第55話 「仕込みの成果は違和感だらけ」

 翌朝、施設がすべて完成し記念式典がり行われている。モニターで国中のたみ達に放送が流れている。


「皆の者、今日はここにいるタクトが国中にうまい水を届けてくれる仕組みが完成した。わらわがこれからそれを発動させるのじゃ」


 皆が注目し静まり返る中、レイアの演説が流れる。


「ではゆくぞ! 発動じゃ!」


 レイアの掛け声でシステムが起動する。浄水システムと汚水処理システムが動き出し機能し始める。綺麗きれいな水が魔物達の各住処すみかに送られていく。


「おおっ! 素晴らしいのう!」


 流れていくんだ水を見てレイアが感嘆かんたんの声を上げる。私はレイアの笑顔を見て、自分の仕事が終わった事にホッと胸をなでおろす。あとは今後の動きを見守るだけだ。


「タクト、この水の仕組みは商売になるのかのう?」


 不意にレイアが聞いてくる。私は少し考えてから答える。


「そうだなあ。利用した量に応じてお金をもらうとか、トイレを作って売ったり、もっと水を美味おいしくして売り出すのはありかな。あとはこの水を使って野菜や飲み物を作れば美味おいしくなるだろうから、今よりもっと高い値段でも売れるようになるかな」


「おお!! それはよい考えじゃな。早速さっそくアシュレに連絡じゃ」


 レイアはアシュレに通信してドワーフ達に水物みずものの作成を依頼し、有力な商人達に水を活用する商売を生み出すよう指示を出す。アシュレはすぐに行動に移すだろう。彼の仕事はいつも手早く的確だからだ。


 システムの監視かんしにはナイトシェイドのノーリスから送られてくる魔術師達を配置する予定だ。レイアからも優秀と言われている彼らなら、すぐに理解し管理してくれるだろう。


「レイア、これから時間あるかな?」


「うむ。時間ならあるぞ。何かあるのか?」


「訓練してもらっている皆がどうなっているか気になってるんだよ」


 そう。これまでに指示を出し訓練している彼らが今どのくらい強くなったのか知りたいのだ。


「ああ、そういう事か。順調に育っていると思うぞ。見てみるか?」


「うん、見てみたい」


 私の言葉にレイアがモニターを出し確認してくれる。様々な種族のデータが並ぶ。


「まずはゴブリンからじゃな。……ああ、これだな」


 対象のデータが拡大される。モニターに映し出された彼らの姿は想像しているより大きい。


「え? これがゴブリンだって?」


「そうじゃ。クラスが上がってゴブリンナイトになっているようじゃな」


 統率とうそつの取れた大きなゴブリン達が数体のヒュドラ相手に剣戟けんげきと弓矢の射撃でいどんでいる。彼らを統率とうそつする数名のゴブリンは将軍といったところか。


「こんなに変わるなんて、すごいな……」


 私の驚く姿にレイアが微笑んで答える。


「何を申しておる。そなたが提案した事じゃぞ。このくらい想定の範囲内じゃろ」


「いや、さすがにここまでとは思ってなかったよ」


 レイアは少しあきれた様子で私に話す。


「こんなのは朝飯前じゃ。これから見せるものを見たらもっと驚くぞ」


「そうなのか?」


 それからレイアは担当してくれた魔族達の様子を見せ、解説してくれた。どれも私の想像を上回る成長ぶりである。ほとんどがクラスチェンジを果たしていた。


「さて、ヴァンパイア達の様子を見せてやろう」


 レイアはシルヴィア達のデータを前面に出してくれる。一見すると彼らに変化はないようだ。


「彼らはあまり変わってない?」


「そう見えるか? 実は彼らすべてがヴァンパイアキングとクイーンに変化しておるぞ」


「ええっ!?」


「外見は変わらぬが、タクトが弱点を克服させたお陰で休みなく戦い続けておるからのう。補給も万全にしてやったからその成果が出ておるようじゃ」


 確かに相手をしてくれている巨人族の数がかなり増えている。彼らも善戦はしているようだが……


「あの調子ではもう相手にならなくなるのう。もっと強いのをあてがう必要があるか……」


 レイアが画面を見ながらつぶやく。訓練前の彼らではあの二人ですら相手するのは厳しいと思っていたのだが。私はしばらく彼らの戦闘を見ていて違和感を覚える。


「レイア、シルヴィアさんの姿が見えないが」


 レイアは私を見て答える。


「ああ、彼女は別空間で戦っておる。ほかとは次元が違うでな」


「シルヴィアさんの映像は無いの?」


「うむ。非公開で頼むと言われておる」


 レイアに依頼するくらいだから相当強い敵と戦っているのかもしれない。今度実際に会ってみるか。その後、スケルトンとゴーストの様子も見せてもらう。最弱の彼らも順調に力をつけているようだ。


