第41話 オーガの村(5)
信長はガラシャが作ったアイスドームの上に立って、さらに氷柱を作っていく。そして10mくらいの柱を造り、その上に登った。
「蘭丸、坊丸、力丸、シュテン!聞こえるか!?基本的には籠城作戦だ!敵が突進して来たら、その先頭に攻撃を集中させろ!あと、ケートゥは1日に一回しか召喚できねぇ。期待するなよ!」
信長は迫り来る魔物達の勢いを見ながら、各隊の配置を指示していく。そして前線では蘭丸達が、櫓の上から矢を射たり投石をする者と、それらに対して石などを供給する者に分けて、切れ目の無い攻撃が出来るよう細かい指示を出した。
普通ならどんなに大きな声を出しても届く距離では無いのだが、魔力によって音の振幅を大きくし、物見櫓まで届くだけの声量にしているのだ。
「ケートゥを出した時に、かなり魔力を持ってかれちまったな・・・」
ある程度の魔法を使うだけの魔力は残っているが、前線で攻撃魔法を連発することは難しそうだった。
『我を使役するにはそれなりの対価が必要じゃからな。もっと魔力を鍛えれば日に何度も召喚できるようになるぞ』
「魔力を鍛えることができるのか?それはあとで教えてくれ。とりあえず、この魔物達を撃退しないとな」
――――
オーガの村の周りには、魔物よけの結界が張ってある。しかし、これは日本の農家で使われているような電気柵を強化した程度のダメージしか与えることが出来ない。本気で突破しようとすれば突破できてしまうのだ。通常なら、全身がしびれてしまう結界をあえて超えようとする魔物など居ないのだが、ケートゥの魔力によって興奮している魔物達は、全身がしびれるのをものともせずに襲ってきた。
「東の門が突破されるぞ!」
村を囲む木製の城壁でなんとか防御していたが、東の門がとうとう突破されてしまった。そこから魔物達が村の中に侵入してくる。
しかし、その魔物達を蘭丸の率いる部隊がすかさず取り囲む。家の戸板を外して盾を造り、横一列になって待ち構えていた。そして突進してきた魔物を、盾の横から剣や槍で突き殺していく。
さらに蘭丸は魔物達の群れに飛び込んでいき、その中心で、“舞”を舞った。
蘭丸が絶仙剣を振るたびに、魔物達は鮮血を飛び散らせて倒れていく。それはまさに“舞”だった。天から降臨した御使いが、光の中で神からの啓示を伝えているかのような錯覚さえ覚えてしまう。
その蘭丸の舞に、ソーラは心を奪われてしまった。実の父親の足と腕を切断した剣技にもかかわらず、美しいと感じてしまう。“私もあんな剣技を身につけたい”と。
「お、俺にだってあれくらい出来る!うおおおぉぉぉぉーーー!」
そう言って一人のオーガの男が魔物の群れの中に飛び込んだ。そして持っていた剣を力任せに振り下ろすと、一匹のグレイブベアが真っ二つになった。しかし次の瞬間、四方から様々な魔物にかみつかれ、悲鳴と共に倒れ伏してしまう。
「ちっ!」
それを見た蘭丸は、そのオーガの所に駆けよって思いっきり蹴り上げた。すると、魔物にかみつかれて転げ回っていたオーガは防御陣の後ろまで吹き飛んだ。ちなみに、噛みついていた何匹かの魔物も一緒に。
「魔物一匹に必ず二人一組で戦え!指示に従わない者は厳罰に処す!」
蘭丸は東門を突破した魔物を次々に切り伏せる。その数はすでに100を超えていた。そして、蘭丸が倒し損ねた魔物を、周りのオーガ達が二人一組で倒していく。
戦闘開始から約1時間
襲ってきた魔物達を撃退することに成功した。
「けが人を集めろ!すぐに治癒魔法をかける!」
魔物は武器を持っていないので、一撃で即死するようなことは無かったが、それでも体の何カ所も噛まれて瀕死の重傷を負っている者が何人かいた。
「死にそうなヤツを優先して治療だ!」
信長が蘭丸達に大声で指示を出す。そして、それに従い、蘭丸・坊丸・力丸・ガラシャは治癒を施していった。
「すごい・・」
シュテンやソーラは、その様子を見て唖然としていた。オーガ族にも治癒魔法を使うことの出来る者がいるにはいるが、浅い切り傷の止血が出来るくらいで、重傷患者に対してはほとんど効果を発揮することができない。今までだと明らかに死んでいるだろうという重傷者でも、すぐに出血が止まり傷もふさがっていくのだ。
「信長様達がいらっしゃらなければ、我ら一族はこの襲撃によって滅んでいたでしょう」
シュテンは信長の前で片膝をつく。
「ああ、そうだな。だがまだ安心するには早いぞ。すぐに東門の修理と結界の張り直しだ!ぐずぐずするな!」
この襲撃の原因を作ったことをすでに忘れている信長だった。
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