私の事が嫌いなライバルの嫁になりました~女騎士ですが【男主人公】らしいです~

茜色

序章

プロローグ

「『シオン・カーリー』よ、ソナタには『クロヴィス・フェン・シルヴァン』に嫁いでもらう」

「は?」


 膝をつきながら呆気とした返事をしたのは長く美しい青い髪をした若い女性だった。


 隣で同じように膝をついてる男も同じような表情をして目の前の王座に座る男を見ていた。


 ☆★☆★


 時は遡って数日前、【ミトラフィア王国】の辺境に位置する土地にある屋敷に1人の女性が馬車から降りてきた。


 青い髪を束ね、水色の騎士の制服を着た若い女性は荷物を手にしていた。

 扉をノックすると、老夫婦が笑顔で出迎えた。


「おぉ!お帰りなさいませお嬢様!」

「まぁ!みんな!お嬢様が帰ってきたわ!」

「えっ!ホント!?」

「わぁー!お帰りなさいませ!」

「荷物は自分が運びますよ。さぁ、ご家族との時間を楽しんでください」

「あっ!お前抜け駆けずるいぞ!」


「熱いお出迎えありがとう、それじゃあお願いするわ。お父様達は何処?」

「皆様旦那様のお部屋に集まっておられます。何でも『エドガー』様から良い知らせがあるようです」

「兄様も帰ってきてるのね、わかったわ。ありがとう」


 お嬢様と呼ばれた彼女は荷物を召使いに渡して執事が言った部屋に向かった。

 部屋について扉をノックし、許可をもらって入ると…瞬く間に視界が暗くなった。…ちょっとだけ苦しくなった。


「おぉ!お帰り!お前も帰ってきたんだなぁ、また綺麗になったな『シオン』」

「ちょっと抜け駆けしないで筋肉ダルマ!可愛いシオンを独り占めしないでよ!」

「そうそう、ズルいよ」

「んだと~!うるせぇ!これこそ長男の特権だ!」

「に、兄さま…苦しい…」

「っ!!すまねぇ!悪かった」

「だ、大丈夫です…」


 これまた熱いお出迎え、この光景を見ていた2人の男女も抱きつきたくてウズウズしてるようだ。

 ガタイの良い男が離れた途端、今度は大人2人に抱きつかれた。


「っ!!」

「お帰りなさいシオン」

「あぁ…無事に帰ってきてくれたんだなぁ…」

「ただいま戻りましたお父様、お母様…大袈裟ですよ。ちょっと遠征に行っていただけでそれは…」

「大袈裟で済むか!可愛い愛娘が飢えた男に混じって遠出など安心出来る訳ないだろ!お前に相応しい男がいれば安心が出来るのだがなぁ…」

「気持ちはわかりますが、騎士なのだから殿方と混じるのは仕方がありませんわ。仕事なのですから…でも酷い事はされなかった?傷は?身体を触られたりはしなかった?変な事もされなかった?」

「大丈夫ですよお母様、されてもされる前に返り討ちにしてやってますから」

「まぁ…」

「ガハハ!流石オレらのシオンだ!いや、それでこそシオンだ」


 心配性だが溺愛してくれる両親や兄達、使用人達…


 何を隠そう、彼女『シオン・カーリー』は『カーリー侯爵家』(別名『カティリエラ辺境伯』)唯一のご令嬢なのだ。


 彼女が生まれた時はもうお祭り騒ぎ、可愛い女の子が侯爵家に生まれたのだから…。

 やんちゃな男児3人を育て上げた2人にとって、愛娘は比べ物にならないくらい可愛い存在だった。兄3人も嫉妬する所か末の子で唯一の妹にデレデレ…家族皆がシオンを溺愛していた。この場にはいないが、離れた所で暮らす両家の祖父母も彼女を溺愛してる、誕生日になると女の子が喜ぶ物を沢山贈ってくる程…