「タクト、よければこれからゾンビ達のところへかぬか?」


「行きたい。どうなってるか楽しみだ」


 私はレイアの提案に二つ返事で答え、レイアのテレポートで彼らの元へ転移する。




「え? ゾンビはどこ?」


 第二階層中広間。私が見た光景にはゾンビらしき姿はなく、代わりにリッチと見知らぬ存在が数十人いる。


「む、進化しておるな。あれはリッチとワイトじゃな」


 ゾンビ化したミノタウロス数体とワイバーンを男達が攻撃している。つぶされてもよみがえり、さらに攻撃を続けている。


「男達はワイトというのになっているのか」


「そうじゃな。順調に成長しておる。まだゾンビレジェンドの奴もおるな」


 レイアの話によるとゾンビレジェンドからワイトに進化するとの事だ。問題は女達の方か。


「女達の方が異常じゃないか? 強さの質が違う気がする」


「タクトも気づいたか。そうじゃ。女達は男以上に進化しておる」


 女達はキマイラではなく十本首のヒュドラを二体相手にしている。むしろキマイラは手なずけられ共に戦っている。リッチが何人かいるようだ。


「何か他と違うリッチがいるような」


 私の問いにレイアがすぐ調べてくれる。


「どうやら二人だけリッチジェネラルに上がったようじゃな。名はソフィールとメイリンと出ておる」


「そうなんだ。あのメイリンがか……」


 ソフィールは最初に面談したゾンビだ。よく覚えている。それにしてもメイリンか。一番存在がうすく弱々しかった彼女が。意外だ。


「ここはみんなすごすぎるな。戦争前になったらどんな強くなってるんだろうか……」


 想像するだけでゾッとしてしまう。まあ戦力は強ければ強い程いいのだが。


「ありがとうレイア。ここで最後だったか?」


「いや、まだもう一つ残っている。行ってみるか?」


「あ、ああ。よろしく頼む」


 私はゾンビ達の雄姿ゆうしを後にし、レイアと共にテレポートする。




「ここは?」


 転移した先は何もない真っ白な空間だった。そこに二人の五メートルはある女性が見える。レイアが私に答える。


「第八階層にある無の空間じゃ。そして今戦っているのがダリアとメアリーじゃ」


「あれがダリアとメアリーだって!?」


 二人とも黒い羽根の翼を背に持つ天使のような姿に変貌へんぼうしている。片方が半透明なのでおそらくあれがメアリーだ。目にも留まらぬ速さで移動し魔法を駆使くしして戦っている。互いに被弾してもひるむことなく相手を攻撃し続けている。


「二人ともすさまじい力だ。もうリッチでもレイスでもないな」


 離れていても彼女達の力をひしひしと感じている。魔法の威力も使う魔法自体も絶大だ。私とレイアはバリアを張りながらしばらく様子をながめる。


「どうじゃ? なかなかのものじゃろ?」


「ああ。これは頼もしいな」


 私とレイアは目をかがやかせ二人の戦う姿を見ていた。二人は私達に気づき、戦うのをやめる。


「魔王様、タクト様。来ていただき感謝いたします」


 近くまで移動してきたメアリーが私達に挨拶あいさつしてくれる。


「お二人の結婚、まことに喜ばしいです。おめでとうございます」


 ダリアが私達に一礼して祝福してくれる。


「ありがとう。二人とも強くなったなあ」


 私の称賛しょうさんに二人はれながら顔を見合わせる。


「二人とも見事じゃ。また強い相手を用意させてもらうので待っていてくれ」


 レイアの言葉に二人がひざまずいて答える。


「感謝いたします。もっと強くなってお役に立ちます」


「うむ。期待しておるぞ。二人とも続けてくれてよいぞ」


 レイアの言葉に二人は一礼し、戦うため戻っていく。私とレイアは二人を見届けた後私室へとテレポートする。




 その日はレイアと共に戦争のプランを話し合い一日が過ぎていった。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【まめちしき】


【クラスチェンジ】…………レイアによってシステムの計らいがあり、魔物達は経験を積んでレベルアップできるようになった。

一般兵 ⇒ ナイト ⇒ ジェネラル ⇒ クイーン or キング ⇒ レジェンド の順に進化する。

カンストすると上位の種族に進化する。どう進化するかは魔物によって異なる。


【メイリン】…………タクトが面談した十六番目のゾンビ女。ゾンビになった理由がわからず調べたところ、通り魔の気まぐれで殺害されたことが判明し、タクトが対象者の元へ共に転移し復讐を果たせさせてやった。


【水物】…………トイレや洗面台、流し台や蛇口、風呂釜やシャワーヘッドなど水回りの生活用品のこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る