第43話 オーガの村(7)
「生き返るわー」
信長や蘭丸達が入浴を済ませた後、ガラシャとエーリカがお湯に浸かっている。当然お湯も全部入れ替えた。
「お湯に浸かるのって、こんなに気持ちいいんですね」
頬を赤らめたエーリカが手ぬぐいで顔をぬぐう。
「こっちに来て20日ほどだけど、お風呂に入ったのははじめてね。それにずっと野宿だったし。やっと屋根の下で寝られるのね」
ガラシャは星空を見て、しみじみとこの20日間を思い出す。日本にいた頃は普通の女子高生だった(と思う)。それが信長達の巻き添えになってこの世界に来てしまった。
あまりにも残酷で、人の命が軽い世界に驚愕した。そして、自分を守るためとはいえ人を何人も殺してしまった。まさか自分にそんな事が出来るなんて思わなかったが、信長達があまりにも普通に人殺しをしているので、もうすでに罪悪感が無くなっている。犯罪集団の心理はこういうものなのかもしれない。
「こうやって堕ちていくのね・・・・」
「えっ?」
「あ、ううん、何でもない、何でもないのよ」
あたりは静寂を取り戻していて、昼間の攻防戦が嘘のようだった。オーガの男と族長を殺した自分たちを、すんなり受け入れているこの村のオーガ達に違和感もあったが、信長に言わせれば戦闘民族はこんなものだという。戦国時代、日本人全部が戦闘民族だったころは、負けた大名は首を差し出し、その家来達は自分の主君を殺した“敵”に臣従するのが当然だったそうだ。
“歴史の授業でそんな事言っていた気がするけど・・・”
学校ではそんな感じで習っていたが、実際に経験してきた信長から聞くと説得力があった。
「ソーラちゃん、大丈夫かな?父親を信長くんに殺されちゃったけど・・・」
※ソーラ 殺された族長の娘
「そうですね。しばらくは落ち込むと思いますが、恨むことは無いと思います。オーガ族は強き者に従います。それに、問答無用で信長様達を殺そうとしたのは族長ですし・・」
やはりガラシャにとっては、そういう感覚はしっくりこない。自分の父親が目の前で殺されたら、ずっと恨みに思ってしまうような気がする。
“そういや、お父さん、お母さん、元気にしてるかな?大騒ぎになってるだろうなぁ”
そんな事を思うと、ついつい涙がこぼれてしまった。もうさんざん泣いて、泣いてもどうしようもないとわかっているのだけれど。
「ガラシャ様?」
「あ、大丈夫よ。それより、オーガ族について教えてくれない?エーリカちゃん、お母さんが人族なんでしょ?」
そう聞かれたエーリカは、表情を曇らせて下を向いてしまった。明らかに聞かれたくない事のようだ。
「あ、ごめんなさい。言いたくなければいいのよ」
ガラシャはあたふたとしてエーリカの頭をなでる。こういう世界で混血というのはやはり差別を受けるのだろう。両親がどんな大恋愛をしてエーリカを宿したのだとしても、その両親が死んでいるのなら迫害をうけても仕方の無い世界だ。
「いえ、言えないことじゃないんです。お母様はこの森に迷い込んだ人間の隊商の生き残りです。それでお父様が娶ったそうです」
「そうなのね。魔物に襲われたのね。かわいそうに。それでお父様に助けてもらったのね」
「いえ、隊商を襲ったのはお父様達で、お母様は戦利品だったそうです・・・」
想像の斜め上過ぎた。
「そ、そうなの・・、ちょっとお姉さん驚いちゃったかな・・」
「私を産んでから2年くらいでお母様は死にました。だから全然記憶にありません。それで、お父様は村の若い男を何人か連れて人族の町に行ったそうです。新しいお母さんを奪って来ようとしたらしいんですけど、返り討ちにあって死んでしまいました。だから、人族に負けたお父様はオーガ族の面汚しだって・・・。それで私もみんなから・・・・」
“オーガ族全員クズかよ!”
「はぁ、でも、そんな中でもエーリカちゃんが素直に育ってくれてて良かったわ」
ガラシャはエーリカを見てにっこりとほほえんだ。
まさに掃き溜めに鶴とはこのことだろう。周りは常識を疑うようなクソ連中ばかりだが、エーリカだけはなんとなく自分と価値観が近い気がする。
「だからね、エーリカちゃん、信長くんに気を許しちゃだめよ。それに、ま、間違っても体を許すようなことは絶対にだめだからね!私が言うのもアレだけど、あいつ、本当に欲望の塊よ。それに残虐で真性の変態だし。自分を大事にしなきゃだめだからね!わかった?」
ガラシャの鬼気迫る表情に、ちょっと恐怖を覚えるエーリカであった。
――――
翌朝
「俺様は前族長を倒した!そして魔物の襲来からこの村を守った!何より神獣であるケートゥを倒して下僕にしている!だから今日から俺様が族長だ!わかったか!!」
オーガ族全員の前で信長が高らかに宣言をする。そして、オーガ族は片膝を突いて臣従を誓った。
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