第10話 釦の男

「伊織さん。瞬と婚約してくれてありがとう。今日はお呼びだてしてごめんなさい。ええ、瞬はお仕事。伊織さんに、お話ししておきたいことがあったの。

 昔、洋裁の内職が忙しかった頃、瞬は、何でもかんでも口に入れる子になったの。針なんか危ないから、釦を端切れに縫い付けて、玩具にしてあげたのよ。

 釦をいじったり頬ずりしたり、すごく気に入って。それで、四六時中釦をいじっていないと落ち着かない子になってしまった…

 小学校には、ハンカチいっぱいに縫い付けたのを持たせてたんだけど、いじめられて。それからは服の裾や袖に縫い付けてあげたりして、試験も乗り切ったわ。

 でも最初の女性と、その… 裸だとね…

 そこで、シーツや毛布にびっしりと縫い付けてあげて。パジャマの表にも裏にもね。

 伊織さん。だから、夜のことは心配しないで。最初は少し気になるかもしれないけど、裸で釦に包まれるのって、そりゃ、とっても素敵よ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る