第9話 セーブデータNo.2、時間切れ≒coming out
「なあ、ひいろ……」
と、俺はあの絡繰にどうにかダメージを与える方法を伝える。一か八かだが、コレに賭けて倒す。攻撃力もレベルも今の程度じゃ足らないだろうが、やれるだけはやろう。
「ほう、強気じゃのう?強き者の心の様を見せてみよ!して、この儂を魅せるのじゃ!ああ、なんて良い日なのかのう?ふふっ!」
無色界苦締貪、少女は落ち着いた声で俺に言う。俺も応えるように、こう答える。
「ああ!無論だ、俺はこれでも、これでもな!……なんだ?暇人か?」
「そう!兄ぃはこんなので暇人だ!」
遡、お前、図に乗るなよぉ?否定できないんだから!折角格好つけられそうだったのに残念無念だ……まあいいな、勝てばカッコよく見えんだろ、やる事が明確に分かってるだけで気分が良い。無事この戦いが終わったら予定表でも作ることを習慣づけよう。気分が向いたら。
そして、俺は刀を構える。TSOを始め、刀を持ってからというもの、体の動かし方にスキルの使い方が自然と頭に流れ込んでくる。これもシステムのお陰なのだろうか。どうであったとて俺もこうして戦えている。ここでなら彼女を守る事ができる。戦ったことで強く感じさせられる、守るという事の難しさが。
「命かかってるか分からないけど、デストラクション・ナイトメア、恩返しもどきだ。ほら、ちょっとばかしカッコつけさせてくれ、」
「うむ、そう、私の方がかっこいい、」
どうしよう本当にそろそろ突き出そうかな、記憶喪失での戦い方が分からなくなって、頭おかしい現象に対する反応速度が低下しているとは言えど普通に強いし、突き出すか?そうした方がみんなの為になるか?
続けるように少女は言う。
「でも、今はさきとのお陰である、だからいいよ、思う存分カッコつけて!」
よし、頑張ろう。(単純。)
「そして、訂正がひとつ。私は、私の名は!悪m……」
「ひいろ、やれるな?」
「うん、もちろん!君のためなら気高く、そして無論勿論、そう、お安い御用さ!」
惚れるな、流石は俺の親友だ。
「女子陣お二人ともあっついから下がってね!」
「スキル発動!さきとくんファイトっ!
周囲の温度が順調に高まっていく。ギリギリの戦いの中にかく冷や汗なんて瞬時に蒸発するような。にしても、温度の高まりにによる気圧上昇の再現をここまでさせるとは本当に凄い。まさかとは思ったがこうも体が浮くほどまでとはなあ!発生した風によって前方、そう、ヒト型に変形した紅天白夜、
「スキル発動!喰らえええ!!!
「あははッ!なんじゃ?本ッ当に面白いことをしてくれるのう!昨日の娘といいなんじゃ、おぬし
[ガガガンッ!]
牙の如く刀が絡繰の肩に突き刺さる。吸血鬼が血を吸う様に華麗に残忍にそれでいて苦痛も神聖さも無くなるように。
「オラァァァ!!!!!」
徐々にHPゲージが削られていく、ダメージが入っていく。このまま突き刺していけば、倒せる!今の俺の量と比べれば途轍もない差ではあるもののスキルの効果だろうか時間経過と共にゲージの減少量が増加していく。対して俺の減少していたHPは限界を知らないかのように増加していく。これが吸血鬼の力。刀に喰らいつく力が増していく。そして、ついに俺のしがみつく機械のHPゲージは底を尽きる。
「やった……のか?」
「やめろ!!さきとくん!それは、それはフラグだぁぁあ!!!」
ッ!?ひいろが急にものすごい様相でこちらを見る、その発言に俺も気付かされる。大分危険なことをしてしまったということに。
「はっ!しまった!つい……」
嗚呼、やらかしてしまった、我ながら世にも恐ろしいあのフラグを、畜生!あと、少しだったのに、どうしてこう言う時にッ!縁起でもねえよ!演技だったらいいのだが、ひいろの場合はマジの表情である。
相手の底を尽きたHPゲージは依然として変わることはない。だが、底を尽きた後、息もする間も無く数秒後、バラバラと崩れていったパーツの端々は再び集まり、元の形へと姿を変える。白い虎、紅い翼、紅天白夜、その姿となって。その絡繰の中からは惚けた調子で声が聞こえる。さも当たり前かの様に。攻撃が当たる前であったかの様に。いや、当たっていなかったかの様に。
「?何を驚愕しておる?脅迫なんぞ一切たりともしておらんぞ?一才足らずの赤子でもあるまいし、どうしたどうしたあの威勢は、不死鳥が死んでどうして不死と名乗れる、」
「ええ……ずるくない?」
「ならば謝礼を込めて、翼を送ってやろうかのう?ほうれ、」
[バッッ!!!]
