第4話 奴隷少女と傭兵 前編

 失敗と言うのは、生き物であれば凡そ避けて通れるものではない。しかし、大抵の失敗というのは挽回する機会も訪れるものだ。人生に於いて、取り返しのつかない失敗というのは、そうそう起きるものではない。人によっては起こすこと無く人生を終える者もいるだろう。


 彼女が取り返しのつかない失敗を犯してしまったのは、彼女が生まれて約半年ほどの頃の事だ。一度目の建国祭を迎えるよりも前の事だったのは、残酷な話だ。


 彼女には、前世の記憶があった。


 コレが祝福、神様からの贈り物、そう言った類のものではなく、呪いと言っても差し支えない程、悪い影響を齎した。


 赤子というのは、自身の不調や不具合を他者へ伝達する手段が非常に少ない。それこそ、泣いて訴える他にない。しかし、彼女は不幸なことに前世の記憶と自我を有してしまっていた。


 大抵の欲求に対して理性で抑え込むことも出来てしまえば、生きる上で必要な食事や排泄等の要求も、泣くという手段を取らずにこなしてしまった。


 産まれてから少しの間は、それでも良かったのだ。周囲の大人達は手の掛からない赤子に、天才だ、神童だ、と持て囃した。


 半年ほど過ぎた頃だった。彼女はまともに言葉を覚えることが非常に困難だった。これは前世に記憶が弊害となっている。彼女は前世で三十四年、別の国、別の文化、文明に触れていた記憶が色濃く残っていた。あまりに違う発音形式だった。前の世界の記憶に支配され、凝り固まった言語野は、一から他言語を、真っ当な教材もなく覚えるのは困難を極めた。自身の名前も、乳母の名も、父の名も、母の名も、発音できるまで長い時間が必要になってしまった。


 ここで、彼女にとっては不幸なことが一つ。


 彼女の出生した家は、貴族の家系だったことだ。些細な悪評一つで首を掻かれる貴族社会において、産まれた長女の知能が遅れているというのは痛手だと、彼女の父親は考えてしまった。或いは、このまま隠して育てるより、産まれていない事にしてしまった方が家に良い。そんな邪念を抱いた。


 彼女が満一歳を迎える前に、父親は占い師を秘密裏に家へ招き、娘を占わせた。


 結果は、家に災いを招くだろう。告げられた父親は自身の抱く邪念を正しいと確信に至らせてしまった。


 乳母と母親が泣いて止めるのを振り切って、赤子を魔物の住まう山の中へ捨ててしまうのであった。




 彼女は自身の部屋の戸を叩く者がいる事を、事前に足音から察知した。最も、それが誰かまでは分からなかった。牙の掟か、生命第一か。何方にせよ、首都ベルンまでの道程も半分を過ぎている。ここから先に危険がある事もほぼないので仕事について会議も必要ないだろう。


 まぁ、誰でも良いか、と彼女は般若の面を被り直す。


 遠慮がちなノックの音が耳に届き、彼女は刀を腰に差し直して扉を開けた。


 意外にも、そこに居たのは依頼人であるゼーンズ少年だった。成人したと言えど、育ち切っていると言い難く、少年と称して間違いない。


「お休みの所、失礼致します。少々、お話したいことがありまして」


「畏まりました。では、ラウンジへ参りましょうか」


 部屋に招き入れるのは、外聞として宜しくないだろう。傭兵仲間達には耳の良い斥候の役割を熟す者もいる。後で何とからかわれるか、分かったものでは無い。ゼーンズの部屋に行くのも宜しくない。奴隷達がいる故に二人きりではないと思いがちだが、アレらは商品で人ではない。実質二人きりになるのと一緒である。衆目もあって、それでいて落ち着いて話せ、近場となれば宿屋の受付付近にあったラウンジが適所だ。


