ノートに書かれた落書き

 みんな私を見てくれません。

 父と母はいつも家にいません。

 一昨年は誕生日ぐらいは帰ってきたのに。

 友達はいつも私が見えないフリをします。

 みんな、わざと私の周りだけ席を開けて逃げようとします。みんな、掃除の時はわざと私の机にだけ触れようとしません。


 でも、私は大丈夫。大丈夫です。だって、私はみんなと話すより、観察する方が好きです。楽しそうな、みんなが好きです。今日も、みんな楽しそうね。


 莉珠りずちゃん。今日も「……さんが貴方の悪口言ってたよ」なんて言いふらして楽しそうですね。自分は争いごとに巻き込まれたくないのに、いつもに善人のフリをして楽しそう。高校目指してるもんね。毎日塾にも行ってるから、誰かを使ってストレス発散しないと辛いものね。そうだよね?

 第三者は楽しいものね。そうだよね?


 だからいつも私の前じゃ、ニコニコしてるのに裏だと陰口ばっかり言ってるんでしょ?


 いいね、楽しそうだね。だったら私も楽しませてよ。ねぇ、莉珠ちゃんは、私が裏で、貴方が今までやってきた事について噂を流しているのは知ってる?

 知らないよね?

 そうだよね?



 佳奈かなちゃんは可哀想ね。本当に可哀想。片思いの相手を莉珠ちゃんに取られたものね。でも莉珠ちゃんに本音は言えないから、私を泥棒猫にして愚痴っているんでしょう?


 友達と愚痴を言い合うのは楽しいもんね。

 

 知っているよ。私は大体知っている。

 失恋は悲しいけど、友達は残ったね。

 今日も楽しそうね。


 いつも第三者のフリをして、他人の争いを眺めている莉珠ちゃんが許せない。


 いつも他人に責任を押し付けて、自分に都合の悪いことは、ぜーんぶ忘れちゃう佳奈ちゃんも許さない。


 女子にチヤホヤされたいからって、他の女子と私の陰口を言っているりょう君も許さない。


 みんな、楽しいのね?

 そうだよね?

 でしたら、私にも楽しみを下さい。

 許さないよ。みんな、許さない。

 私を、いじめるヤツは許さない。

 私を、馬鹿にするヤツも許さない。

 幸せそうなヤツは気に食わない。

 毎日笑っているヤツも気に食わない。


 

 みんな許さない。でも、みんな大好きだ。だって、私の遊び道具になってくれるから。

 中学一年生のとき、私に嫌味を言った■■ちゃん。あの子が絶望したとき感じた高揚感は、今でもハッキリと覚えている。



 みんな、みんな、痛い目を見ればいい。



(ノートの表示には永原杏樹さがはらあんじゅという名前が書かれている)




 





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