白い虎の姿となった紅天白夜から再び無数の紅い羽が打ち出される、これは量が多過ぎる、スキルを使っても守り切れない!と思ったその時、空から空気を読む代わりに目の前に台本を読むかの様に。
[討伐制限時間終了です]と。たった一言だけのセリフを落としていった。それを聞き、そうしたのかは分からないが赤い羽はこちらにぶつかる寸前で踵を返し、白い虎の背にと戻っていった。
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同刻、何処かのビル街の一室で、一人の男がPCを見つめこう呟く。暗い部屋で椅子に座りながら。複数の画面を持つPCの前で。
「輪廻転生の巡りに囚われない不死の生物。不死鳥、炎に自ら身を投げることで蘇る。転生と言われるもののその姿、自我は一切、変化せずに生き永らえる。永久に繰り返して。自身の中でこの世の理であるこの巡りを可能とする。この世のものではなく独自の輪廻転生を持つ、と言ったところだろか。朱雀、不死鳥は別物であるとされる事もあれば同一視される事もある。彼女のものはそのパターンかな、そろそろ時間だ。これ以上はちょっと危ない、」
そんな、事を一人部屋で呟く。口角を上げてひっそりと。
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「な、なんじゃって!?時間切れ?なんじゃそりゃ、戦いは決着がついたとて終ることなんてないぞ!」
操縦者は驚きの中に、諦めと妥協したかのような声を出す。決着ついても終わらないってどんな修羅だよ……まあ、でも、
「助かった……」
「うん、助かったね、」
ひいろと顔を見合わせる。後ろで二人は何が起こったのやらという表情で立ち尽くす。
[ギギギ、、、]
そして、アナウンスは意味不明な雑音を放つ。なんだ?まさかこの戦い自体がバグでしたなんてオチはないよな?
次にアナウンスの代わりに空から降ってきた声は如何にも空気を読まない緊張感のない声であった。推しの声、ではない。男性、それもよく通る人前で話慣れをしている人の声だ。異様に落ち着いているというか、自室で寛いでいる時の声の様だった。一度聞いたら忘れない特徴的な声。でも何処かで聞いた事があるような……
[あ、あーあーてすてすてすてす、まいくてーすとー、、、あれ?どしたの、急に冷めたような顔しちゃって〜まだやりあっててもいいんだ、あっ!そうだ戦い止めてって言っちゃったんだった、ごめんごめん]
は、戦いを見られていた……?プレイヤー数どころか、知る人すらも極少数のこのゲームの中を監視していただって?いや、そうであるからこそ監視をしていたのか、明らかに特異なこのゲーム運営が放置状態にしてた、とかだったら本当に狂気じみてるしな……。
[これで適正審査、終わりだよ、御二方、双方共にお疲れさま!]
「へあ?」
てきせい、しんさ?
[あの変態桜餅君から聞かされてたでしょ!ま、言うなればコレでクリアってことだ!]
「師匠の?え、何を言って?」
変態桜餅で伝わるのは放っておいて、
[いやね、チュートリアルは確かにさっき終わってたよ、お疲れ様、でもねえ適性検査は終わりだなんて言われてないだろう?]
「あ、ああ確かに、言われてみれば……」
この際あんな事があったから正直どうでもいい伏線ではあるのだが、
[だから、これをもっての審査クリアだ、ありがとうねヒーロー君、]
「うん?なんで、ひいろ?助けてくれたからありがたいんだけど、このひいろ?」
ちょっと待てよ、コイツ、ひいろの知り合い?推しの声をアナウンスを、ジャックして俺たちに話しかけているコイツがひいろの知り合い?
