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その顔は辛そうで、だけど嘘かもって疑ってる自分がいるの。


「…少しは、信じてくれた?」


簡単には無理だよ。警戒心は解けない。


「…話すのは、これが最後だから。もう、私の事、待たないでね。今まで、ありがとう。じゃあ、さよなら…。」


背中を向けてこの場を立ち去り、あなたとの関係に終止符を打とうとしたのに。


「海果ちゃん。行かないで。」


低く弱い声で呼ばれて、私は立ち止まってしまう。


「失いたくない…。」


勝手だ。

そっちが捨てるつもりで近付いたくせに。


私だって失いたくなかったよ。でも壊したのは勇一さんだ。


振り返らない。

この恋は最初から無意味だったんだから。


「…じゃあ、1年後も、気持ちが変わらなかったら、信じてあげる。だから、その…1年後、この場所でまた、会うっていうのは、どうかな?」


1年後もずっと変わらずに好きでいてもらえるなんて、思ってないよ。でも、信じたいから。


「でも、その時にはもう、私の気持ちが変わってる可能性もあるけど。」


「分かった。1年後、この場所で会おう。俺はずっと海果ちゃんだけを想ってるから。」

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