第29話 ボードレー伯爵邸(5)

 信長達は二階に上がって家捜しをしていた。そして、鍵のかかった部屋を見つける。その扉は両開きで豪華な装飾がされてあった。


「人の気配がするな。ぶち破るぞ」


 信長達は扉を蹴破って室内に入った。そこは大きな広間で、奥の方に30人くらいの男女が固まっていた。そしてその前に鎧を着たエルフが二人、剣を構えてこちらをにらんでいる。


「ここまで賊が押し入ってきたと言う事は、テリューズ騎士団長も倒されたと言う事でしょう。申し訳ありません、ボードレー伯爵、スー子爵」


 騎士は言葉を続けなかったが、テリューズ騎士団長が倒されたと言う事は普通の騎士10人が束になっても勝てないと言う事だ。おそらく伯爵と子爵達を守る事が出来無いであろう事を詫びたのだ。


「私も皇帝陛下から伯爵を賜っている身。簡単に倒されはせんよ」


「ボードレー伯爵、私も一緒に戦いましょう。ここには20人の男がいます。全員で一斉に斬りかかればなんとかなります」


 ボードレー家とスー家の男達は皆剣を抜いて立ち上がった。今日の婚約披露会の主役であったバンソニーや、ガラシャの魔法から逃げてきたスティアも気力を振り絞って立ち向かう。


「おいおい、なにを気張ってるか知らねぇが、別にお前達を殺しに来たわけじゃないんだぜ。人族の子供を解放してくれて、ちょっとばかし魔法について教えてくれればいいんだよ。そうすれば俺たちは退散するからな」


 信長は一歩前にでてあえて殺すつもりはないと説明する。しかし、その作り笑顔は誰が見ても邪悪だった。


「信長様。この屋敷を占領するんじゃなかったんですか?」


 と、坊丸が空気を読まない発言をしてしまう。


「やはり我々を皆殺しにするつもりだったのか!みんな、覚悟を決めてくれ。女子供だけは絶対に守るんだ!うおおおぉぉぉぉぉーー!」


 ボードレー伯爵はそう言って剣を振りかざし信長達に迫る。そして、それにあわせて騎士やその他の男達も一斉に斬りかかった。


 しかし、実力差は歴然だった。鎧を着た騎士は、力丸と坊丸に鎧の隙間に剣を差し込まれ絶命する。その他の男達は、ガラシャの魔法で凍らされ、又は信長達に斬られて倒れ伏していった。


「あなたーー!バンソニー-!」


 その様子を見ていた女達は、自らの愛する人の名前を叫んだ。しかし、その叫びはもう届かない。


「あーあ、人の話を聞かずに斬りかかってくるからこういうことになるんだぜ。人族の子供を解放してくれて、魔法について教えくれれば命は保証するよ」


 残った女子供の中で、もっとも位(くらい)の高そうな女に信長は話しかける。


「よくも夫と子供を・・・許さない!」


 そう叫んで懐から短剣を取り出し信長に切りつけた。しかし、その腕を信長に掴まれてつるし上げられる。


「おれも女子供は殺したくないんだよ。人族の子供と魔法について教えてくれるだけでいいんだよ!」


 信長もだんだんとイライラしてきていた。どうしてこいつらは人の言う事を聞いてくれないのかと。


「やめて!お、お母様を殺さないでください!今日の狩りの獲物は二人と聞いています。それがどうなったかまでは知りません。それと、魔法の本は書庫にあります。場所を教えるので、どうかお母様を殺さないで。お願いします・・・」


 10歳くらいの男の子が立ち上がって叫んだ。どうやらこの女の子供のようだ。


「そうか・・殺された二人で全部と言う事か。じゃあ、書庫を案内してもらおうか。力丸、一緒に行ってこい。その間に全員を縛り上げるぞ」


 信長達はそこに居た女と子供を縛り上げた。魔法を詠唱されてもまずいので猿ぐつわもする。


 --――


「なるほど。これが魔法の本か」


「はい、信長様。地方の館なので、それほど詳しい本はないそうですが、それでも中級魔法までの呪文とその習得方法がわかるそうです。全部で六冊です」


「そうか、じゃあその六冊と持てるだけ本を詰めて持って行くぞ」


「この館を占領するんじゃないんですか?」


「そう思っていたが、めんどくさくなってきた。皆殺しにしたら気兼ねなく占領できるんだが、そういう訳にはいかないだろ」


 ――――


「いいか。俺たちが出て行って500まで数えてからみんなの縄をほどくんだぞ。それまでにほどいたら皆殺しにするからな」


 信長は、書庫まで案内してくれた子供だけ縄をほどいて言い聞かせる。


「じゃあ俺たちは出て行くけどな、人族だからってむやみに殺したりしたら許さねーからな。よく覚えとけよ!」


 そういって館を後にした。

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