押し付けられた相棒
それから待つこと体感一時間、再び眠くなり惰眠を貪っていると208に起こされる。
「匠海さん、起きてください。転生先が見つかりました」
「お! それはありがとうございます」
「急なことで、新生児への転生はできません。その代わり次のいい条件である比較的若い個体で高い能力を持つ、亡くなってすぐの少年がいましたのでそちらの身体に転生していただきます」
「亡くなってすぐ……」
こんなところでも第二希望が発動するのかよ……。
聞けば、208の準備した体はアルスと言う十五歳の少年だったという。家督争いに負け、僻地を治めるように追放されていた移動途中で何者かに暗殺されたらしい。
「それは、死体に乗り移るっていう理解であっているのか?」
「そうですね。あ、個体の傷は癒やしますので、問題はありませんよ」
アルス少年の魂はすでに輪廻の準備に入ったので問題はないと208は豪語するが……なんか気が引けるんだよな。それに暗殺されているのも気になる。
「暗殺が当たり前な物騒な世界なのか?」
「地球でもある話ですよね?」
「俺の周りではそんなことなかったが……まぁ、世の中にはいろいろあるよな」
「個体アルスの身体自体は潜在能力がとても高いです。上手く鍛えれば、簡単に殺されることはないでしょう。残念ながら、アルス本人はそれを引き出すことはできなかったようですが……」
ポテンシャルが高い身体ならうれしい。
「その体、埋葬とかされていないよな?」
「死にたてホヤホヤですよ」
「ホヤホヤ……」
「暗殺者も誰も周りにいませんので、蘇っても問題はないです」
確かに生き返った瞬間また殺されたら堪らない。苦笑いをしながら208に尋ねる。
「その飛ばされる惑星はどんな場所だ?」
「空気と水があり人種が生きていける惑星を選びました。別惑星になりますと、燃え続ける惑星か面積の九割以上が凍った惑星になります。この二つの惑星では人では生きていけないので別の生物になります」
「人のまま転生できる惑星で頼む」
俺にはこの選択肢しかないようだ。アルス少年に感謝しながら頷く。
「匠海さんの輪廻が途切れた原因はこちらにもあります。ですので、今回は記憶も残る処置をさせていただき、特別サービスで追加の能力をひとつ授けます」
「能力?」
「はい。この世界は目覚ましい能力を持つ個体もいる世界です」
「それは、魔法……とかの話か?」
「はい」
魔法ってファンタジーの世界か。いや、それは普通に嬉しい。人の人生を途中から受け継ぐのは不安だったが、魔法があるのならば話は別だ。
「それは嬉しいな。だが、俺が目覚めた原因はなんだ?」
「目覚めた直接の原因は分かりませんが、輪廻が途切れた原因は――少々お待ちください」
急に現れたスコップで208が砂浜に穴を掘り始めた。
へ? この人、いきなり一体何をしているのだ?
深い穴を黙々と掘る208になんで穴を掘るのか尋ねようとすれば、208が大声を叫ぶ。
「いた!」
「な、何がだ?」
「今回、匠海さんの安らかな眠りを見守るはずだった者です」
208が摘まみながら見せてくれたのは、目覚めた時、最初に見たヤドカリだった。
ヤドカリが不貞腐れた顔で言う。
「そんな乱暴に摘まむなって。悪かったって。気づいたらそいつが起きていた。俺は何もしていないぞ」
このヤドカリ、喋れるのか!
208がヤドカリを見下ろしながら言う。
「それは嘘ですね。目覚めてしまった匠海さんにあなたがきちんと説明しなかったせいで、彼は輪廻の巡りを断ち切ってしまいました」
「あー、いや、それは俺だけのせいじゃないだろ?」
ヤドカリが消えそうな声で呟く。
確かにあれは俺のせいのような気がする。
「あなたは匠海さんと共に件の惑星へ渡り、彼が快適に過ごせるよう支援なさい。それがあなたへの罰です」
「いやいや。そんな殺生な」
「消滅を選びますか?」
208に鋭い眼光で睨まれたヤドカリは、貝の中へ逃げると小さく返事をした。
「一生懸命、お勤め頑張ります……」
そうやって俺の意志とは関係なく、このヤドカリをこれから向かう惑星へ連れて行くことが決定していた。別にいいのだが……なんだか不安だな。
「こんなのでも、元は匠海さんが向かう惑星の出身の者です。役には立つと思います」
「なんだか手厚いな」
「こんなこと滅多にないので、特別といえば特別です」
正直どんな惑星なのか情報も乏しい中、現地を知る連れがいるのは心強い。ヤドカリと目が合ったので頭を下げる。
「まぁ、よろしく頼む」
「こちらこそな」
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