第13話 「終焉」

 静寂の中、突然一人の近衛兵が叫びだす。


「よくも国王陛下を!! 許せん!!」


 静寂を破る発言は遠くまでよく響きわたった。


「黙れ!」


 レイアは一瞥いちべつし、近衛兵に圧を加える。近衛兵の甲冑かっちゅうはひしゃげ、全身の骨が砕かれようとする音が響く。痛みを通り越して声すら出ないようだ。


「あああ! ダメですよ、これ以上は!!」


 エレノーラ様が飛び出し、近衛兵に対し右手を構える。


「ハイヒール!」


 聖女の魔法は近衛兵の身体をいやし、甲冑かっちゅうすら修復させてみせる。死のふちまで行っていたであろう近衛兵の意識がつながる。


「おのれ……」


 苛立いらだつレイアに私が近づいた。私はレイアの身体を抱き、口づけする。


「うっ!」


 突然の事に驚くレイアから言葉がれる。だが、私はそれすらふさいでしまう。空中でしばしの間、レイアの気持ちを落ち着けようと試みる。


 私は唇を離し、レイアを見つめる。レイアの顔は心なしか赤らんでいるように見える。


「きゅ、急に何をするのじゃ!?」


 あわてふためくレイアが可愛らしく思える。こんな時なのに私が緊張感が無いのか。


「すまないレイア。もう、いいんだ」


 レイアは我を取り戻したようでうつむきながら答える。


「タクト、情けをかけるでない。とどめを刺さねばならぬ時もあるのじゃ」


 レイアの言葉にハッとなる。


「そうだな。私がやるべきだったよな」


「いや、そなたが手を汚さぬともよい。わらわの役目じゃ」


「すまん」


 私はそれ以上言えなかった。


「気に《や》むでない。わらわは魔王じゃ。わかるな」


 私の目から涙がこぼれ落ちる。愛しい人にこのような事をさせてしまうとは。


「レイア……」


 私はもう一度、レイアに口づけする。私にはそれしかできなかった。だが、レイアが私を引き離す。


「も、もうよいと言っておる……」


 そう言う彼女の顔がなぜかまぶしく見えた。


 私達の行為を唖然あぜんとして国民達が見上げている。イグノール達も同様である。


 その中でエレノーラ様だけが動く。


「兵士の皆様も元に戻して差し上げます」


 聖女はそう言うと、両腕を広げ、呪文を唱える。


「エリアヒール!」


 まばゆい光が辺り一帯を包み込むと、倒れていた兵士達の傷がみるみる回復し、意識を取り戻す。国王以外のすべての者が、元の状態に戻った。


 兵士達や国民達がその奇跡にようやく声を上げる。


「さすがに首が飛んだ命までは治せませんわ」


 エレノーラ様が申し訳なさげにつぶやく。 私は技を発動した彼女に気づき、そばへと向かう。


「師匠!」


「その声は、タクト?」


「はい! ご無事で何よりです」


「貴方達、とんでもない事をしてくださいましたわね」


 エレノーラ様があきれ顔で私にぼやく。


「おぬし、ヒーラーか。今なら国王の蘇生は可能じゃぞ」


 共に降り立ったレイアがけしかける。


「貴女は一体?」


 戸惑うエレノーラ様に私が答える。


「師匠、この女性が魔王です。今は私の妻です」


「わらわは魔王クライスラインじゃ」


「ええええええええええ!!!!!」


 とんでもない大声を出してエレノーラ様が驚く。まあ無理もない。きっとダブルで驚きなんだろう。


 そんな中、国民達の歓声が一層大きくなる。


「聖女様、ありがとうございます!」


「あの国王を倒してくださった! 我々の痛みを思い知らせてくださった!」


「誰かは知らないけど、ありがたい事です」


「俺達の苦しみを、よくぞ代わりにんでくれたな!!」


 国民達の歓声に交じって、直面する事態に対して本音が方々ほうぼうで上がっている。さながら正義の代弁者のようになってきている。


 よほど国民達の間で不満がまっていたのであろう。我々の行為に対して批判する者は意外にも皆無かいむであった。


「タクト、よく帰ってきてくれたな」


 イグノール達が私に気づいてやって来る。となりにいるレイアに気づき、一同が少し身構える。


「ああ、魔王なんだ。私達は結婚したんだ」


「け、結婚!!!!」


 イグノール達は驚き唖然あぜんとする。その反応は至極しごく真っ当だ。常識的に考えて無い選択肢だよな……


「ということは、あの時魔王にとどめを刺さなかったのは?」


 クローディアが私に鋭い視線を向けて尋ねる。


「あ、はい。その…… あの時はすでに魔王の美しさにれちゃってて、つい助けてしまいました」


 言いながら、私とレイアは顔を真っ赤にしてしまう。


「アホだな、お前は。笑うしかないな」


 クローディアに思いっきり嘲笑ちょうしょうされてしまう。すごく恥ずかしいんですけど。


 爆笑するクローディアをイグノールがたしなめつつ私に投げかける。


「それは置いておいて、この後の処理が大変だな。どうするんだ?」


「レイアが言っていたように生き返らせなくもないが、それができたとしてあとが大変だぞ。きっとお前達を処刑するだろうな。どうする?」


「それは俺達も嫌だな。どうしたものか……」


「それは我らに任せてはくれぬか」


 悩む私達のもとに、レガリック将軍が現れる。


「将軍!」


「勇者イグノール、そして皆さん、大変すまなかった。せめてものつぐないに、今後の処遇は我々に一任してはもらえないだろうか」


 処刑されかけた者達にご免ではまないとは思うが、ここはイグノール達の判断に委ねようと思った。


「私は構いませんわ」


 エレノーラ様が即答する。


「俺達もそれで構わない。ただし処刑は勘弁かんべんしてほしい」


 イグノールがパーティーを代表して発言する。


「わかった。ではこの件は我々で処理させてもらう。改めて、本当にすまなかった」


 あ、そうだ。忘れるところだった。私はレガリック将軍の方を見て一礼した。


「レガリック将軍」


「何か」


「国王の遺体も、どうぞよろしくお願いします」


「しかとうけたまわった」


「ありがとうございます」


 レガリック将軍は私達に深く一礼すると、兵士達と共にその場の収拾に戻っていく。一番厄介な問題を颯爽さっそうと解決してくれてホッとする。


 私は改めてレイアにエレノーラ様とイグノール達を紹介する。レイアもイグノール達の事は覚えていたようだ。


「おぬし達、なかなか強かったな。覚えておるぞ」


「まさか生き返って我々の前に再び現れるとは、ちょっと思いもしなかったがな」


「そうだな。壮絶な戦いだったからなあ」


 バルドス達もあの戦いを思い出しているようである。


「そしておぬしが聖女か。先ほどの回復術は見事じゃった」


「魔王にめられても嬉しくも何ともございませんわ」


「師匠、厳しいです」


 私がエレノーラ様をいさめて言う。レイアに謝ろうとすると、少しうれいを帯びた表情をしている。


「レイア、どうしたんだ? 元気ない気がするが」


「な、何ともない。気のせいだろう」


 少しあわてた様子でレイアが答える。レイアの様子が何かいつもと違う気がするが。まあ詮索せんさくはすまい。


「ところで聖女、よければわらわ達のところへ来ぬか?」


「何言ってるんですか? 行きません。これから色々忙しいのですから」


「そうか、それは残念じゃのう」


「レイア……」


 レイア、今日のお前はホントどうしたんだ? 私は心底心配だぞ。


 それにしても今日は色々あったし、これからも王国はあわただしさに包まれるだろうが、危惧きぐしていた処刑は我々の最悪の事態にはならずに終わったのである。めでたし、とはいかないが。


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ここまで読んでいただきありがとうございます。物語はまだまだ続きます。引き続きお楽しみください。


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