第50話 アンジュン辺境伯(5)
いまさらメイドの一人二人が巻き添えになって死んだとしても大勢には全く影響が無い。それに、万が一のことがあっても、脳が生きていれば治癒魔法でなんとでもなる。魔力は消費してしまうが。それにそもそも殺そうとしているのはあのバカ領主なのだ。こっちが心配するようなことでは無いと思うのだが、何故か力丸や坊丸が大声で、
「信長様!これは迂闊には攻撃できませんね!あのようにか弱いメイドを人質に取るなど言語道断!メイドよ!我々がすぐに助けるぞ!もう少しの我慢だ!」
などと叫ぶので、
「お、おう!もちろんだ!おい、貴様!すぐにそのメイドを解放しろ!そうすれば命だけは助けてやる!」
と言わざるを得なくなったのだ。
「う、嘘だ!お前らのような悪鬼が約束を守るとは思えん!人質は解放せんぞ!すぐにここから立ち去れ!」
はぁ、まったくここの領主は白痴か?イーシ王国随一の軍事力を持っていると聞いていたのだが、その情報は間違いだったということだろう。表面的には兵士の数が多いのかもしれんが、領主がこれでは先は無い。まあ、それならそれで領主一族を皆殺しにして俺様が乗っ取ればいい話だ。その方が手っ取り早い。
「信長くん!攻撃はちょっと待って!ユウシュンが説得をしてくれるって」
そんな事を考えていると、ガラシャと男が駆け込んできた。ユウシュン?ああ、さっき蘭丸に敗れたやつか。しかし、説得って何だ?あんなアホ領主を説得できるのか?
「アンジュン様、どうか落ち着きください。この者達の目的はアンジュン領を強化して、他国と対等な立場になれるようにする事です。そうであれば協力関係を築いていけるのではないでしょうか?アンジュン様!何とぞ、この者達の話を聞いていただきたく存じます!」
ユウシュンはアンジュンの前に跪いて懇願をした。騎士の誇りも体裁も捨てて、全身で領主を説得しようとしている。
「ユウシュン、お前も裏切ったのか!裏切ったんだなぁぁぁぁ!」
40歳くらいに見える領主は、目を血走らせ髪を振り乱して大声を上げている。今にも短剣をメイドの喉に突き立てんばかりの勢いだ。
「アンジュン様、裏切ってはおりません。全ては、10回目の千年紀に降臨されるという賢者様のお導きによる物です。こちらの賢者ガラシャ様が、人族の力を糾合し奴隷を出さなくてもよく全ての民が飢えることの無い世界を作るとおっしゃっているのです!」
えっ?このユウシュンという男、ガラシャのことを賢者と言ったか?オレは目を見開いてガラシャの方を見た。ガラシャは顔を少し赤くしてモジモジしている。
「賢者だと?その女がか?世迷い言も大概にせい!わしは信じんぞ!」
そんな押し問答をしていると、
「父上!この期に及んではもう後がありません。こやつらも我々をすぐに殺すつもりはなさそうです。人質を放して話を聞こうではありませんか」
奥の扉から若いヤツが出てきたぞ。13か14と言ったところか?
「レイン!貴様まで裏切るのかぁぁぁ!」
激昂したアンジュンは持っていた短刀を振り上げてレインを威嚇した。ああ、あの表情はもう無理だ。既に正気を失っている顔だ。
「蘭丸、今だ!」
「承知!」
それは一閃だった。蘭丸が床を蹴って飛び出し剣先がギリギリ届く間合いで振り抜いた。そして、アンジュンが持っていた短刀は、握っていた手首と共に床に落ちる。
「うおおおぉぉぉぉ!手が!手がぁぁぁぁ!」
蘭丸は剣を鞘に収めてからアンジュンに近づき、掌底でその顎を突いた。顎を突かれたアンジュンは激しく脳を揺らされて、意識を失ってその場に崩れた。メイドに怪我は無いようだ。
「お前はこの男の息子か?」
「はい、現当主アンジュン辺境伯の長子、レインにございます」
「そうか、じゃあ、すぐに兵を下がらせろ。俺たちもこれ以上は殺さねぇ。あとは、文明人らしく話し合いといこうじゃないか」
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