「しかし、帯刀は予想出来ましたが、仮面も外されないのですね」


 足音を察知して事前に装備しただけであり、休憩中、一人になる場合は流石に外している為、否定の言葉を口にすることにした。


「流石に休息中は外します。これは師匠達からの言いつけでして、トラブルの元になるから顔は隠すよう、厳命されました」


 はて、とゼーンズは歩きながら首を傾げた。顔を見せると、どんなトラブルが起こるというのか。銀仮面卿の仕草も、態度も、言動も、声色もとても柔らかく、傭兵という荒事もする職種の人に対して感じるモノとして適切では無い感想を抱く。声は女性そのもの。体型も、腰を締め付ける帯と言うらしい存在によって細い腰が強調され、胸部もゼーンズには刺激が強いと言って良い程にある。間違いなく女性である事に疑いはない。


 話をする前に思ったのは、仮面は唯一頭部を守る為の防具の一種なのではないか、だったが。話を聞く限り違うらしい。


 顔が傷だらけなのか、焼け爛れるているのか、醜いのか。仮にそのどれかだとしても、彼女の人柄からトラブルなんて事にはならなそうである。


 あれこれと考える内にラウンジへ着いた二人は空席の机と椅子の一席に腰を降ろした。


 宿の外側の席へ銀仮面卿が、室内側の席へゼーンズが座る。


「さて、単刀直入にお聞きします、この都市に着いてすぐの事です。皆に休憩を告げた時、貴方は依頼以外の事に気を遣っていたように思えました。貴方は、何を気にしていらしたのですか」


 ゼーンズが彼女の視線を追って見たものは、男爵邸に入る人影と道に停めた商隊の馬車だった。彼女は、何を見て、何に気がついたのか。


「私が見たのは、商人風の男が馬車から降りた、未成年にも思える少女二人を連れて館へ入るところ、でした。少女達の服装から、見習いの商人とは到底思えませんでした」


 彼女の話を聞いて、ゼーンズもその商人達について妙な点に気がついた。


「こちらもお訊ねしたい事がございます。バッハマン商会は、他の商会で奴隷を扱う商会がどれ程あるか、ご存知でしょうか」


 ソコである。当然、商売敵に成り得る商会の情報は収集しているし、商会内で共有もしている。ゼーンズはあの時見た記憶をより鮮明に思い出す。


 馬車の特徴を、荷車を覆う布地に刺繍された紋様を。



「…あの馬車の商会はオズワルト商会で間違いないでしょう。私たちの活動拠点のあるラインハルト公爵領都より西方、ベルク伯爵領都にて主に商売をしています。キンダー伯爵領への距離は私達と変わりません。そしてオズワルト商会は奴隷を扱っている事は、表向きはありません。…そこで確認しておきたいのですが、その二人の少女は、間違いなく、奴隷なのですか」


 間違いなく、の部分を強調してゼーンズは言った。間違いない場合、情報収集に漏れがあるか、国に登録を行わず違法に販売していることになる。


「さて、間違いなく、とは言い難く。しかし、他に商品と思える何かを荷車から降ろした、という事はありませんでした」


 十中八九、違法の奴隷だろう。しかし、何か打つ手を講ずるも難しい。何せ問題が多すぎた。ゼーンズの幼い正義感が違法に取引された奴隷を助けろ。商会を、販売先を許すなと訴える。しかし、商人として育てられた冷めた頭脳は違う訴えもしていた。


 まず、そもそも本当に少女二人が奴隷かどうか不明な事。もし、万が一にも違った場合に被るこちらの不都合は計り知れない。しかも貴族が相手だ。貴族法により、不当な理由で貴族を訴えた相手は最悪、一族斬首まで有り得る。


 次に、違法な奴隷だったとして。訴えたところで調査の手が入る前に、違法に手に入れた奴隷の少女等、販売元も含め、貴族なら容易に口封じに処分できてしまうだろう。そうされてしまっては、貴族も商会もシラを切ることが出来てしまう。


