第34話 「紅竜ガーライル復活」

 レイアは私を見ながら、片付いたテーブルに両ひじを突き、組んだ手の上にあごせながら話し始める。


「タクト、わらわと共にそなたの仲間達を助けに行った時の事を覚えておるか?」


「ああ、それなら覚えてるよ。国王がイグノール達をとらえて公開処刑するって決まって……。レイアに頼んで一緒に行ってもらったんだ」


「そうじゃ。わらわ達は処刑を邪魔じゃまして、そなたの仲間達を助けたよな?」


「ああ。レイアがみんなのかせを外して逃がしてくれたんだ。その上、兵士達を圧で抑え込んでくれた」


「うむ。その後どうなった覚えておるか?」


「確か…… そうだ、国王が大きな紅い竜を召喚したんだ」


 私の発言にレイアの目がかがやく。


「そうじゃ! その竜とタクトは戦ったよな? そして勝ったよな?」


「ああ、その通りだ」


「そなた、その竜を殺したか?」


 レイアの問いに私は一瞬考え込むが、すぐ答えは出てくる。


「いや、殺してない。弱っていたところを封印したんだ」


「それじゃ!!」


 大声で叫ぶレイアに一瞬たじろいでしまう。


「そなた、どこへ封印したのじゃ?」


「えっと、確かこの指輪に……」


 私は右手の指にはめている指輪を見る。――ん? 指輪?


「思い出したか?」


 レイアは冷静さを取り戻して私にたずねる。一瞬のが流れる。



「あああああああああ!!!!!!!!!」



 そうだ。あの竜は生きている。この指輪の中で。レイアに言われるまで全然忘れていた。


「そういう事だったのかあ!!!!」


 私は顔を真っ赤にし、レイアを直視してうなる。


「ここまで言ってやって、ようやく気づいたか」


 レイアはあきれた様子で私に返す。なんて恥ずかしい!!!!穴があったら入りたいくらいだ。


「すまない!! どうしたらいい!?」


 私は半ばパニックにおちいったままレイアにたずねる。


「どうもこうも、これからよみがらせれば良いじゃろう。食後の運動にちょうど良いじゃろうて」


 なるほど。レイアの言葉に少し冷静さを取り戻すことができた。


「そ、そうだな。どこで復活させればいい?」


「そうじゃのう…… 第七階層あたりでやるか?」


「わかった」


 私は納得し、急いで残っていた食事を全て食べ終え、レイアと共にごちそうさまの挨拶あいさつます。


 メイド達がテーブルを片付けてくれるのを後にし、私とレイアは第七階層の大広間へテレポートした。この場所のボスはまだ復活させておらず、もぬけのからである。


「タクト、早速さっそく始めよう」


「わかった」


 私はこぶしを固め、右腕を頭上にかかげ指輪に集中する。


「封印の指輪よ、我がめいにより、その封印を解き放て!」


 力強く命じたその直後、指輪に光が宿やどり、封印されていた紅い竜ワームレッド・ドラゴンは大広間の中央へと解き放たれる。まぶしい光をびた身体から、徐々に光は消え、巨大で邪悪な姿を現す。


「おおおお!! やったか! 成功じゃな」


 レイアが竜を見上げる。竜は自らの身に起こった事が理解できずたたずんでいるようだ。


「ああ。遅くなったけれど、傷は治ってるはずだ」


私は封印解放のを終え、安堵あんどした。


「ようやくじゃな。さて、ここからじゃの、タクト」


「そうだな」


 私は直前にレイアと話していた事を思い出しながら、竜の身体を見上げている。すると、竜が私達の存在に気づき、うなり声を上げ始める!


