短編・掌握集『空色文庫』
空色凪
星月夜~ウユニ塩湖に映る月~
彼女は星月夜をただ一人見上げては流れゆく流星に祈った。
「いつか全ての波がちゃんと止みますように」
彼女はボリビアに住む少女だった。ボリビアは南米で最も貧困な国の一つだった。彼女の家も貧しかった。彼女には二人の弟がいた。両親は他界していて、彼女は日雇いの仕事をしては、その日その日の稼ぎで何とか生計を立てていた。彼女は日本が好きで、親戚の家で見た日本のアニメを忘れることができなかった。だから、彼女は独学で日本語を勉強していた。
ある時彼女はこんなバイトを見つけた。
『ウユニ塩湖、ツアーガイド』
彼女はそのバイトに応募して、日本語を喋れるからという理由でバイトに受かった。そしてバイト初日、彼女は初めてウユニ塩湖にやってきた。その日は風が凪いで、穏やかな夜だった。
夜のウユニ塩湖の水面は天球を映し出していた。満天の夜空には星々が輝いて、その景色は圧巻で、彼女は思わず感嘆の声を漏らした。11月17日。その日はたまたましし座流星群のピークの日だった。
彼女はその光景に生まれて初めての感動を抱いていた。こんな景色は初めて見る。流れ星に三度お願いをすると願いが叶うという迷信を思い出した彼女は切に夜空に流れる流星に願いを届けた。
「戦争が終わりますように。戦争が終わりますように。戦争が終わりますように」
彼女はそれから何度もツアーガイドとしてウユニ塩湖を訪れた。その度に夜空に祈った。彼女はウユニ塩湖の凪いだ夜にいつしか見とれてしまっていた。
この夜空なら願いをきっと叶えてくれる。月はそんな彼女をいつも見守っていた。
シャーマンが彼女に告げた。「あなたには月の加護がある。月があらゆる理不尽からあなたを守っている」と。
流星。それは願いの象徴でいて、実際地球に落ちると災害を齎す。彼女は流星に願いを届ける代わりに本来なら代償を支払う必要があった。だが、月がその理不尽から彼女のことを守っていたのである。まるで流星を防ぐ傘のように。
彼女が大人になって、仕事に就き、弟たちも立派な社会人になってから彼女は久しぶりにウユニ塩湖に訪れた。風が止んで、水面には宇宙が映し出される。その夜空には大きな月が浮かんでいた。
彼女はその月に向かって言った。
「ありがとうお月さん。私を見守ってくれてありがとう。私は今は幸せです。ちゃんと私の努力が実って、艱難辛苦の波が止まりました。また来ますね」
彼女はそう言ってウユニ塩湖を去った。
これは一人の少女と月の物語。ウユニ塩湖に映し出された奇跡の話。
短編・掌握集『空色文庫』 空色凪 @Arkasha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編・掌握集『空色文庫』の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます