聖霊の守護王Ⅰ 竜の召喚者(第2版)

翠川 あすか

前半のあらすじ

 物語前半(41話まで)のあらすじです。ネタバレ含みます。



 赤い髪の人だけが暮らす赤の界の物語。


 赤の界の王国スオウミは、ある日突然隣国のキルドランに攻め込まれ、王女のヴェルと双子の弟カイルは、王宮を脱出する。キルドラン軍に追い詰められた絶対絶命の状況で、彼らを助けたのは、赤い竜だった。 


 竜はヴェルを『召喚者』と呼び、自分には召喚者を守る義務があるという。安全な場所に連れて行ってと頼むヴェルを、竜はその背にのせ、上空に飛び立つ。竜がヴェルとカイルを連れて行った先は、赤の界の西端にある竜護国ルーベルニアの聖竜の神山だった。


 竜護国は、かなり変わった国だった。聖霊の力を持つ人々が集まっているだけでなく、竜の召喚者たちも集まっているのだ。強い聖霊の力を持つ者は、竜を召喚できるのだ。さらに竜護国は、竜の召喚者たちによる、聖竜部隊に守られている。


 聖霊の力には2種類ある。癒しの力と夢見の力だ。


 光の聖霊力ともいわれる癒しの力は、文字通り、通常の医療行為とは違う方法で人を癒すことができる。


 闇の聖霊力ともいわれる夢見の力は、過去に起きた事象を夢でみることができる力だ。とはいえ、この力で、100年以上前のことや直前に起きた出来事を夢で見るのは難しいとされている。


 竜護国の中枢である聖竜の神山には、王はいないものの、大司おおつかさを筆頭に、強い聖霊の力を持つ司たちがいて、彼らにより竜護国は支配されていた。


 ヴェルたちを助けてくれた竜は、ヴェルたちの亡くなった母レイカが、かつて召喚していた竜だった。母も結婚前は、神山の夢見の司だったのだ。


 一旦は竜護国に逃げ込んだものの、この先どうするかヴェルとカイルは決めなければならなかった。竜を召喚できるほど強い聖霊の力を持つヴェルは、竜護国に留まることを決める。自らが持つ、夢見の力を磨き、母の様に神山の夢見の司になることを目指そうと決意する。


 一方、カイルは聖霊の力を持っていなかった。彼は竜護国を出て、白カラス(軍師の俗称)になるために、白鴉はくあの谷へ向かうのだった。


   ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


 現在の聖竜の神山には、夢見の部、癒しの部、炎の部、まつりごとの部、学びの部がある。この中で、一番力を持っているのは、夢見の部だった。


 かつて、夢見の部は、今は赤の界から消えた名もなき神の姿を夢見の力で見ることにより、神の代理を名乗っていた。だが、五千年の時を経て、彼らの夢見の力では、もはやその時代を夢で見ることはできない。神の言葉を直接聞けるという理由で、神の代理を名乗ることは、もはやできない。


 代わりに彼らが考え出したことは、夢の力で赤の界の国々を諜報することだった。名目は、赤の界の平和を守ること。大国が小国を攻撃する計画を夢で事前に察知し、それを防ぐのだ。

 

 だが、夢見の部の司であるユズリハは、現在の夢見の部の活動に疑問を持っていた。


 なぜ、キルドランのスオウミ侵略を夢見の部で事前に察知できなかったのか? ユズリハには、それが単なる見落としとは思えなかった。さらに、そのことを大司や夢見の長が調査・追求しないことにも不信感を抱いていた。


 ユズリハは迷った末、まつりごとの長エシュリンに、その事実を相談する。


   ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


 旅の途中、カイルは、ツモト親方と知り合う。親方から色々なことを教わる。

 親方はカイルの掌にある印は良い印だと言う。だが、カイルにはそうは思えない。

 幼い頃のカイルの夢は、竜を召喚し、聖竜部隊の隊長になることだった。母はそんな彼に、彼は金色の竜を召喚できると教えてくれた。さらに母は、カイルの掌の印が特別な印だとも。

 年齢を重ね、彼は自分に聖霊の力がないことに気づく。そして、聖霊の力が無い者は、決して竜を召喚できないことを知る。

 母が嘘をつくような人ではないとわかっていても、なぜ母がそのようなことを言ったのか、カイルにはどうしてもわからなかった。


  ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


 聖竜の神山学びの司トキワは、知人であるツモト親方から、あるものを見せられる。それは、薄く紅色に染まった紅炎樹こうえんじゅだった。


 紅炎樹には恐ろしい伝説がある。紅炎樹の白い枝が赤く染まる時、赤の界は滅びるというものだ。伝説をすべて真に受けてはいないものの、トキワは調査の必要性を感じ、準備を始める。


 さらにツモト親方は、第二のテイダス・ヤーンを探すべきだとトキワに助言。テイダス・ヤーンとは、赤の界五千年の歴史の中で、ただ一人竜王を召喚した伝説の人物。かつて紅炎樹が真っ赤に染まった時、テイダス・ヤーンが竜王と共に呪われた炎を鎮めたという伝説が伝わっているのだ。


