(11)いいですね、その目

 選択肢はありません。後退してトースターを受け止め、そっと床に置く。それから、迫り来るであろう敵機械人形を2ないし4分割します。


 ひとつ。何かひとつでもセンサーが蘇れば。


 この程度の相手に遅れをとる雪月ではありません。目隠し、片手落ち、片足落ち、両手落ち。いままでたくさんのピンチがありました。おもにお嬢のせいです。お嬢が自分勝手に動くので、雪月が体を張ってフォローして。それでも、最後には勝ってみせました。


 外部入力がジャミングされているだけで、雪月の"内側"のモニタリングは正常です。ウイルスを仕込まれていたら、こんなふうに思考することもできていないでしょう。そうやすやすと侵入を許す雪月ではありませんが。要するに、雪月が外部の何かを認識するのを、阻害しているわけです。


 ならば。


 雪月を拡張すればいいだけの話です。


 先に切り伏せた敵機械人形1号の位置は把握しています。今は首だけでこちらを見ているはず。動けるわけありません。


 飛び退きながら前方斜め右。転がっているはずの首に向けて、刀を投げました。


 戦闘時は雪月の掌底からコードが伸びて、刀の柄と接続するようになっています。刀までなくさないように、とお嬢が改造してくれたものです。鞘をなくし、2人してこっぴどく叱られた日の夜でした。


 せっかくだから機能盛り盛りにしてしまおう、とお嬢の悪癖もしっかり出ていました。雪月の体で遊ぶのはお嬢の数ある趣味のひとつです。


 雪月と刀はリンク状態であり、現状は刀が接触している対象にも、刀身を介してアクセスできます。斬り込みが深いほど、より深層まで直接乗り込めます。相手の防護障壁を突破している暇はありません。システムに直接侵入です。


 ナイスキャッチ、雪月。


 カメラが映像を映しだすと、ちょうど雪月がトースターを受け止めたところでした。その後ろにはカナタとマスターがいます。カメラと雪月のあいだで、首をなくした機械人形が雪月に向かって跳んできています。首を落としたくらいで、機械人形は止まりません。が、権限強めのシステムは頭部に集中しているものです。


 緊急停止のコードを頭部から送りました。首ナシの機械人形がバランスを崩して、その場に倒れ込みます。


 もう一体の機械人形がいません。


 コードを引き、刀身を回します。ぐるりとカメラも回って、扉のほうを向きました。


 あ、まずい。


 扉側の壁際で、敵機械人形が散弾銃を構えています。おそらく、雪月と同時に飛び退いたのでしょう。有効射程距離よりちょっと間合いが空いているのは、雪月の後退を予期していなかったからと考えられます。離れすぎです。この距離で射出しても、機械人形には有効打になりえません。


 機械人形には。人間とトースターは別です。


 トースターを後ろ手に隠し、射線を塞ぐように横っ飛びしました。引き金が引かれるのと同時に、右手を思い切り振ります。


 カメラの映像が高速で動き出しました。散らばった椅子やテーブルが画角の外へ飛ぶように消えていきます。

 

 カメラは被写体をまっすぐ捉え、ぐんぐん接近しています。体が、肩が、横顔が、ドアップになり表皮に刺さった木片までくっきり映って、それから唐突にブラックアウトしました。


 ナイスシュートです、雪月。


【>>>CHECK】


 バックグラウンドで自己保存プログラムが損傷診断を走らせました。銃弾は雪月の外装さえも貫通できず、全て床に落ちています。無傷です。最後の映像から五体満足のほうの機械人形の位置は把握済み。コードを巻いて刀を引き寄せます。


 ジャミングも消えました。メインカメラの視界が戻ります。周囲、とくに店外に向けてスキャンをかけます。どうやら増援はないようです。


 刀には、ひしゃげた敵機械人形の頭部が刺さりっぱなしでした。


 事態が好転しなかったら打つ手なしだったのは、秘密です。


 先ほどのハッキング中に、機体構造もチェックしておきました。倒れている機械人形のバッテリーに刀を突き刺し、状況終了です。


「終わった……の?」

「はい。つつがなく」


 頭部を振り落とし、頭が残っているほうの機械人形に接触します。受けている命令は現在地近辺の捜索。ピンポイントで雪月たちにたどり着いたわけではなく、この接敵は偶然だったようです。相手の情報といっしょにジャミングのプログラムを探り、やめておけばよかったと後悔しました。


 プログラミングコードから検索をかけたところ、どうやら数年前に流行ったものとわかりました。過去形です。今では対応策も確立されており、ネットの評判は「かかれば儲け物」「かかるやつがバカ」とのこと。


 誰がバカですか。


「彼らは世界連合のようですね」


 倒れた椅子を起こし、カウンターに座り直しました。


「……どうしましたか?」


 カウンターの向こう側では、カナタが体を小さく丸めています。


「どうしたもこうしたも……だって、私いま、殺されかけて」

「そんなのーー」言いかけて、カナタはお嬢とは違うということに、思い当たりました。でも続けました。「どうってことないでしょう」


「なん……っ! あぁ! もう!」

「嬢ちゃん落ち着きな。俺を見ろよ。店こんなにされちまって、どうしようもねぇもの。落ち着きの極地だぜ」

「こういうことが嫌だから! あなたに、会いに、きたの! 私は普通に、普通の暮らしが……したいんだってば」


 カナタは顔を伏せています。


 お嬢が同じ歳の頃には、寝込みを襲いに来た誘拐犯を返り討ちにしていました。それができないのなら。向いてないということです。

 

「それなら、ここに来たのは間違いでしょう。財宝なんて忘れて、世界の隅っこに隠れていればいいだけです。そのほうが、襲われる確率は減ります」


 あぁ、でも。そうですね。お嬢にも、こんな時期があったかもしれません。


 雪月があてがわれて、間もない頃です。見えもしない敵に怯えて、毎日を暗い部屋に引きこもって過ごしていました。


「減るだけよ。一生、誰かに狙われるかもしれないなんて怯えながら過ごすのに変わりないわ」

「えぇ。でも、今よりは安全です」

「あの冷徹機械人形のいうとおりだ。こんなところいたら身がもたないぜ。悪いこと言わないからよ、帰ったらどうだい」

「違う」


 カナタが立ち上がりました。目が赤くなっています。泣いていたようです。カナタは泣き虫です。肩だって震えています。


「10が1になったところで、私にとってはゼロかイチ。一生隠れるなんて、真っ平ごめんよ。だったら、私が終わらす。私が見つけちゃえば、いいんだもの。でしょう?」


 いいですね、その目。


 そういうの、雪月は好きですよ。

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