「えへへ、そうそう、間違いなく僕のことだよ、」
[君のお友達には本当によく手伝ってもらったよ、別天裂斗君]
「マジでぇ?」
「まじまじ、」
「でもお前っ、TSOやった事ないって言ってたよなぁ!俺がやるまで!」
「うん!親友に嘘はつかないよ!」
即答!さもこれが普通かの様に笑顔を見せる。まあ友達に嘘はな、よくないよな、でも……。
「……だよなぁ、、、」
ひいろに限ってはそんな事が無いと断言できてしまう。
[ね〜ね〜さきとくん、TSOの存在、誰から教えてもらったか覚えてるかな?]
そんなの確かいつもみたいに誘ってくるヤツ、隣にいるヤツ、……ひいろが……。
「お前じゃんッ!!!」
[眼鏡があったらくいっと上げて計算通りってやりたいところだね〜]
計算通りって、、、まあひいろにゲーム進められて食いつかなかったことなんて今まで一度たりとも無かったし……。
「あはは〜そうですね……」と、乾いた笑い声を上げる俺。
[君のキャラクター、吸血鬼か一昨日の夜と血と刀の記憶が強いみたいだね、にしても吸血鬼なのにジョブが聖職者ってやっぱり逆らえないか〜その辺りは]
「ねね兄ぃ、今話してる人の声、聞いたことある気がするんだけど、誰だっけ、」
遡がこちらに顔を向け小さい声で話しかけてくる。遡もか……。
「俺もだけど、分からないな、誰だろう、(俺のことも知ってるし……)」
[このゲームはもう体験している通り脳波を読み取る、いや、心の形成されている部分を読み取ることが出来るものなんだよ、簡単に言えばプレイヤーによって現実世界からこの世界、つまるところTSOに強い影響を与える事ができる、という事だ!]
[君は人一倍この世界での順応レベルが高いようだね。だって現在の心理の中で多くの割合を占めるものをここまで引き出すとは。顕著に現れてるのは君の能力だけじゃない、後ろの二人に紅天白夜。そして、重要な部分はコレだよ。現実世界からこちらの世界へと影響を与えるだけじゃない。既にこの世界はね、現実世界と相互関係にあるわけだという事だ]
さらっととんでもねえ事を言ってやがる……。
「ってことは死んだらゲームオーバーで遡もデストラクション・ナイトメアも現実からそのまま……?」
[物分かりいいね〜好きだよ〜そういうの、でも相互に干渉できるとはいえまだそこまでのレベルには至ってないからご心配は無用だよ]
NPCなんかじゃなく本人である事は重々感じさせられてはいたがやはり、そうなのか……。つか、このままだと俺が変に変な現象に順応するのが早いヤバいヤツ、というイメージがつきかねないぜ、一体どうしろと……。
[でも、絡繰の子、近くに居なかったしなんでいるのか分からないんだよね〜、現実からこの世界に連れ込むのにも範囲はあるはずなんだけど……]
「儂は変わった形の市女笠みたいなものが落ちてたから被ってみたらなんかここに来おったのじゃが、」
市女笠……平安時代の被り物……彼女のワードセンスはなんだろうか、そして何故怪しいものを被ろうとする、
[あ、そうなのね、そっか〜、ってもう夜ご飯の時間じゃん!明日忙しいし、またね!次やる事は彼から聞いといて!]
と、その男は慌ただしく去っていった。討伐時間切れ、と共に予想外の情報を送り込んで来たその男は。
ひいろはそれを確認して
「うちもそろそろ夜ご飯の時間だね」と。
「ああそうだな、しっかりと話聞かせてもらうからな、しっかりとな、」
そして、俺はしっかりと釘を刺す。
「ああ、喜んでだよ!さてさて、夜ご飯は何かな〜、あ、さきとくんがログアウトすれば二人とも戻るから安心して」
「わ、分かった、」
と、俺はメニューを開きひいろに言われるがままにログアウトを押した。再び目に映る景色は変わる。俺は数秒後
「やあ、」
「お、おお……ちょっと妹の部屋行ってくるな、、、」
凄く疲れた気がした。顔を見合わせた直後、俺は遡の部屋へと向かった。
「うん、どうぞ、」
[ガチャ]
デストラクション・ナイトメアが寝ぼけた顔をしている。遡もまた同じ様にそんな表情で。
「あ、兄ぃ、おはよう?」
「おはよう、だな」
と、寝起きの挨拶を済ませたところでタイミングを見計らったかの様に[ピーンポーン]と、呼び鈴が鳴る。来客だ。
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