第27話 異常な息子隼人



 それでは…窃盗事件はどのように起こったのか?


 実は…北村邸には人に言えない秘密があった。この北村邸は子供はいないと思われていたが、お手伝いの留美と冴子の間に子供を授かっていた。


 幼少の頃は八王子の浅川を駆け巡るやんちゃな子供だったが、ある時男の子に異常が見つかった。一方の冴子の子供は女の子ですくすく育ち何の問題もない。


 それは近所の子供達と浅川に遊びに行った時の事だ。小学1年生だというのに友達の1人を浅川の中に突き倒したのだ。その子は岩に頭を打ち付けたが軽傷で済んだがそれでも、親御さんにしてみれば黙って見過ごすことは出来ない。


 両親が必死に誤ったお陰で何とかその場は収まったが、稔氏の息子隼人はやがて……想像を絶する残酷非道な息子に変貌していく。


 一体どうしてこのような子供に変貌してしまったのか?


 だが、残虐非道な行動は一向に収まらない。小学4年生の頃にはこんな事があった。クラスの子が斜視のある隼人を、ロンパリと言ってからかい始めた。そんなある日隼人はカッターナイフで手を押さえつけ、その男の子の薬指を切断しようとした。


「ギャ――――ッ!ヤヤ止めてくれ――――ッ!そんなんなら殺してから切ってほしい」


「へっへっへ……面白いこと言うね。僕ぞくぞくしちゃう。ふっふっふ」


 そういうが早いか、そのカッターナイフを首元に持って行きスパッ!と切ろうとした。


 するとその男の子が恐怖と死に逝く哀しさと未練で、何とも言えない怯えと絶望と悲しみの入り混じった目で命乞いをした。


「しっ死にたくない!た助けて――――ッ!」


 隼人はその恐れおののくさまを見て、体中の血が激流するのをまざまざと感じ取った。


 その表情に恍惚を感じ興奮してしまい、即座に殺害したらその死に逝く直前は、もっと真に迫った緊迫感漂う恐怖と絶望の言いようのない目つきに代わるに違いないと悟りスパッ!と首元を切り裂いた。


「ギャ――ッギャ――――――――――――――ッ!』


 という悲鳴と共にその生徒は倒れてしまった。


 だが、これに興奮した隼人は益々この味が忘れられなくなってしまい、これからもっともっと恐ろしい行動の数々を繰り広げることになる。


 まだ4年生だったこともありその生徒は死ななかった。それでも……こんな問題を起こしたので教育委員会が動き、全校集会が開催され結局危険という事で暫く停学処分となった。


 


 どうしてこのような子供になってしまったのか?


 実は…隼人は6歳のとき、頭部に怪我を負い、それから劇的に人格が変わった。


 母親で女中の留美によると、彼は近所の公園にお兄ちゃんたちと遊びに行き、公園で遊んでいる時にお兄ちゃん達が野球の練習をしているバットに直撃されて、前頭前野皮質にダメージを受けたという。


 結局その時は隼人はケロッとして立ち上がったので一大事には至らなかったが、今考えればその時病院で何らかの処置を受けていれば、これから起きるであろう悲劇は避けられたのかも知れない。そんな事があったとは知らない留美は、後でその事実を知ることになる。


 ある研究者が唱えるには、殺人者の21%は過去に頭部に怪我を追っているという。とくに脳の前頭前野皮質は、共感や寛容性と関わっていて、ここが損傷すると人格が変わってしまい、危険な行動に結びつく可能性があるという。


 それでも……こんな問題行動の多い隼人だが、高い知能を持っている事が分かった。


 更には鳥を目の前で丸焼きにして楽しむなどの奇行が目立って来た。また、炎に包まれて逃げ惑う動物を見るのをとても面白がった。


 こうして……奇行はますますエスカレートして中学校になる頃には友達と浅川に遊びに行き、浅川橋から友達を勢い良く下に投げ落とすという問題行動を起こすようになっていた。だが、たまたま春先で少し雪が残っていたこともあり大事には至らなかったが、河原の岩に落ちいていたらひとたまりもなかった。


