第三章 リオリス魔王国戦争編

第57話 「開戦の朝」

 私は目の前にモニターを四つ出現させ四天王達に通信を送る。回線が開きガレウス達の顔が映し出される。


「みんな準備はできているか?」


「いつでも戦える状態だ」


 ガレウスが応答する。ほかの三人からも同様の答えが返ってくる。


「こちらからは仕掛けずレイアからの指示を待ってほしい。夜襲やしゅうは無いと思うが、もしあれば私から指示を出す」


「了解した。タクトは前線で戦うのか?」


 ロイドが私にたずねる。


「もちろんだ。私が出ないと皆の士気にかかわるだろう? 状況を見つつ強い奴をつぶしていく予定だ」


 斥候せっこう部隊からの敵側データはレイアから聞いて頭に入っている。


「開戦まで各部隊緊張を保ちつつ体力を温存してほしい。開戦後はレイアの指示通り頼む」


 四天王達は私の言葉に了解し通信を切る。各部隊の配置も整い、あとは開戦を待つだけだ。


「さて、敵はどう出てくるか……」


 両国の国境の南から中央にかけてはロア山脈が走っている。ここからの侵攻は飛翔ひしょう部隊でないときびしいため、紅竜ガーライルひきいるレッド・ドラゴン隊が待機する。


 主な戦場は平地の北から中央にかけてになるはずだ。国境線に巨木のくいを打ち込んだ壁がそびえ立つ。壁をはさんで双方が地上部隊のほとんどを配備している。


「集結はしているけれど、目立った動きはないようだな」


 暗視ダークヴィジョンで目の前に広がる平原にびっしり集合しつつあるリオリス軍の様子を確認する。強敵の気配も特に感じられない。


 私は緊張を保ったまま敵の監視を続けることにした――。



◆◆◆



 空がうっすら明るくなってくる。魔界には太陽の光は差さないが昼は存在する。日中はさすがに通常のヴァンパイア達は行動をひかえなければならないが、人間界のような明るい日差しは無い。


 私が前線で待機して六時間ほどが経過した。敵の大軍勢も配置を完了している。そんな中私の頭の中に通信が聞こえる。私の分身からだ。


『聞こえるか。レイアと朝食を取り終え、魔王の間で配置についた』


『そうか、わかった。レイアと話できるか?』


『ああ。伝える』


 すぐにレイアから通信が入る。


『タクトか。戦況はどうじゃ?』


『見えてると思うが、敵はすでに配置を終えてる。いつ始まってもおかしくない』


『そうか。各隊の様子はどうじゃ?』


『みんないつでも動けるよ。始まったらまず指示を頼むよ』


『あいわかった。タクトも十分気をつけて動いておくれ』


『ああ。じゃあ、通信切るよ』


 私は脳内回線テレパシーを切り、敵の動きに集中する。目の前に広がる圧倒的な軍勢で緊張感がただようのをずっと感じている。


「やはり二時間前に食べておいて正解だった。エミル達の気づかいに感謝だな」


 夜にメイド達からもらったおにぎりの差し入れを私は敵の動きを監視しながら食べたのだ。絶妙な塩加減でうまかった。だが今はそうできる状況ではない。私は再び気持ちを切りえる。




◆◆◆




 警戒けいかいを保ちつつ三十分ほどが経過した頃、ついにリオリス側のモニター回線が開く。



『時は来た! これより我らは全軍を持ってリータ魔王国を殲滅せんめつするものなり!』



 万全の装備を整えた魔王レグナムグルスが高らかに宣言する。両軍の兵士達が構えを取る。


『第一陣、攻撃を開始せよ!!』


 レグナムグルスの号令が戦場にひびきわたる。対峙たいじする第一陣の後方部隊からはげしい矢の攻撃が一斉いっせいに起こる!



 戦いのまくが開かれる瞬間だった。



 大量の矢の雨は勢いよくリータの領土目がけて飛び込んでくる。だが私達も無防備ではない。上空の魔法が発動しバリアが展開する。


 矢の半数がバリアにはばまれ失速する。だが敵軍勢は気にせず次々に矢を放つ。バリアの隙間すきまを通った矢の雨が着弾しようとするその時!



ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!



 戦場の各所ではげしい轟音ごうおんが巻き起こり、様々な属性の極大魔法の砲撃が矢の雨を消滅させるのであった!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る