3. 蔵書整理は計画的に
第10話
私が働いている大学は、少子化に伴い年々入学者数が減っていた。そこで見直されたのが図書館だった。
授業の宿題、レポートの課題、全ては図書館の本に答えがある。
今までの本を借りるのが目的だった図書館を、自習スペースや防音対応のディベートスペースを増やし、改築して空間のある憩いの場にした。
図書館の利用者は当然増えた。しかしそれは、大学の入学者数の増加にも繋がったのだ。
私は単に整理したいから「片付けよう」と言ったのではなく、財政難打開に繋がりそうな、ちゃんとした根拠があるのだと2人に伝えた。
「···あなたの言いたいことは理解した。しかし、この乱雑に置かれた書物のどこから手をつけるのだ?」
「まずはジャンル分けしよう!」
「····ジャンル、とは?」
「書物の分野ごとに分けるの!例えば、さっき瑞凪様が読んでいたのは"言語"の分野だし、茶葉の育て方なら"植物"に分類されるし。」
「····なるほど。」
瑞凪様が足元にある本を取り、「これは歴史···」と呟き、また違う本を取り「こっちは、美術か···?」と言って適当に棚に並べていく。
「瑞凪様、そんなやり方じゃ何年かかっても終わらないよ!500万冊もある蔵書整理には計画と人数が大事なのよ!!」
私が紙とペンがほしいと伝えると、智彗様が廊下にいた従者に声を掛けてくれた。
埃が舞う書庫で、3人の"知の聖地開設会議"が行われた。床に座り込んで···。
まずは50人の従者が必要であるということ。そして分野をあらかじめ書き出しておき、書物を分野ごとに分けていく。
次に分野ごとに担当者を決め何冊あるかを確認。タイトル名を見てこの世界の言語順に棚に並べていく。
問題が出てくるのは、この棚に並べる作業の段階だろう。
柔らかい和装本を上手く本棚に収められるのかという問題と、きっと本棚の数が足りないということも問題になってくる。
瑞凪様が私の言うことを細い筆で和紙に書いていき、智彗様は私と瑞凪様を交互に見て「ふむふむ」と頷いていた。
「出来れば棚の配置も変えたいよね。あと読むための机や椅子もほしいし。」
「瀬里はその"としょかん"というものが大好きなんですね!」
「え?!ま、まあ本の整理は好きだけど、」
「でも、その"ほん"を人に読んでもらいたいという気持ちが沢山伝わってきます!」
隣で笑顔を見せる智彗様に、色々考え込んでいた私もつられて笑顔になる。私が図書館好きにみえるって、私には最高の褒め言葉かもしれない。
それからしばらく3人で計画書をまとめていると、書庫の扉を叩く音が聞こえた。
「皇帝陛下!少しお時間よろしいでしょうか?」
智彗様がちょこちょこと駆けていき扉を開けると、髭の従者が一礼をした。
「申し上げます!西の農村より参った男が、急遽、宮廷専属医に会わせてほしいと申しております!」
「え?うちの専属医···?」
「はい、何でも農村では流行り病が蔓延しているとかでして···」
「···王都の診療所では何か駄目な理由があるのでしょうか。」
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