 あれこれと頭を捻るゼーンズに、銀仮面卿は声をかけた。


「明日、出発でしたか」


「…っはい、その予定ですが」


「では、今晩の間だけで宜しいのですが、私と生命第一の魔法使い、シュトリーの自由行動を許可して頂きたいのです」


「そ、それは構いませんが、一体何を…なさるつもりか分かりませんが、相手は貴族ですよ?!」


「バッハマン商会にご迷惑をおかけするような事態には致しません」


 覚悟も、やる事も決めて立ち上がった彼女の姿を見て、ゼーンズは何故か、自身の愛した小説に登場する、力と自身の正義を重んじ、勧善懲悪を下す英雄譚の傭兵を思い出していた。




「お断りしますー!!」


 ゼーンズと銀仮面卿はラウンジを後にすると、続けて生命第一の一行が泊まる部屋へ向かった。


 部屋の扉を叩けば、中から生命第一の少年、リーンが顔を出した。まだ十五歳の生命第一で最年少の若手である。


 依頼主のゼーンズと銀仮面卿は強く歓迎された。主に依頼主、ではなく銀仮面卿が、であった。口々に生命第一の彼らは珍しい珍しい、とはしゃいでいる。


 そして、部屋に入るなり銀仮面卿は単刀直入に要件を告げた。


 そして、アノ反応である。


「やはり、貴族と事を構えると言うのはリスクが勝りますね」


 ゼーンズが呟いた。こればかりは仕方ない。彼女達にも生活が掛かっている。他人のために権力へ牙を剥く、そんな存在はそうそういないのだ。


「別にお貴族様はどうでもよくて」


 違ったらしい。どうでもよいのか。


 裕福でこそあれ、商人であるゼーンズは平民であることには変わりない。父が貴族と商談をしている様も見たことがあるが、貴族はどうしても雲上人に思えてしまうのだ。


 そんな貴族と事を構えるとなれば、権力も何もかもが強大に思えて萎縮もしてしまう。


 貴族を相手にするのはどうでもよくて、何が悪いのか。


「私達、魔法使いは傭兵組合に所属してるよりも前に、魔法使い組合にも所属しています。魔法使いは強大な力を持つこともあります。私たちは組合に参加しなければ魔法を唱えてはいけないし、組合に入るには厳しい試験もあるし免許もあります」


 そこまで聞いて、ゼーンズは一つ納得して頷いた。初めて聞く話であり、興味深くもあった。成程、通りで奴隷に魔法を教えない訳だ。組合への参加、試験勉強、免許の管理。面倒が山積みだ。


「さらに法律で街中で使える魔法はかなり制限されます。銀仮面卿、貴女が私に求めるモノも分かります。当然、街中で使用するのは違法です」


「シュトリー」


 断固拒否する姿勢を決して崩そうとしないシュトリー。が、銀仮面卿の普段聞く柔らかい声色とは違う、真摯な声に思わず心が跳ねた。頬が熱くなった気がする。


「奴隷と思われる少女二人は、恐らく未成年で、幼い、女の子なんだ。頼む。力を貸して欲しい」


 銀仮面卿が頭を下げて懇願した。腰から曲げる礼と言うのは見たことがないが、誠意は感じられる。


 シュトリーの周囲からどよめけ声が上がった。視線が自分に集まったのをシュトリーは感じた。


 シュトリーが呻く。


 傭兵の世界において、女性というだけで無事に生きていくのは非常に困難だ。


 自衛ができるほどに成長するまでに、男の傭兵に何度襲われることになるか分からない。パーティーに所属して護られることも実は稀である。傭兵共の女性をパーティーに入れる理由の七割はパーティー内で犯すためであった。


 シュトリーは幸運だった。魔法使いの免許を先に取得していたから。


 免許を取得し、魔法使い組合に所属しても出自が平民であるため宮廷務めは不可能。幾つかある仕事候補の中、自由と一攫千金を求めて傭兵となった。


 免許を持ち、大手を振って魔法使いを名乗れれば、新参でも有力パーティーに参加出来る。


 しかし、それでも外道というものはいるものだった。初めてシュトリーが参加したパーティーで、初めての依頼。まずは力試しと魔物を狩る常駐依頼をこなす為に都市を離れて森へ向かった際に事は起きた。