 

 やがて隼人は、友達などにへっちゃらで恐ろしい言葉を吐くようになって行った。


「ぼくは、動物を無性に殺したくなるんだ。殺害できなかったら、人生など食事のない人生と同じだ。ぼくは犠牲者たちに新たな世界をプレゼントした気分なんだ。だって、彼らに別の世界のドアを開いてやったのは、ぼくなのだからね」と豪語するようになる。


 だが、息子隼人は年頃になると、動物や人間を殺害したいと思う思考は一旦収まり、思春期ともなると女の子を求めて外を彷徨い強姦に走るようになって行った。それだけで飽き足らず無残に殺してから強姦する。死体を姦する屍姦になって行った。

 

「これは大変な事だ!」父は事実を知り、たった1人の可愛い息子を守ろうと必死になって奔走した。


 ★☆

 こうして……どうにも出来ずに裏社会の住民に依頼した。可愛い息子を犯罪者にしたくないばかりの親心からだ。


「行方不明者は年間8万人以上…」と表現されることが多いが、多くの場合、行方不明者はすぐに発見されているからだ。


 2014年:1924人、2015年:1803人、2016年:985人——。社会から完全に消えていく失踪者の数を推測するデータだ。 


 より正確にいえば、「失踪者」の中には届出をしない人たちもいるので、失踪者の数は少なくとも年間2000人近い人が、ある日忽然と姿を消していると思われる。


 ここで、かなり楽観的な見方をしても殺人事件の50%は死体すら見つかってないと言われている。どう考えても実際はもっと酷い数だ。


 日本にはプロの殺し屋や、死体処理のエキスパートがいると言われているが、彼らは個人でなく集団で動く。死体を細かくバラバラにしてから、火葬路で骨だけにする。骨だけにしてしまえばいくらでもやりようはある。細かく砕いてトイレに流すでもいいし、海にまくでもいい。骨だけなら山に埋めても掘り返されない。最悪高炉に放り投げれば消滅する。


 この様に金さえ積めば業者の共謀者がたくさんいるらしい。


 だから同業者同士や、反社と繋がりのある者が依頼するパターンが1番多いらしい。もしくはそうでなくても、巨額の依頼金とか、社会的に地位のある人間から依頼される仕事など、リスクに対してリターンが大きいとされる場合は請け負ってくれる事もあるらしい。



★☆

 父の稔氏は金は腐るほどあるが、やっと誕生した命よりも大切な、たった一人の息子隼人が、こんな狂人でどうしたら良いものか悩み抜いている。だが、放って置けばいつ人殺しをして人に迷惑をかけるやも知れない。


 こうして……外に出て行かないように地下室を作り鍵をかけ外に出られなくした。

それでは…何故病院送りにしなかったのか?その理由が分からない。


 実は…精神病院に入院させていたが、抜け出して何度も連れ戻していたが、やがて行方が分からなくなり、お金が切れると家に戻って来た。


 戻ってきたは良いが、とうとう少女を殺害した現場を目の当たりに、このままでは息子は犯罪者になってしまう。たまたま家出少女だった事で、人脈を辿り犯罪は無かったように死体は消された。ここで自転車、携帯、財布、靴などにGPS機能を取り付け徹底的に管理した。GPS機能のお陰で逃げ出しても外での犯罪は未然に防げた。連れ戻すのはその筋の人物に依頼していたが、ゆすられでもしたら大変。


 こうして…家に監禁するに至った。だが、恐ろしいほど暴れるので、外に出て行かないように地下室を作り鍵をかけ外に出られなくした。


 怪しげな若者の出入りが目撃されていたが、ここで登場するのが貞子様だ。貞子はこのようなことは断じてしたくなかったが、自分には負い目がある。それは子供を産むことが出来なかったからだ。こうして夫稔氏に懇願されて心理カウンセラーの仕事を始めた。


