第四夜
あたしは踊り子の衣装に身を包み、踊り子らしく振る舞いながら侍女に囲まれてる主賓の
「お酌、しましょうか?」
ちらり、とだけ視線を向けた後黙って注げと言わんばかりにそのグラスをあたしに向けて傾けた。偉そうで腹立つ。でもこの宴で何か聞き出せそうなのはこいつだけ。
「何か面白い伝承とか噂とか知りませんか?あたしそういう話大好きで。お金持ちの方ってよく色んな事知ってるでしょう?」あたしは少し前のめりに屈んで無い色気を演出した。
「知らん。だが酌しにまわった踊り子はお前が初めてだ、褒美として次会うまでに話せるようなものを用意してやる」
アウス坊ちゃんはすっと立ち上がり声を張った。
「みんな楽しんでくれているか!まだまだ夜はこれからだぞ。騒げ!飲め!ただし……」
アウス坊ちゃんはあたしの肩をぐっと抱き寄せた。
「こいつは俺の気に入りだ。手出しや余計な事はするなよ」
にやりと謎の笑みを見せ、席に戻ると大声とグラスを持った手を上げた。
「さぁ音楽を止めるな、踊りをやめるな。歌え!騒げ!」
その号令と共におっさん共や侍女達はワッと沸いた。
派手な宴を開けるだけあって、やっぱり力のある人間なんだ。気に入られたのは幸か不幸か、ハレムに行ってみれば分かるんだろう。
問題は、なかなか逃げられない事とカマルとレーラにどうやって伝えるか。
風にあたるフリでもして試しに一度抜け出してみよう。無理そうなら誤魔化せばいい。
あたしは外に近そうなところまで出た。熱風吹くこんな夜でも星は瞬いてる。手を伸ばせば届くんじゃないか、そんな気がするぐらい美しい。星に見惚れて手を伸ばし、その手には一羽の鷹が止まった。賢そうな凛々しい目つき。こいつなら届けてくれるかもしれない。
あたしは衣装の金色の飾りをちぎって割れた瓶の破片で傷をつけ、鷹の足に巻き付けた。
「レーラとカマルの元へ」
鷹は飛び立った。本当に届くかどうかは賭けだけど魔法のランプを信じるなら、あの鷹を信じてみてもいいよね。
「おい、何してる」
アウス坊ちゃんだ。今の鷹はギリギリ見られていないみたい。
「……実は宴で踊るのは初めてで、場酔いしてしまったみたいなんです。だから風にあたって、星を眺めていたの。ほら見て」あたしは星を指さしアウス坊ちゃんを呼んだ。
「ふん、見なくても毎日そう変わらない。お前つくづく変わってるな、名前は?」「アミーラ、です」
アウス坊ちゃんは残りの酒をぐいっと飲み干し、ぷはと息つく。
「星と伝説が好きなのか」「はい、まあ」「覚えておいてやる。もうじき宴が終わる、踊ってこい」
言われるまま、あたしはその場を後にした。
○
アウス坊ちゃんが適当な事を言い、お開きにするとあたし達は片付けの手伝いも無く、ただアウス坊ちゃんを先頭に大人しく着いて行った。どれくらい歩いたか、砂丘を抜けると道はだんだんレンガやタイルになってきて、顔を上げると豪邸があった。
「お前達の部屋は西棟、あっちだ。好きな部屋をひとりひとつ使えばいい。欲しい物があれば言え、不自由はさせない。その代わり逃げるなよ?」
適当な部屋に入ると、カードを添えた夜食が置いてあった。他の女の子も騒いでいたから、どの部屋にもあるんだろう。
上等そうな皿とグラス、中身はドライデーツと白いふかふかの丸パン。それからカモミールティー。
あぁ、ハレムがどこか伝えなくちゃ……でも、カモミールに眠気を誘われたのか、踊り疲れたのか……明日でも、いっか……。
あたしはそのまま眠りについた。
翌朝、目を覚ますと隣に片肘ついてごろ寝するアウス坊ちゃんが居た。
「……えっ!」
「なんだよ色気の無い声だな、昨夜はあんなだったのに」
あんなってどんな?あたし何したの?まさか、え?
「ははっ、焦るなよ何もしてない。色気のある腰つきで踊ってたのにと思って言ったまでだ。何か違う事を想像したのか?」「してない!!」顔から火が出そうだ。ただでさえ暑いのに。
意地悪は言うけど初めてにやりじゃない笑った顔を見た気がする。案外少年みたいな笑顔なんだな。
「来い、こっちだ」長い廊下をついていくと圧巻。どこ見ても女の子。昨日一緒に踊った子達、そうでない大人っぽい子達。女の子は全員座りながら長いテーブルの上の食事を囲んでいた。朝食の時間らしい。
「いつまで立ってる。座れ」アウス坊ちゃんの呆れたような声で我に返る。
その中に座り、あぁここの一員なんだと実感する。どうやって出て行こうか。
「ここでは好きに暮らしていい。必要な事があれば侍女か僕に言うといい。女同士無理に仲良くしろとも言わない。ひとつだけルールがあるとすれば出るな。それだけだ」
出るのは厳しそう。しばらく旅に必要な物と情報を集めて、女の子と仲良くなれるならそこで協力者を得て、そしたら出よう。
あたしは昨日のようにバルコニーに出て鳥呼びの笛を吹き、布にイチジクの汁でレーラ宛に書いたメッセージを鳥の足に巻き、飛び立たせた。
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