 仲間達に犯されるかけたのである。未遂に終わったのは、幸運にも近くで魔物相手に狩りをしていた生命第一の一派に助けられたからだった。


 あの時の恐怖をシュトリーはよく覚えている。暫く、異性と言うだけで身体が怖ばって仕方がなかった。魔物を相手取る方がマシと思える程だった。


 そんな恐怖を、まだ幼い女の子が受けようとしている。


「……あぁもう!もし免許剥奪されたら一生養ってよね!あと、貰うもんは貰うから!」


 ヤケクソと叫ぶシュトリーに、銀仮面卿は力強く肯定で返した。




 その夜。


 伯爵邸からそこそこ離れた位置に銀仮面卿とシュトリーは待機していた。


 魔法の使用を目撃され、衛兵に通報されないよう、人目を避けた路地裏である。


「では、シュトリー。頼んだ」


「あぁ。はいはい」


 シュトリーは杖を構えた。シュトリーの身体に服のように纏った魔力に色がつき、身体から膨れ上がる。魔力が視覚で確認できるようになると、構えた杖の先に流れて集まっていく。


「獣の形を創る魔法」


 シュトリーが呪文を唱えると、シュトリーの杖の先の魔力が黒い鳥の形を象って飛びだった。


 シュトリーは目を閉じて蹲る。視界が二つに増えて、視覚情報が倍になればどんな生き物でも混乱するだろう。シュトリーお得意の生き物を造り出して操る魔法を使う時、彼女はこうして自分自身が得る情報を制限するのだ。


 操る烏は黒い身体を夜に溶かしながら、空中を駆けるような速度で伯爵の館を目指して飛んだ。


 シュトリーはこの魔法で離れた場所への斥候を行うことが出来る。


 館の敷地内に入る事は出来たものの、流石に館の中へ入ることは出来なかった。窓を覗こうにも、カーテンを閉められて中の様子は確認できそうにない。



「銀仮面卿、館に着いたは良いけど、中を覗けないよ」


「ありがとう、十分だ。館の中で騒ぎがあれば、衛兵達に何かしらの動きがある、だろう。その時は…」


 目を瞑り、蹲って烏の視界に集中していたシュトリーは思わず本体の顔を上げて目を開いた。


 銀仮面卿の纏う雰囲気の変貌に驚きを隠せなかった。彼女の纏う気配に当てられて、思わず鳥肌が立つ。


 互いに落ち着きを取り戻すと、シュトリーはまた烏の視界に集中すべく、目を閉じた。


 烏の視界に映る館の代わり映えのない映像に退屈する。


 思わず、目を閉じたまま銀仮面卿に話しかけた。


「ねぇ、銀仮面卿がその娘達を助けようと思ったのは、やっぱり女の子だから?」


 異性という、どうしても自身より屈強な存在に迫られる恐怖は計り知れない。


 しかし、銀仮面卿は傭兵の駆け出しの頃からこの格好で浮いていた、依頼を合同で行うことは幾度となくあったが固定の面子でパーティーを組むことも無かった、とリーダーや先輩の傭兵達から聞いたことがある。


 何となく、彼女が男性に組み敷かれる絵図が、シュトリーには想像できなかった。


 銀仮面卿から返事はない。何か悩んでいるらしい。


「特に、理由はない、な」


「難儀な性分してるのねぇ」


 傭兵達の間でも話に上がる程、彼女はお人好しなのだ。損な性分だとシュトリーは思う。頼まれたら、断れず。弱きを見たら、助けずにはいられない。


 思考に耽るあまり、変化に気がつくのに少し遅れた。魔力の塊である烏の視界に衛兵達が件を抜いて館の扉を半円の形で囲うように固め出した。


「銀仮面卿!衛兵達に動きがあった!」


 次いで、扉を破るように出てきたのは見知らぬ二人の少女。その後ろから衛兵を連れた身なりは良いが太った貴族らしき男。少女達は辛うじて衛兵達の間を縫うように駆け抜けた。門は衛兵達に固められている。逃げた先にあるのは壁だけだ。


