(9)詰みです

 おおかた予想はついてました。"一斉蜂起"は関係者すべてが多大な影響を受けました。関係者はこの世界のすべての人、そして機械です。


 当時は多くの派閥がありました。今もあるのでしょうか。旧態依然の体制を維持しようとする貴族会。機械の自由化を求めるレジスタンス。いえ、雪月を任務から解放するというような、機械の自由権利を獲得しようとする高尚で暇な人々ではなく、自分たちにも自由に使わせろという団体です。


 高尚で暇なほうは共生論者と呼ばれてました。やることなすこと過激派で、雪月との戦闘回数も最多です。


 あとは有象無象の小派閥に小市民がいたわけです。


 未来永劫小競り合いするのではとさえ思えた世界を、"一斉蜂起"がまっさらにしました。その関係者たる、お嬢の秘宝なわけです。まあ、シンプルに考えて"一斉蜂起"絡みでしょう。二度と起こしたくない派閥も、もう一度起こしたい派閥も、こぞって狙いにくるわけです。


「お嬢ちゃんも大変なんだな。俺も世界中が敵にみたいなもんだからよぉ」

「そうなの?」

「ミニお嬢、彼はフィールド&キャッスルの廃人です」

「そこまでじゃねぇよ」

「なんだ、ゲームの話ね。ねぇ、それってそんなに面白いの?」

「まさか! やってないってのかいお嬢ちゃん」

「一応領地は持ってるわ。小さいけど」

「現実と一緒ですね」


 おっと。カナタが睨んできます。気をつけていても、軽口は出てきてしまうものです。バグですよバグ。


「お嬢ちゃんよお、この世で一番偉いやつを知ってるか?」

「世界連合の代表?」

「あんなのお飾りさ。この世で一番偉いのはな、フィールド&キャッスルが一番強いやつだ。一番強いってのは、一番領地を持ってるーー」


 マスターの動きが止まりました。自分のターンが訪れたようです。


「あなたも領地を持っているのですね?」

「一応ね。でも、最初に配られたところだけよ」

「十分です。サーバーにアクセスしてください。もちろん、雪月もあなたとリンクします」


 フィールド&キャッスルは公平を期すため、コンピューターの使用を禁止しています。監視は意外と厳重で、まず機械によるアクセスを弾き、さらにプレイヤーの挙動を毎秒監視し、怪しい動きがあれば調査、黒なら永久BANです。


 とはいえ、多少のハッキング知識があればアクセス自体はそこまで難しくありません。問題は代打ちのほう。人間のサンプルが、それこそ世界人口の数いるわけですから、なりすましなどほぼ不可能です。


 今、リアルタイムの情報を得ようとするならば、フィールド&キャッスルの公開チャットが最良の選択肢といえます。そこでは多くの人が対話をし、取引し、交流しています。雪月が今朝アクセスしたニュースサイトは、そこから漏れでた情報を趣味レベルでまとめている有志のサイトにすぎません。狂人の趣味です。何が楽しいんでしょう。


 カナタがポケットからブレスレットを取り出しました。装着型通信端末です。こんなんでも一応、追跡を気にしてオフラインにしていたようです。偉い偉い。


 カナタが端末をオンラインにしたのと同時に、ネットワークに飛び込み防御障壁を構築しました。逆探知と位置情報の流出防止。これくらい当然です。


「3年ぶりくらいかも」

「領地が残ってるといいですね」


 一応、ルール上は最小単位の領地だけは何があっても失わないはずです。そこから巻き返せるかというと、怪しいものですが。


 五感のすべてをゲーム内にリンクされるフルダイブ式が流行ったのは昔のこと。健康被害のエビデンスが複数挙げられて廃れました。時代は一周するもので、今は外部デバイス越しにUI(ユーザーインターフェース)を見るオールドスタイルが主流です。


 そもそも、ターン制のシミュレーションゲームに一人称視点の有利があるとは思えません。戦況を俯瞰できた方が強いでしょう。


 マスターのような、体内に通信機器を埋め込んでのプレイは、視聴覚が一時的にゲーム内とリンクするはずです。つまり、マスターは一人称でプレーしています。王様気取りなのでしょう。


