おもちゃ屋のチラシ

 『幸せ』が足りない、そこの貴方。

 おもちゃ屋にいらっしゃい。


 こちらの店では皆様が幸せな気分になれる商品を販売しています。よく詐欺だと疑われますが、ご心配要りません。もし、商品を使用しても幸せになれなかった場合、返品して頂いても構いません。


 

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【数量限定商品】


 現在、の在庫が尽きたら販売を停止する予定の商品です。別に苦情が相次いだとか、そういう訳ではないですからね!


◇魔女のスイーツハウス


 この商品は可愛らしい小さな、お菓子の家です。サイズは貯金箱ぐらい。スイーツハウスに、お金を入れて欲しい、お菓子の名前を言って下さい。そうすれば中から、お菓子が出てきます。地球の裏側にある店限定で、売っているケーキとかは呼び出すまで、時間がかかるから注意してね。


 なお、呼び出した、お菓子は二十四時間以内に消滅します。これで、いくら食べても太りませんし、万引き犯として捕まる心配はありません。



◇イマジン絵の具


 この絵の具を筆につけて、スケッチブックやキャンバスと向き合って下さい。そうすると、手が、ひとりでに動き始め、貴方が望む物が書けるはずです。画力は必要ありません。貴方がイメージした物を、そのまま絵の具が反映してくれます。


 便利でしょう?

 欲しくなってきたでしょう?


 もし美しい紅葉が舞う森を描いたならば、貴方は紅葉の葉に混ざって、消えてしまいたいと感じるはずです。


 もし踊るお姫様を描いたならば、貴方は彼女と永遠に舞い続けたいの願うでしょう。物理的に踊れなくなる、その日まで。



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 一つ書き忘れていましたが、返品していただく際、条件となる『幸せになっているかどうか?』は、親客様の『幸せ』ではなく、僕の『幸せ』が基準となっています。


 僕にとって『幸せ』は『楽しい』ことです。それ以上でも、以下でもありません。


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【本日入荷した新製品】


◇安眠オルゴール。


 まずはオルゴールのネジを巻いて下さい。そのまま、寝床に入り目を閉じましょう。

 音に身を委ねて下さい。

 そうすれば、段々リラックスとしてくるはずです。


 さぁ、再び目を開けてください。


 何が見えますか?


 満点の星の周りを、輝く花々と黄金の葉が擦り合う木々が取り囲みます。

 貴方の鼻腔を香水のような香りがくすぐり、耳には心地よい流水の音が響くはずです。


 あ、待って下さい。


 立ち上がって探索したい気持ちは分かりますが、今はやめましょう。だって、リラックスするために、ここに来たのですから。


 今は輝く森の中央で、横になりましょう。

 視界に入る情報については、何も考えないで下さい。思考は全て放棄しましょう。

 人間は思考する度に不幸の沼へ落ちていきます。ならば、初めから何も考える必要なんてありません。


 そうでしょう?


 これから貴方は何も考えなくていい。

 思考という負荷から解放されるのです。


 おや、隣で別の方が眠っている事に気づきました?


 彼等の顔を、ご覧なさい。

 みんな幸せに見えるでしょう?

 もう、息さえも止めて、みんな眠っています。安心して下さい。もうすぐ貴方も彼等と同じ状態になれます。大丈夫、痛みも苦しみもありません。あるのは幸福だけ。


 おやすみなさい。


◇回想のスノードーム


 手のひらサイズの水晶玉が、黒い台座に乗っています。中に何が見えますか?


 ラムネが売られている駄菓子屋がありますね。周りでは子供が数人遊んでいます。あの子達は、貴方の同級生である……ですよね?

 みんな楽しそうですね。あぁ、今すぐ彼等の中に入りたい気持ちは分かりますが、今は堪えてください。もう少し中を探索しましょう。


 虫が舞う小川の傍を歩いていると、鳥居が見えてきます。

 あの先は■■■■神社ですよね?

 子供の時、親の言いつけを破って禁足地に入った日のことを、覚えていますか?

 友達の……君帰って来なくなりましたね。

 でも、大丈夫。彼は我々の仲間になっただけですから。


 次は商店街に行きましょう。

 昔は賑わっていた、この場所も今ではシャッター街。でも土産屋は今でも、あのチョコレート菓子を売っているみたいです。あ、肉屋では今でもコロッケが売っているみたいですね。肉屋の、おばさんが貴方を呼んでいるみたいですね。行きましょう。


 肉屋はもう潰れている?


 それは『今』の話でしょう?


 我々にとって『今』は重要ではありません。大切なのは『過去』です。

 『今』は苦痛だし、『未来』は見えません。


 ならば、確定した幸福がある『過去』だけを見ていればいい。


 後ろを見て下さい。

 そこには、貴方の友達、父、母、祖父、祖母、死んだはずのペット、転勤したはずの先生。みんなが、貴方を待っています。


 どう完璧でしょう?



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