第34話 黄金の三頭竜(2)
「おお、すまんすまん。痛かったか?お前は後ろに下がっていろ。これからあのバケモノを切り刻んで今夜の食事にしてやるからな」
少女に優しく話しかける信長だったが、その顔からはあからさまに凶悪さがにじみ出ていた。体高10メートルほどの怪獣をどう料理してやろうかという表情だ。やはり、戦になれば戦国武将の血が騒ぐようだった。
「オーガ族が束になっても勝てない。人族のお前達に勝てるはずが無い」
「お前はオーガ族か?それで角が生えているんだな。まあ、見ていろ。俺たちは普通の人族じゃないんでな!蘭!坊丸!力丸!行くぞ!ガラシャは魔法攻撃だ!」
信長達は腰の剣を抜刀してキングヒドラに斬りかかった。それと同時にガラシャは氷魔法でキングヒドラの足を凍り漬けにする。
キングヒドラは何が起こっているか理解できていないようで、三つの頭は信長達をそれぞれ目で追っていた。
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!」
信長達は下からキングヒドラの首にめがけて剣を振り上げた。それは丁度のど仏に相当するあたりに入る。
信長達が振るう剣は、力任せに打ち付けるだけでは無い。前世と今世での鍛錬によって、その剣技は達人の域に達している。そこに、さらに強化された肉体によって剣技が繰り出されるのだ。目にも止まらぬ速さで剣はキングヒドラの首を切り裂いた、かに見えた。
「くっ・・無傷か!なんて固さだ!」
確実に切り裂いたと思ったが、キングヒドラの黄金の鱗に傷一つ付けることが出来ていなかった。
「おい!力丸!こういう怪獣ってなんか弱点みたいなのがあるだろ!知らないのか!?」
斬りつけられたキングヒドラは、首をゆっくりと動かして信長達を見下ろしていた。傷一つ付けることのできない脆弱な人族に対して、わざわざ攻撃をかける必要など無いと言っているように思えた。
「弱点は一般的に目とか口の中だと思いますが、この手の怪獣は口からブレスや光線を出す可能性があります!十分に注意しないといけません!」
「ガラシャ!魔法の効き具合はどうだ!?」
「周りに氷を作ることは出来たけど、あの体に対しては効果が無いみたい。エルフの鎧と同じように対魔法防御があるみたいね!」
「こんな事ならエルフの館から奪った魔導書をもっと解析しておくんだったな。ガラシャはキングヒドラの足止めに専念しろ!俺たちは剣でなんとかする!」
信長達は何度か剣を打ち付けるが、全く傷を付けることが出来ない。一撃を加えては下がるという攻撃を繰り返していたが、どうにもらちがあかない。すると坊丸が素早い動きでキングヒドラの背中に飛び乗った。そして、鱗の隙間を通すように剣を差し込んだのだ。背中の後ろ側から斜め前方向に差し込まれた剣は、15センチほどキングヒドラに食い込むことが出来た。そして、その傷口から青い体液が噴き出した。
「アギャアアアァァァァァァァーーー!」
三つの竜の頭が同時に叫び声を上げた。そして、その内の一つが大きく首を振って坊丸をなぎ払う。
「信長様!鱗に沿って反対から差し込めば貫けます!」
「よくやったぞ!坊丸!あっ・・・・」
信長はとっさに緑色の髪の少女の所に飛び出し、そして小脇に抱えてジャンプした。力丸もガラシャを抱えてジャンプする。
と、その瞬間、三つの首からすさまじい熱線が放たれた。
その熱線は瞬時に岩を切り裂き、岩の表面をどろどろに溶かしてしまう。体育館ほどのこの空間の温度が瞬時に上昇した。
すかさずガラシャが氷魔法で溶岩と空気の温度を下げた。キングヒドラ本体に魔法は効かないが、周りの物質には問題なく魔法が効いたのでなんとか危機的な状況を避けることが出来ている。しかし、これではいつかやられてしまう。
――――
『何なんだ、この目障りな下等動物は?』
88年ぶりに目覚めた三頭竜は、目の前にいるハエのような人族にイライラしていた。ひ弱な人族のくせに妙にすばしっこく剣で斬りつけてくる。後ろに居る女は魔法を使っているようだが、三頭竜の鱗の対魔法防御を貫くことが出来ていない。両足は氷で固定されてしまったが、これも本気で力を入れれば砕くことが出来そうだ。
『オーガ族との盟約により88年ぶりに“補給”を受けるはずが、どうにも目障りな連中だ』
久しぶりの目覚めに鈍っている体を少しずつほぐそうとしていたとき、背中に激痛が走った。
「アギャアアアァァァァァァァーーー!」
『こ、この我の背中に傷をつけるとは!許さんぞ!人族!』
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