 ここにカウンセラーに訪れる子供たちは、皆大きな悩みごとのある行方不明者や身元不明者ばかりだ。わざとそう言う人物をネットで甘い言葉でおびき寄せていた。

「世界平和、真実、救済」という言葉に連れられやって来た若者たちは、どれだけ諭しても治る事のない病に取り付かれた息子隼人の犠牲者だった。


 稔氏は体格の良い暴れる隼人が、例えきちがいで狂人であっても可愛くて仕方ないのだ。「オモチャ」を用意しないと延々と暴れて止まないので、止む無く世にも恐ろしい事を決行。



「嗚呼……ああああああああ!……我慢が出来ない。嗚呼あああああああああ!ふっふっふっ……はっはっはっはっは」 


 スパ――――ッ!∕⁄∖✕∕∕∕\✕ドスン/∕∕∕✕Ж\ グシャン/∕∕∕\✕ ガリガリガリ 


 これは地下室で息子隼人が獲物を目の前に歓喜し解体している様子である。異常者息子隼人が外に出て行かない為に、差し出していたのだ。死亡した若者たちは男女共に闇世界に処理してもらった。


 こうして若者は闇から闇に葬られた。


 ★☆ 


 それでは…若者たちはどうしてこの邸宅に足を運んだのか?

 

 実は…この北村邸では幸せな光景が広がっていた。それは季節問わず心理カウンセリングが終わると貞子様は、若者たちを抱き寄せ、それはそれは今まで味わったことのない優しさで満ち溢れる空間を演出なさっていた。


 東京の母と慕われ、自分の苦しんだ過去を貞子様にさらけ出し、虐待され捨て置かれた子供時代を味わった辛い過去を持つ若者たちや、親に捨てられ悲惨な人生を送って来た若者たちは、こんな夢のような豪邸で美しい年上の女性に、優しい言葉の数々で癒され、母の温もりも知らずに育った若者たちは、そのぬくもりに会いたく通って来るのだった。


 だが、それは親バカと化した稔氏の強い願望に、泣いて頼む稔氏にいたたまれなくなって協力する羽目になった貞子様の姿が垣間見える。


 束の間のお茶タイムは、ケーキとアイスコーヒーが常だったが、その理由は睡眠薬で眠らせる目的があった。


 稔氏は当然娘さくらも愛していたが、さくらは元々通いの女中冴子に、たまたまムラムラと来て手を出してしまった女だった。だから……さくらは例え母子家庭でも父稔氏の潤沢な資金の上、母子家庭という負い目はあったものの幸せな人生を送っていたので犯罪とは無縁の女性に成長した。


 だが、女中留美は美しい妻貞子様が体が弱く、その代償として欲望の赴くまま誰が見ていようとお構いなしに、ある時は台所で、ある時は寝室でと、交合を求める稔氏の異常な姿があった。


 留美はさして美しい女性でもなかったが、肢体が豊満でお尻の肉付きもよく魅力的であったため標的にされてしまった。冴子は稔氏の好む体系ではなく板の様にガリガリの女であった。


「ご主人様オヤメ……お止め下さい!!!息子隼人が見たら大変です!」


「大丈夫だ。まだ子供でぐっすり眠っている。嗚呼……我慢できぬわ!ああああああああ!」

 そう言うと度々服を無理矢理引き裂いて淫らな姿にさせて交尾に及んでいた。それは……妻である貞子様も病を押して体を這いずり、ドアをこっそりと開けて目にしていた。このような光景を見るにつけ、耐えられなくなった貞子様が離婚を切り出しても離婚に応じてくれるような稔氏ではなかった。


 当然小さな隼人もこの異常事態に気付かない訳がない。度々父の鬼畜の所業を目にしていた。こうして……隼人は狂人、化け物に変貌してしまった。


 ★☆

 

 あの時、ミュージシャン圭祐の息子一輝の彼女舞が、北村邸の庭先で指をさしたのは、実は何かの死体のようなものが見えたので指をさしたのだろうか?


 もし人間の死体であれば当然知られたくないので、貞子様がカーテンを閉めた理由は分かる。そしてあの時貞子邸にいたのは舞と貞子様の妹美月だった。


 いよいよ次回は最終話

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