第5話 久々


 この世界には『最果ての森』と言うものがある。


 『最果ての森』と言うのは、この世界の最果てにある森のことである。なんとも安直なネーミングだと思うのだが、わかりやすさで言えば随一だ。


 なぜ俺が急にこんな話をしたか察しのいい人なら気がつくだろう。

 そう、俺が一年間閉じ込められていた森こそ、この『最果ての森』なのだ。


 そして、さらに察しのいい人は気がつくだろう。

 閉じ込められていた。そう、『いた』なのである。


 もうみんな気づいたはずだ。

 俺はついに、ついに———あの忌まわしき森から脱出できたのである。


 長かった……本当に長かった。


 来る日も来る日も戦いと散策に明け暮れた1年間、自由とは程遠い日々だった。

 だが、それも今日で終わりだ。


 森から脱出した俺を止められるやつなんてもういない。


 俺は今日から自由だ。


「ふふふ、ふはは、ふははははぁ!!!」


 これからの人生、思いっきり楽しんでやるぜ!



 —————

 

 俺は国王になることから逃げるた為に一度死んだ。その時に不安だったのはやはり、仲間のことだった。


 なぜかというと、原作では仲間のそれからについては特に何も書かれてないのだ。


 なんなら、フェロ君のこともそんなに多くは書かれてない。

 ただ漠然と国王になりました、と書かれているだけであった。


 だからこそ、フェロ君が死んで何か悪い影響が出ないか心配だったのだが———今日街に来て、その心配はなくなった。


 ルーナは持ち前の支援魔法、この場合は回復魔法を生かして、怪我人を治したりしているらしい。

 リリーは冒険者として、たくさんの人を救っているそうだ。

 そしてアイリスは学園の魔法科の先生になって、日々教鞭を振るっているみたいだ。


 みんなが魔王を討伐した後、充実した人生を送っているみたいでとても安心である。


 俺?俺も今の人生は最高に充実している。


 何にも縛られずに、好きなことを好きなだけしている。最高だね。


 金なんてそこら辺にいる魔物を適当に狩って素材を売れば困ることなんてない。

 時々やりすぎてしまうこともあるのだが、それはご愛嬌である。


 さて、今日は魔物狩りの日だ。

 

 冒険者ギルドに行って適当な依頼でももらうとしよう———。


 



「すいませーん、この依頼をお願いします」


 俺は街にある冒険者ギルドで適当に依頼を選んで、受付の人に渡した。


「あ、ミドリさん!今日は依頼を受けにきてくれたんですね!」


「まぁお金が欲しいので」


 この人はレイナさん。冒険者ギルドの受付をしている人である。顔が大事な職業なだけあって、とても可愛い。

 

 ちなみにミドリというのは、俺の前世の名前である。流石に今世の名前を使うわけにはいかないので、偽名として利用させてもらっている。

 あと、念の為金髪だった髪も黒に染めている。

 ここまですれば俺をフェロに結びつける人はほぼいないだろう。まず、勝手に旅してただけだから顔を知ってる人もあんまりいないだろう、名前くらいなら知ってるかもだが。

 なんなら死んでることになってるし。


「ミドリさんは強いんですからもっと依頼受けてくださいよ〜」 


「はははっ、戦うのはもう、充分なんです。これまで沢山してきたので」


 本当に。もうこれまでで一生分の魔物を倒したと思う。これ以上はもう御免である。

 

 ………まぁ、ここら辺にいる魔物程度なら苦戦もしないから別にいいのだが。


「またまた〜、ミドリさんまだ20歳にもなってないじゃないですか〜」


「今は自分の好きなことをして生きたいんです。とりあえず、依頼をお願いします」


「あっ、少し話しすぎちゃいました。この依頼はワイバーンの討伐ですね。Aランク推奨なのですが……ミドリさんなら大丈夫ですよね」


「任せてください。それでは行ってきます」

 

「気をつけてくださいね〜!」


 俺は暖かい声援を受けながら、魔物狩りに行くのだった———。



 俺は、まだ知らない。お金を稼ぐために始めたこの魔物狩りのせいで、俺の正体がバレてしまう事態になることを—————。

  


 —————


 アイリスside


「アイリス先生、あの噂は知っていますか?」


「……噂?」


 ある日、学園の仕事をしていたら急にそんなことを言われた。


「そうです。なんでも、ここから東に馬車で3日ほど行った街にすごい魔法使いがいるらしいですよ」


「………ふーん」


 その噂は魔法に関することだったみたいで、少し興味が湧く。


「氷属性の使い手らしく、その戦いの後がまぁすごいらしいです」


「………どんなふうに?」

 

「聞いた話なので事実かは分からないのですが、あたり一面が氷に包まれるらしいですよ」


「………!ほんと?」


「えぇ、氷属性は扱いが難しいと言われてるのに、すごいですよね」


「……そう……だね…」


「まぁ、事実ならの話ですけどね」


 そう言って、同僚の先生は笑いだした。

 きっとその噂を信じていないのだろう。

 

 だが、私はそれどころではなかった。


「…………もしかして、フェロ?」


 一年前に諦めたはずなのに、そんなことありえないはずなのに、それでも、可能性があるならば————。


「行ってみる………しかない」


 

 ここに1人、真実へと辿り着きそうなものがいた。


 


 


 

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