第36話 人さらいたちとの激闘1

「ここですよ」


 さっき捕らえた青年が示した先には岩でできた洞窟のようなものが見えた。

そのとなりには木で出来た物干し竿に衣類が掛けられており、生活感がある。

 物干し竿はかなりの数があることから、四、五人程度じゃ効かなさそうなくらいはいそうだ。


 入り口付近には二人ほど見張り役っぽいのが寝ぼけた様子で突っ立っていた。

 ここら一帯は木々が多いことから向こうからはこっちを見つけづらいが、見張り側は開けているため俺たちは良く見える位置関係であるため、一方的に俺たちが見つけられている状況だと考えられる。

 もしこっちを見つけているとしたら、あんなあくびしながらのんきに会話しているわけないし。 


「あんたたちはこんなところをアジトにしているわけ?」


「うん。だって、ここが腰を据える拠点というわけでもないし。用を終えたら使わなくなるところをなんて、雨風しのげれば十分でしょ」


「……それもそうね」


 クローディアさんは納得したような様子を見せると、ここまで連れてきた青年にボディーブローを入れる。

 青年はグハッとうめき声をあげた後、地面に倒れこんだ。

 地面にうつ伏せになっているままは良くないと思ったのか、クローディアさんはその青年を木に腰掛ける形で寝かす。


 この人どうするんだろうとは思っていたけど……。こうするのが手っ取り早いか。

 とりあえず、騒がれてこっちのことがばれなくてよかった。うん。

 この人はこういうことをされても文句言えないようなことはしてきているだろうし。


「どうしますか?」


「そうね……。どこに捕らえられている人がいるのか分からないから、魔法をここから打ち込むわけにもいかないし……。正面突破でいいんじゃない?」


 あまりの脳筋戦法にもうちょっとないのか言いたくなってしまったが、俺も代案は思い浮かばないしなぁ。

 ……しゃあないか。


「それでいいと思います」


「ならとりあえず、ここから見える見張りはあんたがどうにかして」


 どうにかして、って……。まあ、クローディアさんって魔法はあんま得意じゃないらしいから、こういう遠距離からやるのは俺が適任か。

 でもこれって、らないとだめってことだよな。


「いけるの?」


 真剣な顔つきでこっちをじっと見つめてくるクローディアさんから、ここから届く魔法があるのかと聞かれているのではなく、殺す覚悟があるのかと言われているような気がした。

 いや、気がしたのではなく、実際に人を殺める覚悟を聞いてきているのだろう。


「クイックバレット」


 クローディアさんの返事に答える代わりに、弾速が早い以外にも音がほとんどしない魔法で二人いる見張りの頭をぶち抜く。

 そして、二人は頭から血を流しながら膝から崩れ落ちる。


 ……これが俺の始めての人殺しか。特別なことやドラマチックな何かがあるわけでもなく、あっさりとしたものだったな。

 それにしても、案外というべきか、やっぱりというべきなのか、妙な緊張はあったけどあまり動揺はしていないな。殺すことに対してあまりためらいもなかったし。

 自分で手を掛けるのは初めてだけど、人の死をある程度見るような世界で生きてきたからなのか、俺が知らないやつがどうなったとしてもどうでもいいと思っている冷たい奴だからなのか、それとも犯罪者相手だったからなのか。

 まあ、この世界に生きてきたとしても殺すことにためらいがある人はいるだろうし、俺の性質たちなんだろう。


「突入するわよ」


 ……倒れている死体を見ながら、こんな感傷に浸ってる場合じゃないか。


「はい」


 こっちをじっと見ていたクローディアさんは俺の返事を聞くと、おそらく敵アジトである岩の洞窟に向かっていく。

 俺も辺りをちらちら見まわしながらクローディアさんについて行った。


「結構深そうね」


 洞窟の入り口まで近づいてみたが、クローディアさんの言う通り奥が見えない。


「中にいるんですかね」


「でしょうね。さっきの奴が嘘をついていないのなら」


「こんなおあつらえ向きな仮初の拠点になりそうな場所ですからアジトであったとしてもおかしくなさそうですけど。見張りみたいなのもいましたし」


「そうね。なら」


 そう口にした後、クローディアさんは目を閉じる。

 なんとなく何をしようとしているのかを察した俺は、クローディアさんの集中力を乱さないように口を閉ざす。


「人の気配がするわね」


 人、いるのか。

 というかやっぱり気配察知みたいなことが出来るんだな、クローディアさん。

 さぼろうとして隠れていても、俺のことを見つけてきたのはそういうことが出来るからだったのか。


「何人いるかは分からないけど、そこそこな人数がこの中にいると思うわ」


 複数人か。

 それって捕らえられている人が多いのか、盗賊自体の数が多いのか、それともどっちもなのか。

 この場合、人質の数が多い方がありがたいのかな?いや、人質が多い方がいろいろと動きづらいか。

 ということは人質がいないで盗賊自体の数が多いってのが一番ましな展開ってことか。

 

 人質を守りながら戦うみたいな展開は勘弁してほしいなと思いつつ、俺たちは洞窟の中へと入っていく。

 入ってすぐは暗くてほぼ何も見えなかったが、少し進むと壁に松明が掛かっていて辺りを見渡せるようになる。

 見渡せるようになるといくつもの横穴があり、少しのぞいてみると敷布団のようなものと衣服が転がっていた。


「やっぱり人はいそうですね」


「そうね。……黙って」


 クローディアさんによる指示の後、かすかに音が聞こえてき来る。先に進むにつれて、それが男性の笑い声や叫んでいる声だということが分かった。

 若干何をしゃべっているのか聞き取れる距離になってきたところで、進む先の光が強くなる。

 そして開けた場所が見えてくると、かなり広い部屋に十人以上の昼間から酒を飲んで大騒ぎしている大人と、部屋の隅に追いやられている七人の体を縄で締め付けられている人質のような人達と、驚いたかのように目をぱちくりさせながらこっちを見ている頬がこけている男がいた。

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