 多少混乱もあるのかもしれない。だが、こうなる事は事前に予想していた。そして竜はバタつき始める。


「黙れ!」


 レイアの一言で、大広間に重圧が降りかかる。もちろんレイアと私以外にだ。竜は頭から床に押し付けられ、尻尾しっぽに至るまで体の自由を一気にうばわれる。大きな翼を羽ばたかせようとするが、無駄な抵抗であった。


「き、貴様ら……」


 竜が私達にわかる言語で吐き捨てる。頭を押し付けられながらも、その両眼は怒りに満ちあふれ、私達をにらみつけている。


「久しぶりというのに、往生際おうじょうぎわが悪いのう。ガーライル」


「魔王、なぜ人間にくみする? 魔族のほこりを失ったか?」


「何じゃ、そんな事か。くだらぬ。老兵の考える事よのう。それより、タクトにがあろうが」


「人間ごときに語る言葉など持たぬわ!」


耄碌もうろくし過ぎじゃろ、頑固がんこじじいが。命を助けてもらったら、感謝の言葉を申してこうべれる、だろ?」


「助けてくれと頼んだ覚えはないわ!」


 竜は押さえつけられた頭を必死に動かそうとしながら答える。


「タクトよ、見ての通りじゃ。この頑固がんこじじい、一筋縄ひとすじなわではいかぬぞ。どうする?」


 レイアが私を見て状況をたくしてくれる。だが、ここまでお膳立ぜんだてしてくれたレイアには本当に感謝だ。


「ありがとう、レイア。やれるだけやってみるよ」


「ああ、タクトならできると信じておる」


 私はガーライルの頭のかたわらまで歩き、怒りに満ちた眼を直視する。


「ガーライルさん。私は異世界から来た人間、タクトです。この世界に召喚され、魔王と戦いました。ですが、私はレイアが好きになり、助けた上で結婚を申し込み、共に生きる決断をしました」


 竜は私の言葉に呆然ぼうぜんとし、怒りに拍車をかける。


「信じられぬ!!!!」


 竜はあらん限りの眼力と大声を上げ、私に思いをぶつける。


「結婚!? 共に生きるだと!! 何を世迷よまよい事を言っておる!! この魔王と、魔界でか!?」


 私は竜の問いにひるむことなく、直視して答える。


「そうです」


「馬鹿も休み休みに言うがよい!!!」


 激昂げきこうした竜に対し、さらに私は無茶な願いをはさみ込む。


「では、ついでにもう一つ言わせてもらう。私達の仲間になってもらえませんか?」


「何だと!?」


「レイアとこの国は、魔王レグナムグルスに戦争をふっかけられ、一週間後には交戦することになりました。私達には貴方の力が必要なんです!」


わしは『紅蓮の災厄ルミナス・ディザスター』のガーライルぞ! お前ごときの頼みなど、応じられるか!!」


「そこを何とか、お願いします!」


 私は深く頭を下げ、ガーライルに懇願こんがんした。そんな私の姿にガーライルが少しの間沈黙する。


「ガーライルよ、おぬしももうわかっておるのだろ?」


 場の空気を察したのか、ガーライルと私のやり取りを黙って見ていたレイアが竜への圧を解き、割って入る。


「タクトはただの人間ではない。わらわ達の住む世界とは異なる世界からやって来て、おぬしを正面から力で圧倒し、満身創痍まんしんそういのおぬしを殺さず、また元の状態に復活させた」


 レイアの言葉にガーライルは沈黙を守ったままたたずんでいる。


「おぬしほこり高き竜族のおさの一人じゃろ? 命の恩人に対し、深きうつわを示して見せよ」


「魔王……」


「彼がおぬしに対して無礼を働きおったか? 今もこうしてこうべを垂れておるじゃろうが」


 ガーライルは目の前の私をしばらくの間見据みすえ、語り出す。


「……確かに。大人げないのはわしの方だな。タクトと申すか?」


「はい!」


「うむ。おぬしの気持ちにいつわりはないと見た。人間にではなく、おぬし個人に対し、わしは力を貸そう」


 ガーライルの言葉と眼差まなざしに私の胸が熱くなる。


「ありがとうございます! これからよろしくお願いします!」


堅苦かたくるしい言葉は不要だ。ガーライルでよい」


「わかった。ありがとう、ガーライル」


 レイアの仲介ちゅうかいもあり、私とガーライルは新たな絆で結ばれた。レイアは冷静な表情だが、心強い味方が増え、ホッとしているように見える。


 その後、私はレイアと共にガーライルに話し合いをした。その結果、ガーライルは仲間の元へ一旦戻り、彼らを説得し戦力として集めてきてくれる事になる。

 

 状態が完全に回復したガーライルは、早々そうそうみずからの巣へと帰っていった。

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