 トキワは、紅炎樹の調査を、政争の結果神山を去った先々代の癒しの長エイケンに依頼する。


  ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


 ヴェルが竜護国ルーベルニアに来て2年以上の月日が流れた。彼女は学舎での訓練生の過程を終え、所属する部を決めなければならなくなった。


 聖竜の神山では、訓練生を修了した者は、夢見の部、癒しの部、学びの部、政の部、炎の部のいずれかの候補生にならなければならない。


 当初ヴェルは、夢見の部に行くつもりだった。だが、彼女は、太古の時代の夢を見られるほど聖霊の力は強いにもかかわらず、狙った夢の的に当てることは、まったくできなかった。


 現在の夢見の部は、諜報活動が主流なので、太古の時代の夢を見る能力は必要とされていない。夢見の的に当てることができないヴェルが、夢見の部の候補生になれる可能性はなかった。


 考えた末、ヴェルが選んだ部は炎の部だった。炎の部は、竜護国を守るための部だ。炎の部が擁する聖竜部隊は、赤の界にその名を轟かせ、少年たちのあこがれの的だった。炎の部では、竜を召喚していることを、重要視していた。竜が召喚できなければ、聖竜部隊の隊員になれないからだ。


 炎の部の面接で、間抜けな発言をしてしまったヴェルだったが、必中の射手と名高い炎の長コウヤは、彼女を候補生として採用してくれる。ヴェルは、第三偵察部隊の候補生として、炎の部に所属することとなったのだった。


 失敗を重ねながらも、少しずつ成長していくヴェル。


 ヴェルが候補生になって1年ほど経った。ヴェルはひょんなことから、まだ竜を召喚していない候補生たちが、最近、竜を召喚しにくくなっていると聞く。そのことが候補生たちだけでなく、聖竜部隊にも影響すると知り、自分でも何かできることはないかと考えるヴェル。


 そんな時、彼女は不思議な夢を見た。


 太古の言葉を使う老女と若者たちのやり取り。そこから、ヴェルは、太古の時代、神々の森にある風穴に、竜心玉という石があることを知る。竜心玉を砕いて竜笛に混ぜれば、竜が召喚しやすくなるというのだ。


 その夢の内容が正しいか自信がないヴェルは、学びの司トキワに相談。トキワは探してみる価値はあると言い切り、夫である炎の部の副長シュリオを説得。長のコウヤもその気にさせ、聖竜部隊の精鋭からなる探索隊が、オゾ山に繰り出されることになる。


 探索隊は無事に竜玉(竜心玉)を持ち帰り、それで作られた竜笛で、それまで竜を召喚できなかった候補生たちは、次々と竜を召喚したのだった。


 そのことに沸き立つ炎の部。

 一方、なぜ、今まで使えていた竜笛が、使えなくなってしまったのか、炎の長コウヤはそのことが引っかかり、単純には喜べないのだった。


   ◆    ◆    ◆    ◆    ◆


 ヴェルと別れて、カイルは母の兄で北砂諸島イエエトの首長である、タクト・ロウアンをもとを訪ねた。そこから、白鴉はくあの谷へ向かい、白カラスを目指すつもりだった。


 だが、伯父たちは、カイルが実の父親で白カラスだったカイト・ロウアンに生き写しであることから、カイルが白鴉の谷へ行くことに反対する。カイルを実の子として育ててくれたスオウミ王妃レイカとカイトは双子で、顔がそっくりだったからだ。カイトを知る人が多い白鴉の谷へ行くことは、カイルとスオウミの繋がりを連想させ、危険だと伯父たちは反対した。


 そんな中、祖母のナハラだけは、顔が似ていて問題ならば、違う顔になれば良いと言ってくれた。黒魔術師のソムジンに顔を変えてもらえば良いと。

 カイルはソムジンに顔を変えてもらい、フミト・イクシムという偽名で白鴉の谷へ向かった。


 カイルが白鴉の谷の訓練生になってから3年が経った。その間、年に一度、成長に合わせて顔を調整してもらいにソムジンを訪ねていた。


 カイルがソムジンを訪ねている時に、突然大爆発が起こり、近所の家が吹き飛ばされる。何事があったのかと誰も分からない中で、ソムジンだけは、心当たりがあるようだった。


 渋るソムジンから、何十年も前に、同じようなことが黒魔術師により引き起こされたことをカイルは聞きだす。史上最強の黒魔術師として名高い黒羽のミレイユが、豪族の館を吹き飛ばしたという伝説があるのだ。


 それを知ったカイルは、同じ方法で、祖国スオウミを滅ぼしたキルドラン国王モルセンに復讐できないかと考える。ミレイユが協力してくれれば、ひょっとしたら、キルドランの王宮を国王もろとも吹き飛ばせるかもしれない。カイルは、何としてもミレイユを探し出して欲しいと、ソムジンに頼むのだった。


 ソムジンがミレイユを見つけだすまでに、さらに2年かかった。彼女は黒魔術で有名なキサールに居るという。満を持して、ミレイユに会いに行くカイル。案の定、ミレイユは、カイルの頼みを突っぱね、謝礼にと差し出した金貨の小袋は、彼の掌から弾き飛ばされた。だがその直後、ミレイユの表情が変わる。食い入るようにカイルの掌の『印』を見つめるミレイユ。


 一転、彼女は、カイルの残りの人生と引き換えならば、彼の復讐を手伝ってやっても良いという。これを承諾するカイル。


 白鴉はくあの谷に戻ったカイルは、隣室のブラウに内定していたキルドラン軍師を譲ってもらい、復讐のためにキルドランの都サノカルナに乗り込むのだった。




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