第3話 勇者と大聖女

「もしかしたら魔王には子供が居てその子供の事を指しているんじゃ……?」


 魔王の子供。確かにありそうな事ではあるが、今も血を引いている人がいるかは分からない。

 あくまでも想像の範囲だったので、リョウは追加でこう言った。

「まあ、子供が居たら凄い話題になってそうだからいないのでしょう」

 そう言いながら私達は転生の石碑の部屋を後にし、駅までみんなで一緒に歩く。


「まあ、魔王の血を引いた人も魔力を見て勇者パーティーだって気づくかもだけど、この町にいる確率が分からないからな。」

 リョウとミサキはそう言うと、私達と別れて交差点で駅とは逆の方向へ向かう。

「また明日~!」

 ミサキは逆方向の電車に乗り、家である温泉旅館へと向かっていった。



 帰りのワンマン2両の普通電車。ボックス席に座った私達は、前世の記憶についてある話をしていた。


「そういえば大聖女と勇者って恋仲じゃなかったっけ」


 サクラがそう言うと、カナと私は顔を赤くする。


「そそそ、そうだったかもね」

 私は話を濁そうとするが、サクラは続けてこう言う。


「あの2人、魔王を倒したら結婚するって言ってたような気がするけどなあ。現代で言う『ガールズラブ』とか『百合』な感じだねぇ」


 私は恥ずかしがりながらこう言った。

「ちょっと、この話は電車を降りてから。ね」

 サクラはこう言う。

「ふふふ、分かった」


 駅に着いた頃には日が落ちつつあった。

 カナも同じ駅が最寄り駅だったので、歩きながらその話をする。


「まあ、そんな過去もあったわね」

 私はそう言いながらカナを見る。

「まあまあ、前世の話だから無理に私を好きにならなくても……って感じだけど」

 カナはそう言うが、サクラは少しカナと私の肩を当てようと近寄ってくる。


 前世での記憶を思い出すと、私は勇者パーティーで寝るときにいつもアルディナ……カナと同じベッドに入っていた。

 というか、個室の時でさえカナと同じ部屋で寝ていた。

 一線を超えた事が何回かある気がして恥ずかしくなったので、これ以上思い出すのはやめておこう。

 と思ったのだが、サクラはこう言った。

「隣の部屋から2人の”かわいい声”が聞こえた事もあったなあ」

 私が顔を隠すと、カナはこう言う。

「それ以上言ったら怒るわよ」

「すみませんでしたー!」

 サクラは少し棒読みで謝っていた。


「それじゃ、バイバーイ!」

 サクラは玄関前で手を振って家に入る。

 私とカナは小さめに手を振る。

「なんか、恥ずかしくなっちゃった」

 私はこう言って早歩きになる。

「ま、まあ。前世の事なんだからそこまで気にしなくたって」

 そうカナが言うが、そういうカナもまだ恥ずかしがっている。

「当時26歳だったから良かったの!そういう知識もあったし!」

 私は前世の年齢を引き合いに出し、思春期真っ只中の私達とは違うという事を言う。


「そうだけど、現世では普通に他の人の事好きになったりしてるでしょ!私は別にいいからいいから!」

 カナはそう言うが、私はこう返した。

「私、現世で誰も好きになったこと無いからなあ……」

 すると、カナは私にこう言った。

「じゃ、じゃあ。好きな人を見つけられるように頑張らないと!」

 恥ずかしかったのだろう。カナは、その後無言で信号を渡って家に向かっていった。


 その日の夜。私は10年ぶりに穏やかな夢を見た。

「セレフィーネ。私アルディナは、あなたの事を永遠に愛しているわ」

 そう私に言っているのは、赤い髪を束ねた女性。

 どうやら、前世で計画していた結婚式についての夢を見ているようだ。

 魔王討伐に成功した後、王都で行われる筈だった結婚式。

 私とアルディナは、大聖堂に入った。


 白い壁にドーム状の窓がついた天井の大聖堂には、勇者パーティーのメンバーであるリィラ、アリヴィス、セレスティア、イシェルに加え、多くの騎士などの姿があり、私達の結婚を祝福していた。

 私は、アルディナと向き合って誓いの言葉を交わす。アルディナの目は優しく、私の心臓の音が高鳴っていくのが分かった。

「それでは、誓いのキスを」

 そう神父が言うと、アルディナは目を閉じて静かに私に顔を近づける。 


 暖かい。私の頬にキスをしたアルディナは、訪れた安らかな時を過ごしていた。

 現実のように鮮明な夢の中。これまでの人生で一番幸せな時が流れていた。


「アルディナ……」

 目が覚めると、朝になっていた。

 私はアヤで、アルディナはカナという名前で人生を送る別の人物だ。

 でも、こんな夢を見ると、前世と同じくカナは”運命の人”なのだろうかと思った。


「なんで今更、こんな夢を……」

 私は涙を流しながら、前世の事を思い出し頬を赤くしていた。

 胸の鼓動が落ち着くまで、私は一人で何も考えられないでいた。

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