8.2


「水泡! 火針!」

 フリッカはすぐに攻撃魔法を発動し、ムールビーを討伐した。しかしまだ、微かに羽音がしている。姿を捜していると、家の奥の上空から黒い粒状の塊が近づいてきていた。

「おいおい、まじかよ。あんな大量の魔物、見たことねえぞ」

「え、あれ、全部魔物なんですか?」

「ああ、ノエルに聞けば……って、あいつ、どこ行った?」

 魔物の数に驚いていると、ノエルがいなくなっていた。捜していると、駆け戻ってくる。そして手にしていた双眼鏡で魔物を確認した。

「ムールビーにルヴ、ホグヘートまでいるのか」

「三種類も!? ちなみに、弱点はみんな違うんですか」

「ムールビーは水で濡らして焼くか切る、ルヴは蠅のようなものだから自分の傷口を塞ぐ、鳥型のホグヘートは落下寸前に一時停止するからそこを反撃ってところだね」

「そんな、一つ一つに対処していたら時間が足りない」

 防御魔法がある。だから侵入されることはないと思うが、どれだけ保つかわからない。

 幸いなことは、まだ少し距離があるということだろう。そしてムールビー一体が先行していたように、魔物の動きにも違いがある。ムールビー、ルヴ、ホグヘートという順番でこちらへ近づいてきていた。

(一種類ずつまとめて討伐したら、間に合う? いや、そんなわたしの都合よく来てくれるわけがない)

 どうすればこの状況を乗り越えられるか考え、バルコニーへ出る。

「フリッカ!? 何をする気だ、危ない!」

「部屋の中からだと上手くできないと思うので」

 フリッカは飛行魔法で屋根の上へ飛ぶ。そして横に広がり始めた魔物たちを討伐するため、両手に四属性分の魔力を練り上げる。腕を広げ、その両腕の中に魔物たちを視覚的に収めた。

凍結粉砕フリューストリュッタ!!」

 フリッカの手から放たれた凍結魔法が、魔物たちへ飛んでいく。最前列のムールビーが凍結すると、後ろの魔物たちも次々と凍結していく。そして、フリッカがぐっと拳を握ると、魔物たちが粉砕した。

 フリッカは報告のためにバルコニーへ下りる。

「全て討伐できたかどうか、確認してきます」

「ちょっと待った」

 魔物が飛んできた方向へ行こうとしたら、ノエルに腕を掴まれた。

「もう倒してしまったから引き返せないけど、この襲撃はリレイオ君の作戦なんじゃないかな」

「どういうことですか?」

「確か、魔物は魔力の塊なんだよね? それを討伐しても魔力の粒みたいなものが集まり、また魔物になる。これは、その粒を意図的に発生させるためのものなんじゃないかなって」

 言われてみれば、確かにそうかもしれない。フリッカが精霊魔法で攻撃した魔力ですら、回収しようとした可能性もある。

「迎え撃てばリレイオを強くさせてしまうかもしれないなんて、どうやって対処すれば……」

「僕の家がリレイオ君にばれているとはいえ、ここまで真っ直ぐに向かってきたのは何故だろうね」

 バルコニーで相談していると、ヒューイが来客を告げる。部屋の入口に目を向けると、思い詰めたような顔をして胸の前で手を組んでいるルヴィンナがいた。

「ルヴィンナ!? どうしてここに?」

「リレイオが、計画を実行するっていうから……あぁ、もう始まっているのね」

 フリッカと目が合ったルヴィンナは、何もかも諦めたように手を下げる。その反応を見て、フリッカはルヴィンナに駆け寄った。

「なんでわかったの!?」

「なんでって、フリッカならわかるでしょ? 自分の目にリレイオの精霊魔法をかけられているって」

「え!? どういうこと!? いつも通り見えているよ!?」

「まぁ、そうね。あたしと違ってうっすらとしかかかっていないみたいだから、強く意識しないとわからないかもしれない」

 ルヴィンナに言われ、フリッカは自分の目に精霊魔法をかけられていることを踏まえて目を動かす。すると、寄り目をしたときのような視界になった。見え方が変わって気持ち悪くなり、思わずふらつく。

「フリッカ! 大丈夫かい」

「ありがとうございます……」

 駆け寄ったノエルに支えてもらい、足に力を入れる。一度意識できた視界はずっと変わらず、歪んだままだ。フリッカは両手に四属性分の力を練り上げる。

超回復薬ビクティグヴォード!」

 自分の目に向けて回復魔法を施すと、歪んでいた視界が鮮明になった。

「ルヴィンナ! これで、わたしの目にリレイオの精霊魔法がかかっていないかな」

「えぇ、そうね。靄も見えない」

「教えてくれてありがとう。でも、どうしてわざわざここまで来たの?」

 フリッカが質問すると、ルヴィンナはリレイオを助けたいのだと言った。


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