「銀仮面卿、まずい。このままじゃあの娘ら…」


「ありがとう。助かったよ。シュトリー。行ってくる」


 銀仮面卿の声が耳に届き、シュトリーは本体の目を開いた。そこに銀仮面卿の姿は既に無く、あるのは銀仮面卿が地面を強く蹴った跡だけだった。


「はぁ、さて」


 銀仮面卿の活躍は気になるが、シュトリーが銀仮面卿に頼まれ事は終了である。傭兵は依頼書に書かれた以下は許されないが、書かれた事以上もする必要がない。組合を通した依頼ではないので依頼書はないが。


 ここからは、出発前にゼーンズから密かに頼まれた頼み事である。バレたら傭兵生活も魔法使いも終わりだが、恐らく公爵領に住む女性の羨む環境第一位の銀仮面卿のヒモ、基、妻のような立場になれる。成功すれば、組合にも覚えが良いバッハマン商会と銀仮面卿に恩を売れる。パーティー内の立場も上がるかも。


 なんだ、どちらでも良いではないか、シュトリーはそう結論付けた。



 身分の高いものは、その地位に相応しい責任と義務が生じる。これは全ての貴族が胸に刻むべき言葉である。幼い頃から貴族として生きる為、あらゆる事を学ぶ中で最初に教わる言葉だ。果たして、現存する貴族達の中に、この言葉に恥じぬ貴族がどれほど居るのか、と白い少女は思う。


 両親は間違いなくその言葉に恥じぬ貴族だった、と売られて尚も白い少女は断言出来た。


 伯爵として皇家から代々任された土地は決して広大ではない。領民も他の土地と比べて裕福とは言えなかっただろう。それでも堅実に治め、領民もそれに答えるように素朴でありながらも実直に、健やかに生きた。


 魔が差したのだ。あの時は。


 領地の山に鉱脈が見つかった、と山師と商会から話を持ちかけられた。この話が成功すれば、鉱石の産地となり、加工する職人も招けば宝石や魔宝石の供給も可能となり、人がより集まる。領民達に、より裕福な暮らしを。


 借入すらして財を投げ打って興した鉱脈を当てる事業は見事に失敗し、領地の税収だけでは返済が間に合わず、家財だけでなく、娘すらも売らねばならなくなっていた。


 恨んでいない。本心である。真っ当に教育を受ける環境を与えてくれた。愛してくれた。貴族としての矜恃を育ててくれた。


 そして、その矜恃が叫ぶのだ。


 護れ。護れ。護れ、と矜恃が叫ぶ。民は、慈しみ、愛し、護るべき存在だ。


 この少女は、我等が領地の民ではない。自身はもう、貴族ですらない。それでも、この少女は、誰かに護られるべき民なのだ。


 護ってやれるのは、この場に私しかいない、と白い少女の心が叫ぶ。


「さぁて、儂自ら折檻してやらねばならないな」


 伯爵が恐怖を煽る為に剣を振り上げながら、太い巨体を揺らしてゆっくりと歩く。


 恐怖はあった、それでも矜恃が勝っていると白い少女は思い込んでいた。それでも、間違いなく自身を襲うだろう痛みに目を瞑ってしまった。


「あっ…えっ?」


 痛みが襲う前に耳に届いた少女の困惑した声に、恐る恐る目を開けた。


 そこに立っているのは太った貴族ではなく、見た事のない衣服を身を包んだ人。武器を腰に差している。それどころか、武器に手をかけている。まるで、私達を護ろうとしているような、とそんな願望を白い少女に抱かせた。


「な、な、何者だ、貴様は」


 キンダー伯爵は突如と現れた闖入者に混乱を極めた。


 伯爵の問いに、闖入者と看做された銀仮面卿は伯爵の問いに答える事無く、鯉口を切り、柄に手をかけ腰を落とす。


「寄らば、斬る」


 見るもの全てに死を思わせる強烈な気配を放ちながら、銀仮面卿は言い放った。

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