橋到着
橋は、エリィート基準から見ても、上手い具合にできていた。
瓦礫の坂道を登って最初の難破船に上がると、次の難破船は横付けされており、その次の難破船との間に板が渡されていて、更にその次の難破船は横倒しの船体の側面を歩いて渡れるようになっていた。
わざわざそうなるように狙って船を並べたかのような綺麗なラインどり、実際は偶発的にできたであろう並びを、後先考え細かく微調整して道として、この橋をつくったのだろう。
本来のエリィートならば、この橋を開拓した先人へ、経緯とともに思いをはせるところだが、今のエリィートは若干不機嫌だった。
不安定な足場、湿気からか滑る床板、時折吹く海風に体を揺さぶられ、誰もが足元ばかりを見つめてこのエリィートを見ていない。
こうして輝かしいエリィートが、誰もが四つん這いでなければ通れない板の上を二足歩行で、跳ねながら踊るように渡っているというのに、どいつもこいつも目線さえ上げずに足元にばかり目を向け集中している。
やっと顔を上げたかやつがいたかと思えばそいつらは軒並み足を滑らせたドジっ子で、このエリィートに握手を求めるより先に海面に落下、慌てて難破船に泳ぎ戻ってしがみついて、それっきりだった。
みな狭い視野、目先の事ばかりで目の前のエリィートがいるという幸運に、見もしないでいるとは、なんと勿体ないことだろう。
凡人は所詮凡人、そこからどこへどうやって這い上がるべきなのかを知ることもできないのだ。
そんな凡人たちの狭い視野では見られない橋の先、見通すエリィートの目には、不快な光景が見えていた。
ほぼ一本道の橋の先、遠く離れていても目立つ色は黄色、まさかまさかかのエリィートが、順番譲り、先を行かせてしまった黄色の集団が嫌でも目に入った。
これは、ありえないことだ。
列の先頭が最も危険なのは常識、ゆえに優秀なエリィートが先陣を切るのが通例、だというのに、その逆、エリィートが後に続くという光景、これではこのエリィートがただ強者にへばりつくただの凡人かのような不当な扱い、許されることではない。
失態、もしも俺が客観的に自分を見れば、指を指して笑うところ、そう笑われてるとわかるのならばその分加速し追いつき追い越し見せつけるがエリィート、だけれどもそうせざるを得ない理由が今のこのエリィートにはあった。
振り返った先でピタリ、またチビ、立ち止まる。
あれだけあった元気は消え去り、口数も減って、それでもそこらの凡人よりもしっかりとした足取りで橋を渡りながら、だけれども黄色い連中に一定距離近くや進むのをやめて、また距離ができるのを待つのだ。
その表情に現れるは恐怖と緊張、エリィートでなくとも感じ取れる。
あの漁村でのもめ事、小さなチビには応えたらしく、黄色連中に近寄ることを避けている様子、それもエリィートが近くにいるのに、だ。
これはエリィートへの挑戦とも取れるが、心の弱さを責めるのはエリィートではない。
むしろ安心させられなかったエリィートに非はあるのだ。
……やはり漁村で揉めた時か、あるいは再開したあの休憩の時にでも、腕の一本でも刈り取っとけばよかった。
エリィートらしからぬ後悔、忘れるために深呼吸、空を仰ぐ。
真っ先に伸びるマスト、垂れ下がるロープ、はためく帆、その上に止まり、こちらを見下してくるカラスたち、不愉快にさせるものが一つ増えた。
鳥の分際でこのエリィートを見下すは傲慢、その罪を償うには死をもってしてもまだ甘く、その亡骸を業火で炙り、滴る肉汁に塩コショウで胃に埋葬され、このエリィートの血と肉となって初めて半分は許される。残る骨を湯で煮たてて出汁をとり、スープになって残り半分だろう。
そのための助力、カラスへの慈悲、何か投げつけ落とす手ごろな礫はないかと辺りを探す。
と、それを生意気にも察したのか、カラスたちが一斉に飛び立った。
同時に聴こえてきたのは、エリィートを呼ぶ声だった。
「て、敵襲だぁ!」
……呼ばれたなら、向かうのがエリィートなのだ。
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