【狂気ミステリーBL】2話【あらすじ動画あり】

◆お忙しい方のための冒頭動画はこちら↓

https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ


〝先生〟は何でもないことのように言った。たぶん、私を安心させるためだろう。しかし、これで混乱するなと言う方に無理がある。

目が覚めると、そこは精神病院の閉鎖病棟。自分は長期の入院患者で、自殺未遂まで起こしていた。

(……ダメだ。何も思い出せない)

どうやら、自分は本当に、記憶をなくしてしまったらしい。

その時、静かになっていた隣から、再び叫び声が聞こえてきた。

「お願いだっ! 声だけでもいい、聞かせてくれっ!」

思わず〝先生〟を窺う。相手は慣れているのか、まったく動じていない。

「あの声のことは気にしないでくれ。隣の房の患者は、少し…情緒が不安定でね。いつも、ああやって意味不明なことを叫ぶんだ」

「意味不明? 誰かを探しているみたいだけど」

「実在しない人物さ。彼は、妄想と現実を混同しているところがあってね、自分の頭の中で創り出したありもしない人を、ああやって探し求めているのさ」

(ありもしない人……?)

私は、向かいの壁を見た。

そこから聞こえてくる男の声は痛切で、とても現実にはいない人物を呼んでいる声とは思えなかった。

「——ちょっと失礼」

〝先生〟は席を立つと、外のスタッフに声を掛けた。

「君たち。〇二番を保護房に連れていってくれ。このままでは耳が壊れそうだ」

「わかりました。今回は何日くらい?」

「二日……いや、一日でいい。頼むね」

耳をすましていると、隣の鉄格子が開く音が聞こえてきた。ついで、ジャラリと鎖を引きずる音。たぶん足枷か何かだろう。

「ふ、はははははっ……!」

静寂を破るように、廊下から男の哄笑が届いた。先ほどの悲痛な絶叫とは違う、心底おかしいとでもいうような声。狂っているとしか言いようのない、人をどこまでも落ち着かなくさせる声だ。

「静かにしろっ! 黙って歩くんだっ!」

それでも男は笑い続け、やがて声は、重たいドアに吸い込まれるように消えていった。

「あの人はどこへ………?」

私は、詰めていた息を吐いた。

「彼が、気になるかい?」

〝先生〟の瞳は、何かを探ろうとしているかのようだった。

「いや、そうゆう訳じゃ……」

小さく首を振ると、〝先生〟はふっと頬を和ませた。

「あの患者は、保護房に行ったんだ。あそこは、病状の落ち着かない患者が行く部屋でね。周囲の喧噪から離れているから、静かに神経を休めてもらうには最適な場所だ。〝王様〟は、日頃から問題行動が多くてね、頻繁に行ってもらっている」

「〝王様〟?」

「あぁ、そうか」

〝先生〟は、今気づいたというように頷いた。

「〇二番とは、今の男の名前だよ。ここの患者はみな、部屋の番号で呼ばれることになっている。外から持ってきた情報に煩わされず、治療だけに専念出来るようにね。ちなみに君は〇一番だ」

〝先生〟は、私を指さした。

「でも、番号だけじゃ味気ないからね、ここにいる者にはみんな——患者もスタッフも含めて、あだなというか、通り名みたいなものがつけられている。私は〝先生〟。そして、この看護士は〝笑い犬〟だ」

〝先生〟は、後ろにいる看護師を横目で見た。〝笑い犬〟と呼ばれたその男は、にこりともせず小さく頭を下げる。

どうしてその名がつけられたのが不思議なほど、無表情で寡黙な男だった。だが〝先生〟の後ろにつき忠実に仕事をこなす姿は、主人に忠誠を誓った犬そのものだとも言える。

「そして、君は〝人形〟」

〝先生〟が再び、私を指さした。

「〝人形〟……?」

「そう。かつての君は、離人症——極度の感情鈍麻を起こしていてね。感情が、まったくと言っていいほどなかった。何をしても笑わず騒がず、驚くことも泣くこともない。部屋にいる時は、大抵ジッとしているだけで、何にも、誰にも興味を示さない。そんな君を見て、誰となくそう呼び始めたんだ。まぁ、君の顔立ちが人形のように綺麗だからという意味もあるけどね」

「綺麗……?」

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閲覧いただき、ありがとうございます!


↓現在、別サイト様で以下の2つのお話が連載中です。↓

週末にあらすじ動画のビュー数を見て、

増加数の多い方の作品をメインに更新したいと思いますmm


◆『不惑の森』(ミステリーBL)

https://youtube.com/shorts/uVqBID0eGdU


◆『ハッピー・ホーンテッド・マンション』(死神×人間BL)

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