 さて、カナタの通信に雪月を潜り込ませます。果たしてーー


【>>>CONNECT】


 想像以上に四面楚歌でした。


「なにこれ……はじめたときは野原だったのに」

「砦に囲まれてますね」


 宗教上の理由で撤去も移設もできず、ビルの狭間にぽつんと残されたモニュメントのようです。雪月がフルスペックでも、ここから領地を取り返すのは無理でしょう。そもそも、雪月は専守防衛型です。守りは得意ですが攻め入るのは専門外です。カナタには諦めて、小さく生きていてもらいましょう。


 フィールド&キャッスルのルールは基本シンプルです。まず、最初に領地と領民を与えられます。ターンが訪れると、領民や部下に支持を出せます。例えば、農耕だったり、建築だったり、商品開発だったり、侵略だったり。


 ターン中に可能な命令は領民ユニットの数に関わらず3つまで。どれだけ領地を拡大しても公平性が保たれる仕様です。とはいえ、ユニットごとに行動の得手不得手はあります。


 限られた人材と時間でいかに効率よく領地を広げるか、そういうゲームなわけです。


 カナタにできることといえば、鳥の爪先ほどの領地を豊かにするくらいでしょうか? それにも限りがありますが。


 悲惨な惨状を横目に、公開チャットに目を通します。ユーザーデータから地域を限定。九龍の、とくにターミナルから南側にかけての地域に絞り込みます。


 番外戦術としてプレーヤー同士の交渉も認められています。同盟を組んだり、裏切ったり、土地や領民を交換したり。なんでもありです。オープンチャットは本来、ゲーム内の交渉目的で使われる想定だったのでしょうが、いまはもっぱら、井戸端会議の会場と化しています。情報の仕入れ先としてはこれ以上ありません。


 今日の晩御飯は煮豆!

 煮豆うまそー。

 九龍は今日も平和です。

 最近寒いと思ったら壁なくなってたわ。


 フィルタリングを強化して、取り留めもない日常会話を外します。どこまで効果があるかは知りません。


 機械人形が歩いてる!

 誰かチーズと魚交換してください。

 土地一個な。

 法外すぎるだろ。

 外うるせぇ。

 祭りやってる。

 うちもうちも。

 パレードっぽい。飯うま。

 世界連合の人らしいよ。

 嘘つけ。

 なんの用だよ。

 家の上をエアシップが通ってったけど、世界連合ぽかった。

 お前んち屋根なくない?


 なるほど。


「ところで、どうやって九龍に来ました?」


 周辺の砦情報にアクセスしているカナタに問いかけました。何をやっても手遅れでしょうに。


「船とエアシップ。もっと時間かかると思ってたんだけど、偶然いい感じのエアシップがあって、潜り込んできたの。警備も緩かったし」


 なるほど。


「泳がされましたね」

「え?」


 いかにお嬢の子孫といえ、まだ14歳の小娘。修羅場の経験ひとつないでしょう。そんなミニミニ人間が、誰の助けもなく九龍に辿り着けるわけがありません。九龍は絶海の孤島です。オフィシャルな経路は一切なく、プライベートの行き来が基本。そして最寄の陸地は世界連合に非加盟で、小娘が1人で歩けるような治安では、ありません。


 どこに行くか、観察されていたはずです。何も行く手を阻まないよう、最高レベルの配慮をされて。それこそ、世界レベルの警護を、秘密裏にされて。


 ソート済みの公開チャットが慌ただしくなりました。


 今日エアシップ多くない?

 引っ越しでも流行ってんだろ。

 空前の九龍ブーム!

 今、九龍が熱い。

 急げヤロウども、祭りの予感だ。

 

「いきましょうか」


 カナタごと、無理やり接続を切りました。


「ちょ、なんで。私の土地!」

「あそこからなにができるんですか。領地も領民もなく、周りは屈強な砦だらけ。詰みです」

「なんだ、お前たちもやってたのか」

「いろいろ情報集めを」

「敵ってのがわかったのか?」

「無意味です」


 カナタとマスターが目を丸くしてます。


「世界連合から共生論者まで、よりどりみどりです。次々集まってますよ」

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