第22話 伊織、配信デビュー

「みなさま〜、初めましての方は初めまして。見知っていただいてる方はどうぞよしなに。石動流剣術道場の師範、石動蓮華の道場破りの時間がやってきました!」


:きちゃ

:あれ、タイトル変わった?

:蓮華ちゃん今日も美しい


「ありがとうございます。実は今回から頼もしい助っ人をご用意させていただいたんですよー。ずっとお誘いしたかったんだけど、ようやくオファーが取れまして」


:へー誰だろ

:楽しみ

:今日はどこの道場を攻略するの?


「実は巫無双流を攻略する予定だったのですが、急遽予定を変更しまして」


:流石に神巫プロのところは無理かー

:あそこは総合格闘術だもんな

:組み手が強いんだっけ?

:近接以外に最近は中距離も行けるようになった

:大体太刀華のせい

:あれ頭おかしいよな

:切れ味鋭すぎる


「そうなんですよねー。うちの流派は近々距離が売りですから相性が悪いんですの」


:初見。石動流について知らないんだけど詳しく

:概要欄見ろ定期

:代々続く格闘術の名家だぞ

:戦国の時代、太刀華と雌雄を決して分家になった家だよ

:なので太刀華に武術が加わってる、その総本家が石動

:代わりに剣術を習って今に至る

:あの阿修羅戦で見せた近接術の派生元!?

:それは期待

:それで、ゲストって?


「お姉様ー出てきてくださって」

「ねぇ、蓮華ちゃん。この衣装恥ずかしいんだけど」


 出てきたのは伊織である。しかしオーラ制御などは一切せず本来の可愛らしい顔立ちがより際立つ衣装、女児服を身に纏っていた。

 20を過ぎた伊織にとってこれに袖を通すのは羞恥以外の何者でもない。

 若干恥ずかしそうにしながら蓮華に擦り寄る姿はどう見ても親戚の姪っ子の他ならず。撮影中に紛れ込んだハプニングとしか思えなかった。


 しかしゲスト。お姉様と呼ぶような人物像とはあまりにもかけ離れたギャップはより強い興味を惹かせる。


「お姉様、自己紹介をなさってください。その姿でもお似合いですわよ」

「えー? あ、橘栞です。この前テレビに兄さん出てたよね。その妹。不束者ですけど、よろしく」


 女児服の問答をしている時に突然の自己紹介を振られ、適当な挨拶をする伊織、もとい栞。未だに慣れない服に困惑している様子がカメラの前に晒されていた。

 それも含めてちょっと嫌そうで。


:え、橘って太刀華?

:このちっちゃい子をお姉様呼びは無理があるでしょ


「このお姿は本来のお姿ではありませんのよ」

「え!? そうなの!」


:本人がめちゃくちゃビビってんのおもろ

:さては蓮華ちゃん、アフレコしてないな?

:でもお兄さんって言ってたし

:じゃあ須佐之男命を討伐した子って?


「あ、うんそれは僕だね。スーちゃんは強かったよ」


:あーー! 本物だ!

:スーちゃんて?

:やっぱり女の子なんだー

:そりゃ須佐之男命だろ

:あれで男は無理があると思った

:なんだよついてないのか

:スーちゃん呼びなのか

:なんか想像できないな


「あれはスーちゃんの本気モードで、普段のスーちゃんはもっと可愛らしい姿だったんだよね。僕より背もちっちゃくて、声だって僕より甲高かったんだよ? だから女の子なのかなーって。可愛いなーって。だからスーちゃんて呼んだんだ。本人は頑なに否定してたけどね」

「お姉様にとってはそれほどの強者ではなかったということですか?」

「ううん、強かったよ。僕が本気を出してようやく追いつけるほど。寿命も少し縮んだかな? 全てを出し切らないと倒せない相手だったよ」

「太刀華の本気は文字通り命を削りますからねー」

「そうなんだよー、おいそれと使えないっていうか」


 和やかな雰囲気で、物騒な話題を振り撒く蓮華と伊織。

 それを聞いたリスナーたちは、住んでる世界が違うなと肌で感じ取っていた。


「それでですね、今回は道場破りを取りやめまして。本題であるダンジョンアタックに挑戦していこうと思っています」

「えー、道場破り楽しみにしてたのに」

「残りは巫無双流と橘流くらいだったんですよね」

「じゃあやめておいた方が無難かな。僕蓮華ちゃんと敵対したくないし」

「はい」


 伊織にとっては死活問題である。

 生活を裏からバックアップしてくれた石動と、さらには理想の男欲を満たしてくれる巫無双流。どちらかを失うなんて伊織の中では想像できない。


「それで今日はどこ行くの? 少しは遊べるところがいいな」

「そう言うと思いまして。今日は祠付きの高難易度ダンジョンにアタックしようと思います」

「ああ、スーちゃんのご同胞がいるかもしれないっていうあの?」

「そうですそうです」

「いいね、面白そうだ」

 

:どんな見た目をしててもやはり太刀華は太刀華か

:キャッキャしてる時は可愛いのに、あれがあんな修羅になるのか


「あ、お姉様には私の修行の成果を見ていただいてからのご登場となりますからね?」

「えー!」

「だってお姉様はいまだにランクF。本来なら荷物持ちとしての参加ですのよ?」


:太刀華をあのランク制度に当てはめるのは無理でしょ

:全部対消滅するもんな

:魔石すら落とさないのはバグでしょ

:敵対したくない筆頭


「みんなしてひどくない? 僕は世のため人のために頑張ってるのにさ」

「世の中、自分の中で認められないものは総じて化け物と呼ぶ風潮がありますもの」

「じゃあ、僕も?」

「私には可愛らしいお姉様ですけどね」

「ねぇ、僕可愛いって言われて喜ぶと思われてる?」


:そんな可愛い服着て可愛く思われたくないと言うのは無理があるでしょ

:メイクもバッチリ決めておいて?

:草

:でも阿修羅を瞬殺してた子なんでしょ?


「あれの真髄は石動にありましてよ。口伝、秘奥義。色々と言い方はありますが、本日はその一端をお見せできればと思いますわ」


:楽しみ

:いつも一瞬で決着がつくからね

:じゃあその間栞ちゃんは?


「私がどのような動きをしたかの解説をして貰えばと思います」

「いいよー」


:大丈夫? ちゃんと解説できそ?

:きっとギュイーンとかグォン!とか言うぞ


 栞は内心でダメなの? と驚きつつも「言わないもん」と言葉を締め括った。

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