるのでは無いか、という顔になってきたが……
「あ、ごめん」
「む?謝るなら許して……」
「その椅子にも座りたい」
「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!」
「だからーその椅子に座りたいなって」
「んー、死刑!」
仏(?)の顔も3度まで、勇者に死刑宣言がされる。
「えぇい!そこを動くなこの無礼者!」
「先程までに働いた無礼!償ってもらうぞ」
「王の善意を無下にしやがって!」
「あー怒っちゃった?そっかぁ……やり過ぎたかなぁ……ごめんね?でもさ、リスクとリターンってあるじゃん」
「動くな!手を上げろ!」
「いやさぁ、君たちじゃ何回生きても俺の事殺せないよ?こっちはさ……ただ、椅子に座って王冠被りたいだけなの」
「黙れ!貴様の代わりなど探せばいるわ!」
「もういい!この場で首を跳ねてしまえ!」
「そうね、代わりいるのかもね。でも俺が魔王倒してあげるからさ、ね?」
そう言うと勇者は王冠と椅子を奪いその場から姿を消した。
「なっ!ワシの王冠と椅子がぁぁあ!」
「指名手配!指名手配だ!」
「だが動きが追えなかった……」
「あぁ、勇者ってのだけは本当なのかもな」
「この世界終わったか?」
◇
「んー、やっぱ王冠いいなぁずっと被ってみたかったんだよなぁ」
王冠を被り、椅子に座った勇者が城から離れた草原でそんなことを言う。
「椅子……いいなぁフカフカだぁ。うん!
じゃあ椅子と王冠売った金でパーティのメンバー集めよ!」
そうして勇者の旅が始まる―――
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