第15話
そんな馬鹿げた話があるのだろうか。死んだ人が目の前にいるなんて、ありえるのだろうか。目の前の少女は間違いなく動いているのに。
楓はすぐ近くの頬に恐る恐る、野に生えた花を触るように触れた。
「あったかいよ」
指に触れた肌は自分の肌と何も変わらない、生きている人の肌と一緒だった。
女の子は袖をまくしあげた。
「あったかくても、死んでるんだよ。貸して」
楓が持っていた槍を取る。女の子は自分の白い腕をすっと切った。血が――出ていない。
「ね?」
楓は血の出ない傷跡を見つめる。
「それは、治るの?」
「うん、ほっとけば大丈夫」
楓は傷跡が見えないように袖を戻してあげた。
「ねえ、私はこれからどうすればいいかな」
「とりあえず」
何かが破壊される大きな音がした。
「逃げよっか」
女の子は楓の手を取り、二人は走りだした。
暗い学校の廊下。心なしか誰かといると、暗い場所でもそんなに怖くなかった。怖さで押しつぶされそうだったのも、離してくれなかった寂しさも、不安の塊もどこかにいった。
「リュックの中、なに入ってんの?」
「食べ物と水」
「捨てていいよ、水は水道あるし、食べ物不味いでしょ。それに、動くのに邪魔」 楓はそう言われてリュックを落とした。背中が軽くなる。
「なんでこの世界の食べ物ってあんなにまずいの?」
「さあ、なに食べてもばっさばさだよね」
通路を曲がった。
二人で走っていたらなんだか、昔を思い出した。りっちゃんとよく手を繋いで走り回っていたっけ。あの頃は私がりっちゃんを引っ張っていた。もしりっちゃんが生きていたなら、この子みたいな感じなのだろうか。
「その槍も捨てていいよ」
「え。でも、襲われたらどうするの」
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