30代OLですが、副業で悪役令嬢します。~日給は2万円~
天堂 サーモン
プロローグ 副業で悪役令嬢始めます
なんで、こんなにお金ないんだろう……。
いや、理由はわかってる。私、
ピックアップガチャがあれば天井までは必ず回して、新作のグッズが出ればとりあえず購入。なお、ランダム封入の場合はとりあえず箱買い。誕生日には祭壇を作ってSNSにアップし祝福。その他ライブ遠征やらフラスタ参加やら諸々……。上には上がいるけれど、自らの命の限り推してきた。それなのに、それなのに……。
「なんで、なんでサ終……」
そう、サ終。いつか来るとわかっていたけど、サ終。推しのいる世界は、つい昨日、推しごと消滅してしまったのだ……。生き甲斐が消え去り、残ったのは悲しいかな、スズメの涙の給料では返すのが厳しい額のカードローンのみ。
「昼間普通に仕事してるのに、私はどうやって借金返すんだろうなー……」
他人事のようにつぶやくが、完全に自分事である。現実に耐え切れないので、とりあえずSNSを眺める。スイートビート!サ終に対する悲しみのコメントに混じってふと、「【高収入】悪役令嬢募集!副業で収入大幅アップ」という広告が目に入ってきた。
「悪役令嬢募集……?」
怪しすぎる広告だ。だが内容が気になりすぎる。悪役令嬢……? しかも、高収入? ウィルスだったらどうしようとも思ったが、好奇心には勝てず意を決してタップをする。すると、スマホの画面が急に強く白く光りを放った。急なまぶしさに、私は反射的に目をつむる。
(何? 間違ってフラッシュ炊いちゃった?)
何事か確かめるゆっくりと目を開くとそこは、真っ白な空間だった。
ここ、どこ?! 私はさっきまで冴えないワンルームの自宅にいたはずだ。こんなに壁は白くないし、モノだっていろいろ散らかっているはずだし……。サ終がショックでついに頭がおかしくなってしまったのだろうか?
「ぱんぱかぱーん! おめでとうございます!」
急に後ろから気の抜けた女性の声が聞こえた。え? 不法侵入? 反射的に振り向くとそこには真っ白い服を着て、背中に羽をつけた、わかりやすく天使の格好をした金髪のお姉さんがにこにこと微笑みつつ佇んでいた。
「あなたは神に選ばれました! 神と契約して悪役令嬢になり、副収入をゲットしてください!」
「へあ?! 神と契約……?」
怪しすぎて変な声が出てしまう。新興宗教の勧誘か?! いや、でも私はさっきまで自室にいたはず……。
「ちょ、ちょっと待ってください。まず、ここはどこですか? 神と契約って、何を契約するんですか?」
「おおっと。あの広告をタップした割には、なかなかにしっかりしてますね! 流石30代!」
喧嘩売ってるのか。いやいや、怒りは何も生まない。まずは状況を把握するんだ。
「まず、ここがどこかっていうことですけど、世界と世界の狭間です。契約内容については、これからお話しますね。よいしょ!」
何もない空間に対して天使のお姉さんが手を差し出すと、無機質な空間には全く似つかわしくない、懐かしいイラストが表示される。
「『
「ノータイムでこのゲームのタイトルを言い当てるとは……流石、神に選ばれただけあります」
『
「近頃、人の世ではこういった乙女ゲーム的な世界で悪役令嬢になり、本来の筋書きとは異なる行動をとるというのが流行っているようですね。そこで、神々も乙女ゲームを盤面に、悪役令嬢をコマに、遊戯をすることにされたのです。あなたはそのコマを演じる者として選ばれました」
そこで天使のお姉さんは私に向き直り、芝居がかった仕草で私に手を差し伸べる。
「さあ、神と契約して悪役令嬢になりましょう! 土日のみ勤務OK、日給2万円ですよ」
「やります」
私は即答した。
「……え? 何も聞かずに即決して、大丈夫ですか? もう少し仕事内容を詳しく聞いてからでも……」
天使のお姉さんが初めてまともなことを言う。それだけ私の発言が大胆だったということかもしれない。けれど、土日だけ働けて日給2万円なんて、こんな好条件の副業他にない。仕事内容は悪役令嬢と謎だけど、カードローンをいち早く返済するには、この副業を掴むしかない!