 そんなシオンは現在18歳、騎士学校の在学中、王女『アンネローズ』に声をかけられ、卒業と同時に王女の護衛騎士に任命された。

 騎士学校は早くて14歳で入学出来て2~3年で卒業する。


 まさにシオンがそうだ。シオンは騎士の素質を持っていた事もあり、14歳で騎士学校に入学し、16歳で卒業した。

 そして16歳の若さで王女の護衛騎士になったのだ…天才でもこの速さで出世は出来ない。


 しかし騎士学校に入学するまでが大変だった。

 娘を溺愛する両親は剣など持たせたくなかった。

 兄達に混じってオモチャの剣を振るう姿を見て喜びとショックで気絶してしまう程…嬉しいようで辛いような…複雑な気持ちだったそうだ。

 それは兄達も同じだった。可愛い妹には怪我をさせたくなかったが、自分達の訓練に興味があったのか…それが仇となりシオンが騎士に興味を示してしまった。おまけに騎士の素質を持っていた…


 そばに置いておきたい、怪我をさせたくなかったがシオンのやりたい事は何でもさせたかった家族は渋々入学を許可した。

 そしたら…首席で入学して次席で卒業…天才だった。ちなみに次席で入学し首席で卒業したのは同じ人物。


 卒業したら令嬢としてのんびりさせようと思っていたが、王女に見入れられ護衛騎士に任命されるなど…とんでもない結果を残した、家族はシオンの結果を心から喜んだ。


 家族は拘束も強制もせず、シオンの好きな事をさせる選択をした。

 兄達のように辺境を守る戦士になるのも良い、侯爵令嬢として社交界に専念するのも良い、護衛騎士として国に尽くすのも良い…ただ元気な姿を見せてほしい、無理をしたり命を落とさないでほしい…それだけが家族の願いだった。



 王女の護衛騎士になって2年、シオンは美しい女騎士となって功績も残していた。

 女騎士であり侯爵令嬢である彼女を我が物にしようと多くの縁談が侯爵家に送られていた…もちろん全部家族によって断られ、手紙やプレゼントは燃やされた。


 シオンに相応しい者でなければ認めない、何処ぞの馬の骨などに絶対渡せない。

 侯爵家のガードは辺境砦のように固く強かった。


 シオンは生まれた時から家族に溺愛されて育った。親の育てが良かったのか、ワガママ娘や傲慢な令嬢に育つ事は無かった。礼儀正しく凛々しい令嬢へとなった。


 ★☆★☆★

 長男『エドガー』は数年前に結婚して第一子が生まれた。彼が帰ってきた理由は第二子を授かったとの事。妻と子供も来てるが部屋で休ませてるとの事、後で会いに行く事になった。


 孫の報告に両親は感激、ただでさえ愛娘が帰ってきて嬉しいのに…


 その後家族と他愛のない会話をして自室に戻った。既に荷物は運ばれており、制服を脱いでドレスに着替えようとした時に侍女がやってきた。


 その後浴室に連れていかれた。

 エステやマッサージを受けてうとうとしてると、いつの間にか自室のベットに横になってた。メイドの中に女騎士はいないが、侯爵家を守るために使用人として雇われた女戦士がいる。多分彼女達に運ばれたのだろう。


「……」


 昼前に着いて浴室に案内されたのが昼過ぎ、そして今…外は暗い…どうやら爆睡していたようだ。

 衣服は動きやすいワンピースを着せられていた。

 身体を起こして荷物を開けていた時、昼過ぎに来た侍女が来てダイニングホールに案内された。

 ホールには家族とエドガーの妻と子もいた。

 挨拶を交わし、皆で食事を楽しみながら良い時間を過ごしたのだった。


 ☆★☆★

 遠征後に与えられた休暇は2週間

 帰ってきて1週間後、シオンと父親『ヴェントゥス』は国王に呼ばれて王宮を訪れていた。


 そして冒頭の王命を下されたのだった…

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