「今お金ないので、休日だけでいいなら今の仕事と掛け持ちできるし、やります!」
「あ、ありがとうございます。 それではこちらの契約書にサインを……」
天使のお姉さんが白い空間に手をかざすと、びっしりと文字が書かれた羊皮紙と、羽ペンが現れた。どうやらここは便利空間らしい。羊皮紙には天使のお姉さんが話していたようなことがつらつらと契約書の形式で書かれていた。こういうのは苦手だけど、全く確認しないのも怖いしざっと目を通す。
給料は日払い手渡し……?! 正直なところ、めちゃくちゃ助かる。勤務時間は1日に6時間、うち休憩は1時間。ホワイト! 勤務日程は基本毎週土曜日、場合によっては日曜日についても出勤を打診する場合あり……まあ、今は全然予定がないし大丈夫だろう。
「……ん? ちょっと質問いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「ここの業務内容なんですけど、悪役令嬢を演じるだけじゃないんですか?」
「あ、はい! そのあたり是非ご説明させてください!」
再び天使のお姉さんがどこからか指さし棒を取り出し、空間に浮かんだ『きらカレ』パッケージイラストの悪役令嬢『レティシア』を示す。
「あなたには『
『きらカレ』は典型的な中世ヨーロッパ風の王宮を舞台にした乙女ゲーム。主人公は7日後に社交界デビューを果たすシャルロット。物語はメインヒーローであり婚約者のレオンとの初めての顔合わせのため、シャルロットが辺境の地から王都へやってくるシーンから始まる。シャルロットは社交界デビューの日まで様々な攻略キャラクターたちと出会い恋に落ち……というのが物語のあらすじだ。
『レティシア』はいわゆるシャルロットの
「攻略順はメインヒーローの『レオン』を最後にするということ以外は制限がありません。お好きな順番で攻略してください。攻略が完了したり、断罪されてその周回で攻略キャラクターとこれ以上親密になれない状況になると初めの日に戻ります」
「契約書の『
「もちろんです! 実は今回、もう一人の悪役令嬢である『ダフネ』も、あなたの世界の別の誰かが、あなたと同じ条件で役割を演じることになります。もし、ダフネよりも早く全ての攻略キャラクターを攻略できた場合、
500万円……! それだけあればカードローンが完済できるだけじゃなく、回転ずしも食べ放題だし、それに……それに……推し活を失って使い道がぱっと思いつかないけどなんでもできるじゃない……!この副業、最高だ!
「あ、でも、もしダフネに負けても日給2万円の方はもらえるんですよね……?」
「はい、それはもちろんお支払いしますよ。ささ、契約書にサインを……」
私は嬉々として天使のお姉さんから差し出された羽ペンを使って、契約書に『吉田 汐里』とサインする。
「これで契約成立ですね! それでは早速来週の土曜日から出勤頂ければと思いますが、大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫です!」
「それでは、また来しゅ」
ふと、テレビのチャンネルが切り替わるように私は唐突に自室に帰ってきていた。先ほどまで天使のお姉さんが立っていた場所には『スイートビート!』の非売品ポスターが飾ってあるだけだ。
「なんだ……やっぱり夢か」
お金がなさ過ぎてついにおかしくなったらしい。なんだか気が抜けてしまい、へろへろと床に座り込む、すると床に見慣れない金色のリボンで巻かれた紙があった。私はあわててその紙をひらく。間違いない、さっき白い空間でサインした契約書だ。
「夢じゃ、なかった……?」
ふと、契約書に小さなメモが貼っていることに気付く。そこには丸い癖字で「来週土曜日、朝10時に下の住所でお待ちしています 天使」と書いてあった。とりあえず来週、行ってみよう。『スイートビート!』ガチャで学んだ通り、人生駄目でもともと、当たれば儲けものなんだから。
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